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救世主は花嫁候補!?  作者: せりざわなる
第二章 救世主、眠り続ける。
22/83

指し示す方向

ようやく来ました。

主人公が出ない話はここまでです。

「ありえないわよねぇ」


大きな音を立てて、酒の入ったマグがテーブルに置かれる。

ぴく、と瞼を動かしたクライブは、静かに酒を飲んでいた。


「いくら、こっちの依頼が手間のかかるもんだからってさあ!」


ギルド近くの酒場。

クライブ達はまだ調査中であったが、セリノやテオと1度合流するためにギルドに戻って来ていた。

しかし、ギルドに確認してみれば、セリノとテオはすでに追加依頼を終わらせ、新しい依頼を受けてギルドを離れていたのだ。


「なんなのよ。なんでテオがいないのよ!いつまでも、こんなのとふたりっきりなんて嫌よ」

「お前な」

「セリノったら、お兄ちゃんぶっちゃて、かわいい弟の為にまた1つ依頼を受けちゃったのかしら」


リーシェが特別に見せてもらったセリノ達の新しい依頼は、オルザム邸の客人を護衛する事らしい。

依頼先からの直接指名追加依頼。

よくある事だが、クライブは唸った。

らしくないのだ。

確かに、自分達は組んでいるが常に一緒に依頼をこなしているわけではない。

そもそもチームは、寄せ集めみたいなもの。

だか、その核はテオなのだ。

セリノ個人が判断して依頼を受ける事は別にいい。

ただ、テオの為に頻発に情報は交換しあっている。


「リーシェ」

「あうんっ!」


管を巻きはじたリーシェの額を、グライブは軽く指で弾く。


「セリノからの伝言はなかったのか」

「なかったわよぅ」


ますますおかしい。

セリノは自分達と違って、出会った当初はテオを掌中の珠の如く慈しんでいた。

当然、グライブやリーシェに対しても1枚も2枚も壁を隔ていたのだ。

時を経て、ようやく彼から「テオの為になる者」として信頼を得て来たのである。

だからテオと離れる依頼も受けるようになったし、その間テオを預けてもらえるようになったのに。


「なあ、リーシェ。もう一度ー」



「お前達が、少女失踪事件調査の依頼を受けている冒険者か」



クライブとリーシェは、飛び下がった。

テーブルと椅子が激しく音を立て、周りの客が驚いた表情を見せる。


そんなことより。


クライブは声をかけてきた人物を見る。

気配を感じなかった。

ちらりと横を見やれば、リーシェも気づいて居なかったようだ。


白い胴着に手甲、膝までのブーツに外套を纏った黒髪の獣人の男。

猫人…?

ならば、ここまで接近を許してしまった理由もわかる。

猫人は隠密行動に優れているからだ。

逆に狼人のクライブは匂いや音や気配を察知するのに優れているが、向けられるのが殺気でなければ普段はある程度遮断している。


「すまない。警戒させるつもりはなかった」


男は両手をあげ、戦意がないことを示す。


「私の名はシクステン。お前達に聞きたい事があってきた」


シクステンの仕草に、リーシェは問いかけるようにクライブを見る。

クライブの判断に任せるといったところか。


「俺たちに?」


クライブとリーシェは眉をしかめた。

そんな表情に、シクステンは少し考えるような表情を浮かべる。


「お前達に、ではないな。あの依頼を受けた冒険者にというのが正しい。まず、話を聞いてくれ」


シクステンはそう言って、周りに視線を向けた。

他の客がちらちらとこちらを伺い、店の者は明らかに心配そうにしている。


「…………いいだろう。場所を変えよう」


クライブはテーブルに金を置いた。

シクステンは頷き、店の者はほっとした表情になった。








ぴちょん、と雫が落ちてセリノは顔を上げた。


目の前に石造りの浅い水槽の中で、半分だけ水に浸った裸体の少女が眠っている。

その裸体の胸から下腹部を覆うように横長に広げられた白い布の端を持って祈りを捧げていたが、その布から雫が滴り落ちていた。


セリノは少女を見る。


本当に美しい。

華奢な体に白い肌に無垢な美貌。

水に浸って広がる銀髪は、セリノの祝福を受けてほんのり輝き増している。


「ーまさしく聖女ですね」



金髪の狐人が、抱えてきた少女を披露したとき、セリノは早速仕事をさせられた。

少女が処女かどうかの確認である。

神官であるゆえ、実際に体を見ずとも確認できる神術があるが、本人の同意なしにてそのような調査をするのは気が進まなかったが仕方がない。

そして、セリノによって無垢な体であると証明された時、ベリアンは歓喜した。


『素晴らしい!さすが、神の遣わせた乙女!』


セリノはその言葉に引っ掛かり、思い当たった記憶があってぞっとした。


『まさか、ライザールの乙女ですか!』


話題の乙女。

ライザールの救世主となった乙女が、こんなところに。


『んー?簡単だったよ』


金髪の狐人は、退屈そうに言葉を返す。


『ちょっと侍女に見つかっちゃったけど、レオが始末してるでしょ』

『ご苦労だったな』


ベリアンはリオの頭を撫で、リオはうれしそうに笑った。


セリノは顔を事態の大きさに恐ろしくなったが、少しずつ思考が戻ってくる。

よく考えれば、これは好機だ。

ライザールの乙女となれば、国が動かぬ訳がない。

自分に出来る事はなんだろう。

今、探れる情報はどこまでだろう。

考えなくては。




「どのくらいまですんだのかね?」


セリノは意識を今に戻した。

振り返れば、ベリアンが真っ青な顔をしたテオを連れて立っていた。


「テオ!」

「……私は聞いてるのだがね」


じゃら。

鎖の音が、セリノに注意を促す。

立ち上がりかけた体は、再び腰を下ろした。


「体の浄化と祝福は、三日三晩かかると申し上げたはずです」


嘘である。

確かに、見習いなら三日どころか一週間ほどかかるが、セリノはそうではない。

一晩で充分である。

ただの時間稼ぎ。

セリノが出来る、唯一の戦いであった。


「……セリノ」


テオのつぶやきに、ベリアンは気づいて嬉しそうに振り返る。


「ああ、少年。君は初めて会うのだったね。紹介しよう」



祝福の最中であるため、セリノのそばまでは来ないが、充分少女の姿が見える位置までテオを誘導する。


「見てくれたまえ。彼女はうまくいけば妻になる娘だ。テアになり、私と彼女の子を産むのだよ」

「テア……?」

「今度こそ、私はテアと夫婦になれるだろうね。彼女は、逸材だから」

「逸材……?」


テオは水槽の中の少女を食い入るように見つめながら、ベリアンの話に言葉を返している。


「ああ。なんていっても、彼女は」

「ー祝福を続けてもよろしいですか」


テオに聞かせたくなくて、思わず口を挟む。

ベリアンは己が少々興奮ぎみに話していたことに気づき、そしてテオの表情を見て笑った。


「ああ。すまないね。少年、我々は行こう」


目が離せない様子のテオを、やや強引に連れてベリアンは去った。

それを見送って、セリノはため息をつく。


「最悪になる前に、どうか間に合って下さいよ」









クライブは、ギルドの応接室で唸っていた。

目の前には、セリノとテオが受けた礼拝所浄化完了書類と新規の依頼書。

その、2つの書類を並べて見ているのは、酒場で声をかけてきたシクステンだった。


「クライブ、と言ったか。お前が先程言った事に間違いはないか」


シクステンはクライブに目を向ける。


クライブ達は酒場からギルドに場所を移した。

シクステンの話を聞く前に、一言断ってリーシェが見たセリノらの書類を確認させてもらったのである。

見た書類には不備はなかった。

しかし、クライブの鼻にはある匂いを感じたのである。


『狐人?』


瞬間、シクステンが険しい顔をして、クライブを押し退け、書類を用意してくれた受付に何事か言ったのである。

訳のわからぬ内に、3人はギルドの応接室に通される事になったのだ。



「説明してくれ」

「説明しよう。だが、まずは確認だ。狐人の匂いがこの書類からしたのか」

「……クライブ、どうなのよ」


リーシェも、この展開に少し戸惑っていた。


「確かにした。狐人が、あんたの聞きたい事なのか」

「いや。聞きたいのは事件の情報だった」


シクステンはソファに座り直し、二人を見つめた。


「改めて名乗ろう。私はシクステン。個人で少女失踪事件の調査を受けている」

「個人でだと?」

「ああ。こうなっては、お前達の協力を得た方が良いだろうから、ある程度は話そう」

「ある程度、ねぇ」

「話さない方がいい部分もあるのだ。それに協力を願い出てはなんだが、話す事もお前達だけとして欲しい」

「俺達には協力する意味があるのか」

「あるだろう。お前達の抱える仕事は成果があげられるだろうし。お前達の仲間か?そちらも何か解決するかも知れない」

「………よし、聞こう」

「他言無用だぞ?」

「わかったわよ」


シクステンは念の為にとこっそり、外への音と映像を遮断する結界を張る。

魔法使いのリーシェはぴくりと反応したが、何も言わなかった。

クライブも周りの空気が変わったのを敏感に感じたらしく、一瞬視線をさ迷わせた。


「実はつい先日、少女が誘拐された」

「なんですって?」

「しかし、さっきも追加の情報として俺達に言われなかったな」

「ああ。それは公にしてないからだ」

「……それがお兄さんの仕事相手ってこと?公にしないで調べさせるって、かなり上の方なのかしら」


声が外に漏れないよう結界を張っているとしても、リーシェは言葉に慎重になってしまう。

公に出来ないという事は、知られれば大騒ぎになってしまうのが確実な身分の者、と考えられるからだ。


「そうだ」


シクステンはあっさり頷く。


「一連の失踪事件と関係があるのか。まずはそれを探る為にお前達に会いに来た。だが、可能性は高くなった」

「狐人か?」

「狐人だ。誘拐された時、侍女が鉢合わせた。危うく殺されかけたが、その情報をもたらしてくれた」

「なんてこと……」


これは、クライブ達の依頼にも有益な情報だった。

しかし。


「まだ、狐人という共通点だけだ。お前達の仲間が接触したであろう狐人と、同じかどうかわからない」


少し青ざめたリーシェに、シクステンは言葉を足す。

クライブはセリノのサインが入った書類を見ながら話始めた。


「……セリノ達の行動が不可解だと思っていた」

「グライブ?」

「ほう」

「リーシェも気づいていただろう。いくら、テオが一緒にいようと、セリノが俺達に何の伝言も残さず次の依頼を受けるのは変だと」

「う……」

「セリノは、何かに巻き込まれているのかも知れない」

「そんな!あれでもセリノは神官騎士よ?」

「テオがおさえられてしまえば、わからない」

「そんな」

「……そして、こっちも狐人だ」


クライブは新規の依頼書をとんとんと指で叩く。


「関係ないかも知れない。しかし、1度探って見る必要はあるな」

「私の同行を許してくれるか」

「断ってもついてくるだろう?」

「唯一の手掛かりらしい、手掛かりだ。行く先が同じになるのは致し方ない」


クライブはふっと笑いを漏らした。


「……こっちにも事情があってね。知られたくない事も後々融通をお願いすることもあるかもしれない」

「何故、私にそんな事を?」

「あんたの身分は知らないが、その上の方の権力は繋がっておくには便利かもしれない」

「便利、か」


クライブの言いように、シクステンも笑う。


「いいだろう。他言無用の対価として、その際は私の出来る事をすると約束しよう」


三人は、再び書類を見る。


「行く先は、このオルザム邸だな」



次はまたエロに挑戦します。


………がんばります。

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