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救世主は花嫁候補!?  作者: せりざわなる
第三章 救世主、考える。
35/83

面接

会話回です。

王城内応接室、朝食後。


侍女達によって不機嫌を隠そうとしないアルバンの前に案内……じゃなく連行された。

促されるままソファに座ると、素早く侍女達は部屋を出ていく。


あ、これは。


嫌な展開を察した途端、ガシッと頭を手で掴まれる。


「お前という奴は………っ!」

「あだっ!あだだだだだだっ」


アルバンの大きな手が、頭のてっぺんをつかんだその指先に力が込められていく。


「心配させるなとあれほど言っているというのに」


つかむだけじゃなく、上から押さえつけてくる。

最近、容赦なくなってきたなぁっ!


「城の中じゃねーかよ。心配する必要なんてねーだろ?」


ふっと頭への力が抜ける。

ほっとしてると、隣にドスンと座ったアルバンはぎゅーっと俺を抱き締めてきた。


「馬鹿者。その城からお前は連れ出されたばかりではないか」


胸元にすっぽりおさまっているため表情がみえないけど、アルバンの激昂は鎮まり耳元で囁かれる声は少し震えているようだった。

気づけば、腰を抱える手も震えている気がする。


「無論、ここがお前にとって安全であるように努めよう。しかし、お前は自由に動き過ぎる。もう少し、自分の価値とこちらの事を考えてくれ」


とっても真摯な声に、俺は思考が停止した。


えーっと。

えーっと。

うん。

悪かったよ。

正直、俺の価値ってのはピンと来ねーけど、まあ、すっげー心配かけてたんだなぁっつー事は………ちょっとだけ、な。


言葉にするには上手く伝わらない気がして、背中をポンポン叩いた。


と、同時に応接室の扉にもノックの音が響く。


『アルバン様。お客さまが参りました』

「……少し、待て」


少しの間を置いてアルバンは俺を解放し、ソファに座り直させた。

服をしわを伸ばし、髪を指ですくって優しく整えていく。

まるで人形になったかのようだ。


「アキラ。お前にも正式に紹介したい。捜索にも協力して頂いた事だし、今朝も世話になった」


今朝?

アルバンは立ち上がり、自分の服も整えた。

そうして入室の許可を出す。


開かれた扉から、侍女に案内されて来たのは中庭で出会った男だった。






「先程は失礼した」


向かい合って座る黒髪の獣人は、まっすぐ俺を見た。

俺はその視線を受け止める。

なんで、叩いたのか理由ぐらいは聞かせてもらえるんだろーな?

あの時、この男は俺の腕を掴んで立たせると、問答無用で引きずるように歩きだしだ。

ちょうど俺を探し回っていた侍女達に出会うと、『捕獲した』とポーンと投げ渡したのだ。

獲物じゃねーっての。

きっ、と視線を男にやっても動じない。

ちえっ!


アルバンは俺の様子を見て、なだめるように軽く肩を叩く。


「アキラ。何か言いたい事があるようだが紹介をしよう。神変調査官のシクステン殿だ」


神変調査官という職業の内容と、完全に職種は独立していて世情に関与しない代わりに王族など頭を下げる必要もない特別な身分であるについて一通りの説明をうける。

そして、俺が誘拐された事件の協力者であの場にもいたということも。


いきり立ってた気持ちが、しゅるしゅると静まってくる。


「そっか」


立ち上がろうと思ったけど、相手も座っている。

俺は、ソファから降りて膝をついた。


「!?」

「アキラ!?」

「助けてくれてありがとうございます」


土下座までいかなくとも頭を下げた俺に、アルバンは止めさせようと肩にふれ、シクステンは目を大きく開けていた。


そーいや、アルバンにもちゃんと言わなかったな。


俺はそのままアルバンに向き直り、同じように頭を下げた。


「アルバンもありがとう」

「よせ!」


アルバンは焦ったように俺の前で身を屈め、両脇の下に手を入れ、ぐいーんと身体を引き上げる。

そのまま、ソファの上に戻された。


「気持ちはわかったから、無闇に膝まづくなくていい!」


……?

どうやら、膝まづいた事に驚いたみたいだ。

あー。

確かに、土下座とかわかんねーよな。


「乙女は……変わっているのだな」

「えーっと。シクステン、さん。感謝はしてるんだけど、アキラと呼んで欲しいです」


シクステンはちらりとアルバンを見た。


「良いのか?」

「アキラが言うなら仕方ないだろう」

「なんで、アルバンが聞かれるの。っつーか、俺が乙女とか呼ばれるのは嫌なの。なんか、気持ち悪い…」


あ、お客さんの前だった!

つい、アルバンにいつも通り話しかけてしまって気づく。

アルバンも「馬鹿め」という目でみている。


「シクステンさん、俺、身分とかよくわかんないし、言葉遣い悪くて……その、ごめんなさい」


もう今更だし、これも失礼かなと思いつつ謝れば、シクステンは笑った。


「身分については、私も王子も一般的には高い身分だが、互いでは比べられるものではないし、君もいって見ればそうだろう。言葉遣いや振るまいについてはすでに知っている。公式の場ではダメだが、私個人とすれば不思議な事に不愉快ではないから、気にしなくていい。今更なのだから、普段通り話せばいい」


先日暴れまくった時にいたんだっけ。

まあ、そう言ってくれるならそれでいっか。

助かるし。


シクステンは眼鏡の真ん中を指で押さえる。


「王子。事件の事も今朝の事も名前の事も、とりあえず今はこれまでとしてよいか。私がこの国に来た理由を乙…アキラに話しておきたい」

「そうだな。話を進めよう」


シクステンもアルバンも身を正して表情を引き締めた。

もちろん、俺も。

日本人だから、空気は読むぜ。


「アキラ。私は神変調査官だ。その私がこの国に来た理由はわかるか?」

「俺?」

「そうだ。君がこの世界に呼ばれたのは明らかに神変であるからな。しかし、それについては報告書はもうすでに上がっている」

「…そうなの?」


アルバンを見れば、こくりと頷いた。


「お前はしばらく目を覚まさなかったが、 その間に事象については調査官が来ていた。その時はシクステン殿ではなかったがな」

「じゃ、俺にその時に出来なかった事情聴取に来たわけ?今頃?」


シクステンは首を横に振る。


「ある意味ではそうなのだが、私はまた別の神変調査でこの国に入り、君の話を聞きたい」

「神変?」


神さまの関わったような出来事ってあったっけ?

冒険者がいるんだし、ラウニの治療でも使ったって聞いたから魔法はあるんだろうけど、神変ってやつじゃあないよな?

じゃあ、あの事件か?

でもさっき、その話はこれまでっていってたよなぁ。


「……俺、なんかした?」

「したかも知れない。しかし、気づいてないのかも知れない。まずは調査内容について話そう」


シクステンは調査すべきと判断した事象について話した。

そして、そのきっかけとなったザルビナ国についても。


「アキラ。君の召喚がザルビナと関係がないのならないでかまわないのだ。ただ、そうだと証明するためにも調査しなければならない」

「へえ」

「協力願えるだろうか」

「いいけど?」


シクステンは俺の返答に少し戸惑った表情をする。


「え?何?」

「良いのか?」

「何が?」

「アキラはこの世界の者ではないだろう。そちらの規則なり何なりあるのではないか?」

「そりゃあるに決まってるし、言えないことだってある。だけど、俺だってそれなりに考えてるわけだし、全部話すなんて気もない。言ってもわかんないだろってもんもあるしな。何が気になるわけ?」

「…そうか。無用な心配だったな」


心配?

心配してたのか。

なんの心配かはわかんないけど。


「では、聞く。アキラは神に導かれこの地に来たわけだが、何かを託されたか?ものでも力でも言葉でもかまわない」

「言葉?それなら何かお願いされたな。力を貸してくれって」

「出来れば詳しく」

「詳しくって言っても。お前力が必要だ、貸してくれって。その後、何か助けてって感じの大勢の声が聞こえてさ。うるさいし、まとめて面倒みてやらーって言ったかな?」

「大勢の声?」

「この世界の人々の声だと思ったんだよ。っつーか、ライザールの国の人々だったのかな。まあ、こんなに困ってんだったらいいかぁってな感じで」

「そうか」


シクステンは腕を組んで何かを考えているようだったが、俺は気になった事を聞いてみる。


「そーいやさ。俺を呼んだ神さまってやっぱり女神さま?」

「ん?ああ。根の女神のはずだ。アキラが現れたのも根の神殿だったからな」

「あー良かったなぁ。やっぱり、話すにしろ会うにしろ女神さまが断然いい」


つい嬉しくなって、ソファの背もたれに寄りかかり体勢を寛ぎモードにすると、訝しげなシクステンの視線に気づく。


「神さまも威厳を大切にするのかな。最初は男の声だったんだぜ?女神の声で聞きたいって思ったら女の声になったんだけど、あれは女神さまがわざと男の声で俺に話しかけたんだろうな」

「……男の声は最初だけか?」

「急にお願いしたからじゃねぇかな。ほぼ同じような事を交互に言ってた。男の声を女神さまが言い直したしたみたいな」


シクステンがじっと見つめて来るので、俺は調子に乗って喋ってしまう。


「確かに男の声の方が厳格っつーか、無情っつーかちょっと怖かったな。言い方も【契約はなされた】ってかったい言い回しだったし」

「!!」


男のままだったら迷ったかもなぁ、と俺はふんふんとご機嫌でいたが、シクステンは表情を固くした。


「ーもう一つ、聞く。召喚の神変調査報告書には、君自身は特別な能力もなく普通の娘と変わらないようだとあった。違いないのか?」

「ん?うん。もちろん。元々、俺の世界じゃ魔法とかないしね。異世界に召喚されたらチート能力手にいれてたとかっていうのは、物語じゃあるらしいけどねぇ?」


俺は、立ち上がってその場でピョンピョン飛んでみる。


「んー。変わってる感じがしないなぁ。やっぱし」


いや、性別は変わってるよ?

でも、そこは置いて置こう。

ややこしーから。


「…力を貸せと言われて協力、か。だが具体的な内容なしに契約?ザルビナともライザールとも出てはいないが…」

「シクステンどの。アキラは我がライザールの祈りに女神が応えて遣わされた乙女だ」


思考をまとめるように呟くシクステン。

するとそれまで静かに同席をしていたアルバンが口を開き、俺の腰を捕らえて引き寄せる。

引き寄せられた先で座らされた場所はアルバンの膝の上。


おい、コラ。

お客さんの前でなにやってんだ!


降りようとしても、アルバンは許さない。

それどころか俺の足を捕らえて膝の上に横座りにさせて、がっちりと抱え込んだ。


「アルバン!」

「私の婚約者だ」


って、頬をすりすりくっつけて来るんじゃない!

各国の使者へ婚約アピールの時にふりでやったけど、シクステンは違うだろ!

殴ってやろうかと思うが、さすがにシクステンの前では気まずくて戸惑っていれば、アルバンは調子にのって、すりすりやら頭なでなでまでしてきやがる。


なんでこーなってる?

くっそ、後で覚えてろよっ!


「私が調べるのは神変のみだ。どういう結果に終わるかわからないが、それで決めるのは彼女だ。彼女の意思で王子の側にいるなら、それで良いのではないか。私が意見することではない」


シクステンは少し表情を優しくして告げれば、俺を抱き込むアルバンの腕の力が緩んだ。

だからといって、腕の中から抜け出そうとしたら、それは許されなかったけれどなっ!


まったく、いきなりどーしたってんだ。



なんとか年内更新できました。

仮タイトルは「圧迫面接」だったのですけど。

あれ?

ということで、面接のみです。



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