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救世主は花嫁候補!?  作者: せりざわなる
第二章 救世主、眠り続ける。
24/83

転生者の懺悔

暴力、強姦未遂表現が入っています。

お気をつけ下さい。


気づいたら目の前には大狐が倒れていて、私は少年の腕の中にいた。

『食べられる前で良かったよ』と剣を血に染め、ほっとした表情で大人が視線を向けたけど、逆に私は悲しくてたまらなくなってくる。


……ママ!


私は人で、今まさに同族と出会い、育ての親の命が尽きた事を認識できた時、頭の中で今までの記憶が巻き戻しのように甦ってきた。


大好きなママとの生活。

棄てられた森で、初めてママと会った時の事。

1度目の死の瞬間。

その前までの、こことは違う【日本】での生活の事。


でも今は悲しくてボロボロ泣いてる私を、大人達は『可哀想に。怖かったんだねぇ』と声をかけるが、少年は違った目をしてぎゅっと抱き締める。

背中を撫でて、ポンポン叩く手はとっても優しくて、私はすがり付くように首に抱きついた。


それが、私とお兄ちゃんとの出会い。


お兄ちゃん達は冒険者だった。

大狐のママを倒したのは、依頼仕事からの帰り道だったみたい。


森の中を全裸で歩く幼子。

保護しようと近づいた途端に現れた、狂暴としられる大狐。


ー幼子が危ない!

ー大狐を倒せ!


その時はそんな事情もわからないまま、私はお兄ちゃん達に保護される。


最初は、ママと過ごした為に、意思疏通が取れなかった。

喉は、声と言うより音を出す為にしか使ってなかったから、言ってる事が何となくわかっても返事が伝わらない。

そんな中で、お兄ちゃんだけが私の意思を察してくれたのだ。

だから、私はお兄ちゃんに頼った。

まとわりついて、離れなかった。

『なつかれたな』と大人達は少し呆れていたけど、いつだって優しく抱き上げ頭を撫でてくれた。

そして、初めて人として『にーちゃ』と言えた時、本当に本当に嬉しそうに笑ってくれたのだ。



その笑顔に、私は恋に落ちた。




お兄ちゃんは冒険者としては見習いだったのだけど、魔物に育てられた私といち早く意思疏通ができたと言うことで、召喚士としての道を選ぶことに決めたようだった。


私が保護されて2年。

人の年なら7歳くらいになっただろうその時、お兄ちゃん達は大きく移動する事に決めた。


今までは、1つの場所を拠点としてその国内を移動して依頼を受けていたのだけど、その殆どの理由が私だったと思う。

変わらず私の中心はお兄ちゃんだったけど、今は不便なく意思疏通は出来たし、他の誰かと一緒にいることにそれほど不安を感じないようになっていた。


べったりな庇護下からの卒業。


寂しかった。また棄てられた気分だった。

でもお兄ちゃんは召喚士として成長したいと望んでいたし、人としてやっと始まったばかりの私は足手まといにしかならない。

だからぐっと我慢して、これからお世話になる孤児保護院の院長と並んで見送ることにした。


『お兄ちゃん。行ってらっしゃい』

『ああ、いっぱい鍛えて強い召喚士になるよ』

『いつか戻ってきてくれる?』

『ああ、必ず』


私がお兄ちゃんに手を伸ばすと、いつものように自分の首に私の腕が巻きつけられるように、身を屈めてくれた。

遠慮なく巻き付ければ、お兄ちゃんもぎゅっと抱き締めてくれる。

お兄ちゃんだけに伝えたくて、私は囁く。


『お兄ちゃん、大好き』

『私も大好きだよ』

『いつか私をお嫁さんにしてね』

『……テア!?』


お兄ちゃんは私の顔を見ようとしたけど、私はぎゅっと抱きついたまま。

恥ずかしかったけど、聞かなかった事にはさせないからね!


『お兄ちゃん、約束して』


お兄ちゃんは体を強ばらせていたけど、息をついてぽんぽんと背中を叩いた。


『お嫁さんの年になって、テアが私を忘れないでいてくれたら…今度は私から言わせてくれるかい?』


未来が開けた。明るくなった。

私は嬉しくてうんうん頷くしかない。

お兄ちゃんは頭を撫でてくれて、いつしか流していた涙を拭ってくれた。


そうして、お兄ちゃんは仲間と旅立ち、私は新しい生活を始める。


保護院の生活は楽しかった。

院長はおばあちゃんで優しかったし、近い年の仲間とワイワイ色んな作業や遊びをすることも楽しかった。

お兄ちゃんは何回か手紙をくれたけど、本当にあちこち冒険しているらしくて、手紙自体が汚れていたり内容が時季違いになって届く事も少なくない。

それに加えて、出会ったあの日を誕生日としてくれたお兄ちゃんは、毎年その日近くなるになると忘れず贈り物をくれた。


残念ながら、移動の激しいお兄ちゃんに、こちらから手紙を送る事はできない。

それでも。

お兄ちゃんが私を忘れずにいてくれるのに、心が変わるなんて事が起きるだろうか。

それどころか想いは募るばかりだ。


誕生日に届く贈り物は、玩具や置物といったものから、装飾品へと変化している。

これも、お兄ちゃんの中で、いつまでも私は子どもではなくお嫁さんになれる娘へと変化している証拠に見えて堪らなかった。


本当に、どこまでお兄ちゃんを大好きにさせてくれるの。


そして、体にお嫁さんになれる証がでるようになってから数年、初めて誕生日にワンピースが届いた。

『1度、そちらに帰るからね』とうれしい一言を添えて。

私は(多分)14になっていた。


お兄ちゃんが、帰って来てくれる。

お兄ちゃんが、迎えに来てくれる。

私は浮かれていた。



でも、終わりは突然来る。



『このくそ生意気なガキがぁっ!』


男は冒険者だった。

そこそこ腕もあり、その日も依頼を無事にこなして報酬を得ていたし、まずまずの一日はずだった。

ただ、酒が入った事で最悪を起こすことになる。


14になれば、保護院の中でもずっと大人に近い。

私は敷地内の畑で収穫作業をしていた。

保護院は冒険者ギルドや商業区域とは離れていたし、侵入防止柵も強化されたものではなかったが、保護院を訪れる者は殆どいず、特に危機は感じていなかった。


酒臭さに気づいた時には、後ろから捕らわれていた。

それが男だとわかる暇もなく、口を塞がれ胸を鷲掴みにされる。

『まだ固いが、これはこれで楽しめそうじゃねえか』と欲情した声が耳元で聞こえ、押し倒されるた。

体を強く打ってその衝撃に耐えてる。

男が、服の胸元をつかんで一気に裂いた。


嫌だ!


めちゃくちゃ暴れた。

めちゃくちゃ叫んだ。

男が上に乗っかろうと、平手で頬を打とうと、止めなかった。


『この……っ!』


男が罵倒した。


負けない!

私はお兄ちゃんのお嫁さんになるの!

お兄ちゃん以外の人に、触れさせないんだから!

離してよ!


口を塞ごうとした手を噛みついてやったら、もう一度頬を平手打ちされ、息がつまった。

首が強い力で押さえられていく。


離してよ!


私はどこまでもあがいた。

だけど、力はますます強くなっていって。

そして、終わった。


……………

……………


終わったはずなのに。

何故かお兄ちゃんの存在に気づいた。

体は動かないけれど、昔と変わらず優しい手で、私を撫でているとわかる。


最初は微かな気配だけだった。

何度か暖かい力を浴びて、気配を強く感じるようになる。

同時に、お兄ちゃんの気配は何だか歪んでいくように感じていた。

そして、若い女の子の気配も感じるようになる。

女の子の気配は何度も感じたけど、その度ごとに少し違っていたし、何よりもお兄ちゃんの側に私以外の女の子がいる事に不安になった。


お兄ちゃん、どうしたの?

何だか怖いよ?


暖かい力を浴びる事も繰り返され、やがて気配は視覚的に捉えられるようになってきた。

お兄ちゃんをようやく見れる。

ワクワクしてその時を待ったけど、悲しい意味で驚く事になる。


ーお兄ちゃんは、混ざり者になっていた。


お兄ちゃんは召喚士として力をつけたけど、最後の最後で堕ちてしまった。

冒険先で契約を交わして捉えた夢魔を、食べてしまったのだ。


誕生日に貰ったワンピース。

あれに、私の夢や想いがいっぱいこもっていた。

肉体から離れて、また転生の流れに入ろうとしていた私は、半分夢魔になったお兄ちゃんの力によって夢と繋がれ、その衣に留まる事に成功する。


お兄ちゃんは、更に堕ちていく。


贄の少女を浄化して、衣を着せて夢で繋ぎ、私と魂を入れ替え、この世に甦らせようとした。


正直、そこまで堕ちて想ってくれたのは嬉しかった。

しかし、夢は夢魔の領域であり、快楽に落とすのは夢魔の本能。

わかっているけど、魂交換の障壁を溶かす為に、贄ね少女にその術を施しているのを見ているしかないのは辛かった。

繰り返される度に辛くなって苦しくなっていく。

やめてと伝えたかった。

全ては私が理由なのに。

私はもう、こんなお兄ちゃんは見たくなくなっていた。



試みは、何度も失敗する。

でも、お兄ちゃんは諦めない。

成功するには何が足りないのか。


だが、【ライザールの乙女】が贄に選ばれた時、それは判明する。


乙女が私を身に付けた時、今までで一番馴染んでいるように感じた。

お兄ちゃんも、驚くほどすんなりと夢を繋げられたようで、直ぐに術を施し始めた。


快楽を呼び起こすには、過去の体験からが手っ取り早い。

そうして引き出された乙女の記憶に、私はこんなに馴染む理由を見つけた。


彼女は……いえ彼は、私と同じ【日本】の人。

同じ世界で生まれた魂の人。


そしてそれが、成功の条件。




お兄ちゃんは、事が成される予感に気持ちを高ぶらせている。





でも、駄目だよ。


全ては私が悪いんだよ。

恨んでもいいよ。


お兄ちゃん。

本当に、ごめんね。


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