狐人兄弟の処罰
気づけば40話。
気づけばPV50000越え、ユニーク10000越え、ブクマも150越え。
お気に入りにして下さった方も、目を通して頂けた方にも感謝します!
マイペースですが、今後もよろしくお願いします。
『失礼します。アキラさま。お時間になりましたので、お迎えに上がりました』
事件解決から数日たち、城内の雰囲気もアルバンの過保護ぶりも落ち着きを取り戻しつつあるこの日、俺の部屋へ訪問者が来た。
「入っていーよ」
俺の声に従い、部屋の中にいた侍女が扉を開ける。
ソファの上で寛いでいた俺の前に姿を現したのは、新たについた護衛騎士のベセルさんだ。
なんと!女性の護衛騎士なんだせ!
栗色ショートカットのスレンダー美人さんだ!
なんで、ベセルが俺の護衛騎士になったのか。
ぶっちゃけ、ラウニが復帰してないからだ。
それに、ラウニだけだと護衛が足らないからってのもある。
護衛騎士っつーなら、男の方がいいんじゃないかと思ったんだけど、アルバンにそう言ったら何か不機嫌そうな顔をした。
意味わかんね。
「アキラさま?どうなさいました?」
ベセルをぼーっと見ていて、訝しまれた。
「……やはり、お止めになりますか?」
頭の中でパチンと何かが切り替わった。
そう。
今日は、大事な日なのだ。
ベセルの美貌に浮かれている場合じゃない。
「行くよ。俺がお願いしたんだし」
きゅ、と顔を引き締めて、俺は立ち上がった。
よろしいので?という顔をしたベセルは、俺が軽く頷くとすっと護衛騎士の顔になった。
「かしこまりました。ですが、頭巾のついた上衣はお召しください」
「え?」
「アキラさまは目立ちます。そもそも本来ならくるはずのない者が現れれば、現場の者が動揺致します」
「…わかった」
んな馬鹿な、と思ったけど、前に訓練所行った時に似たような事をネイトに言われたっけな。
侍女がベセルとの会話から、地味なフード付きコートを持って来たので身に付ける。
それを見て、ベセルはうなづいた。
「…それでは参りましょう」
ベセルに先導されて、俺は王城内を歩く。
行く先は、刑場だ。
今日、俺を拐った狐人達に刑罰が科せられる。
それに立ち会わせて欲しいとアルバンに頼んだのだ。
『立ち会いたいんだな?』
心配そうな顔を見せたアルバン。
だが駄目だと言わないのは、守られているだけじゃ嫌だという俺の気持ちをちゃんと聞いていてくれたからだ。
素直に嬉しい。
だから、自分で言い出した事はきちんとしなきゃな。
事件の主犯は死んでいる。
狐人は主人の命令で少女達を拐ったとはいえ、ライザールの乙女を拐い侍女を害した。
しかも、オルザム邸の周辺をも調べてみれば、行方不明者の遺体が土中から発見されたのである。
狐人らは自ら自分達の罪を認めていたし、遺体についても素直に話した。
遺体は元神官の老人だった。
彼らは少女と同じように神官も拐っていたのである。
ある村の教会にて神官として勤めていたが、年をとり、次世代と交代した後は隠居していた老人だという。
死因は老衰と狐人は言ったらしい。
遺体検分も行われたが、死因となるような外傷や、怪しい内傷などもなく、狐人の証言は正しいと判断された。
そんな狐人らの罰だが。
まず、彼らは【永久奴隷】となった。
奴隷制度が当たり前にあるのは複雑な気持ちになるが、それはともかく奴隷にも色々あるらしい。
自分の意思でなる身売り奴隷。
戦いによって勝者が敗者を処分する捕虜奴隷。
罪を犯した者が罰としてなる犯罪奴隷。
他にも不埒者が金を得るために売買の道具にされた奴隷などもいる。
奴隷の中でも犯罪奴隷は罰としての役割があるため安易ではないが、それでも殆どの奴隷には身分から解放する条件の用意があるという。
善い主人に巡りあえば、奴隷から平民になれるようだった。
だが、【永久奴隷】はそれもない。
永久奴隷の証となる焼き印を押され、死ぬまで奴隷の身分からは解放されない。
そして、【鉱山での強制労働】。
ライザールは山の国であり、あちこちに鉱山がある。
掘削を得意とするものがそれぞれに派遣されているが、重労働ゆえに働き手が増える事にこした事はない。
彼らが送られる先は、その中でも厳しい環境の鉱山となる。
地熱が高く暑さで体力を奪われる場所、周囲匂いが強く長く留まるには危険な場所などに送られるようだった。
更に【身体刑】を行う。
これが、俺が立ち会うと言った刑で、焼き印とは別だ。
俺が見なきゃと思ったこの世界の常識の一つだ。
「アキラさま。着きましたよ」
円形に敷かれた石畳の地面を囲うように高い板壁が周りを覆い、その石畳の端に小さな水路が作られていた。
俺の周りには木柵が囲うように設けられている。
部外者というか、見学者はこな中のスペースにいろってことかな。
俺たちが来た出入口の反対側にも鉄柵で出来た扉があり、隙間から見える通路は下っているように見えるから、地下牢に続いているんだろうな。
刑場には、まだ狐人らはいない。
ううん。
同じ木柵内スペースに、深緑の衣装を着た獣人が立っていた。
「シクステン」
気配に気づいてたのか、シクステンは俺を見ていた。
ベセルは警戒したが、俺の知り合いだとわかるとさっと後ろに下がり、壁に添って待機している。
ー出来た護衛騎士だ。
「来たのか」
「うん。俺が頼んだからな」
「王子は?」
「来ねーよ。……俺が頼んだからな」
ぱちぱちっと瞬きして、シクステンは指でメガネの位置を直した。
何か言いたげな気もするが、一応俺が来た理由は知ってるってことかな。
「シクステンはなんでいんの?」
「一応、仮の主人契約を結んでいるからな。見届けも兼ねている」
「そっか」
一瞬無言になる。
うーん。
折角だから聞いてみるか。
「なあ、シクステンはわかる?あの、水路」
「水路?」
「なんで、水路があんのかなーって思って」
シクステンは水路に視線を送ると、一瞬口元を引き締め、おもむろに足先で軽く地面を叩いて何かを確かめた。
「ほんの少し、水路の方へ地面が傾いているな。推測だが、ここで血が流れたら、水路から水を汲んで巻き、汚水も水路へ流れるようになってるのではないか」
「え、マジ?聞かなきゃ良かった。……あー。でも、これからそれを見るんだから、そう言っちゃ駄目だよなー」
「……お前は本当に変わっているな」
げんなりしている俺を、シクステンは無表情で見る。
「そら、どーも」
「褒めてはいないが」
「そんな事はわかってるって。うまい返しがわかんないだけから、あんまり深く考えないでくれる?」
「そうか」
真面目さんだなぁ。
調査官だからかな?
鉄柵扉から、がちゃがちゃと物がふれあう音と、声が聞こえる。
鉄柵扉が開き、執行者らと治癒師らが下働きをつれて現れた。
下働きが薪を汲み上げ、松明で火をつけ焚き火をつくる。
小さな台が二つ置かれ、一方には治癒師の助手らが布やら水桶らが並び、もう一方には数本の剣やら斧やら布が並べられていく。
……お、おおう。
小説やゲームの中の「刑罰」が段々リアルとしてじわじわと心に入ってくる。
そーだよな。
ゲームじゃ、ない。
石畳の上に三枚の板が並べられ、治癒師らは自分達が用意した道具の側に並ぶ。
下働きらは武器が並んだ台の側に並んだ。
執行者らは……って、うぇいっ!
剣や斧を手に取り、焚き火に当て始めたよ!
火の灯りが下から執行者らの顔に当たって、ちょっと怖いんですけどー!
知らぬうちに、シクステンにちょっと寄っていた。
鉄柵扉の向こうから、今度は金属が触れあう音と足音が聞こえてくる。
そして、兵士に連れられた狐人が現れた。
「シクステン、あれ…」
話しかけると、シクステンは素早く俺の口を手の平でふさぎ、俺を見て首を横に振った。
しゃべるな、ということらしい。
俺にとっては初めて見た、狐人の兄弟は正直いって罪人に見えなかった。
黒髪が兄で金と白が双子。
三人とも目隠しをされ、首に魔術封じの枷、後ろ手に鉄枷をつけられ、足首にも枷をつけて鎖で繋いでいた。
兵士に引きずられるように、並べられた板の上に膝をつかせられる。
下働き達が布を手に取り、更に三人に猿ぐつわを咬ませはじめた。
「……匂いがする。拳使いがいるんだろう?」
双子はすでに口を塞がれていた為、髪と同じ色の耳をぴくぴくさせた。
口を塞ぐ前に呼び掛けた兄を兵士が殴りそうになったが、シクステンが手で制した。
「何か言いたい事があるのか」
「感謝を。死を免れた」
「私は何もしていないから、感謝は受け取らない。それに、これは死より重い罰になり、恨む事になるかもしれないぞ」
「……なら尚更今受け取ってくれ。後に恨み牙を向いたときの為の武器としろ」
「勝手だな。この期に及んで、我を通そうとするのか」
「最後の機会だしな」
「そうか。なら、預かろう」
あくまでも受け取らないシクステンに、狐人兄の口元が笑うように歪んだ。
「もう一人、知ってる匂いがいるな」
「無視しろ」
思わずといったように、シクステンは俺の前に腕を出す。
あ、知ってる匂いってのは、俺か。
「ーそうか。ならばひとり言だ。……すまなかった」
応えようとして、再び口を塞がれる。
え?なんで駄目なんだよ?
「もういいか」
「ああ」
シクステンが話を終わらせ、狐人兄は双子と同じように猿ぐつわをかませられる。
いよいよ【身体刑】が始まる。
【身体刑】とは、身体の一部を害する刑です。
本来は焼き印もその一つのようです。
書くつもりでしたが、自分も嫌な気持ちになるので詳細は省きます。
※【ひと休み】に「なんでもない日(初夏)」が入りました。
本編には関係ありません。短いです。