アルバンの苦悩
11月に入ってからPV数が増えてびっくりしてます。
本当にありがとうございます。
雨が降った日。
その知らせは、まだその日の夜が明けぬ時に届いた。
「馬を出せ!」
命がけと言っても良いくらい疲労困憊して、王子の前でありながら倒れてしまった伝令に、気を使うどころではなかった。
指示を飛ばそうとして振り返れば、侍従がすでに靴や武器などの装備品を素早く整えていた。
そのまま手伝わせ装備していると、母上がやって来た。
「城に戻るのですね」
「母上」
「こちらは任せなさい。いざという時は、力になれるよう整えておきましょう」
「申し訳ありません、母上」
母上は冷静だった。
気が逸る心に少し冷静さが戻る。
そう。
事は大事だが、ここで荒立ててはならない。
「では、お願い致します」
支度が整い、母上が頷くのを見て、館を飛び出した。
朝日が昇り、2刻ほどだった頃に城に着く。
後続の部下や侍従達が到着するのを待たずに、早速事情を説明しに駆け寄った侍女の案内で医療室に入る。
医療室には深緑の衣装を纏った男と父上がすでに入っていた。
見慣れぬ男に一瞬気がとられる、が。
「お守りできず……申し訳ございません」
父の足元に、女がひれ伏していた。
アキラの侍女のラウニ。
しかし、ひどい様であった。
全身に布を巻かれ、髪も燃やされたように縮れ肌が見えている。
巻かれた布も薬と血でじんわり色が染まり、実に痛々しい。
それでもなお、ラウニは涙を流しひれ伏している。
「魔法治癒である程度回復したとはいえ、そなたも死にかけたのじゃ。無理はしなくても良い」
父上は声をかけたが、ラウニはふるふると横に首を振った。
悔しそうに顔が歪められる。
気持ちはわかる、しかし今は。
「ラウニ。今は状況を知りたい。話せ」
ラウニは一瞬身を震わせたが、ぎゅっと涙を吹いて話はじめた。
それから2日。
アルバンはアキラの私室で、あげられる報告書を読んでいたが、持っていた書類をくしゃっと握りしめていまい、それに気づいて苛立ったように放り出した。
隣の寝室には今、本来の主ではなくその侍女ラウニが体を休めている。
『王子が予定を変更して城に戻って来た事は、婚約者たる乙女の急病ということにしようかの。乙女の部屋を整えたら、あの怪我した侍女を身代わりとして寝かせておけば良い』
父上がそう判断し、固持していたラウニに命令を下して寝かせている。
自分は婚約者を心配する心優しき王子役だ。
「情けない…… 」
何もできない。
どうにも動けない。
放り出した書類を見て、また悔しく思う。
城に戻って来た時に、父上の側にいた男。
神変調査官。
よりによってこの時に、彼は城を訪れていた。
父上から詳細は聞いていないが、十中八九アキラに関わる事だろう。
しかし、あの男は意外な提案をしてきた。
『よければ、協力をしよう』
不愉快だった。
初対面の男が、この大事に自ら関わると言い出したのだ。
神変調査官であれば、知力も武力も申し分はない。
力になってくれれば、頼りになるのは確実だが。
いつしかアキラの存在は、心を強く縛っていて、男こそがそれに楔をうつかもしれないため、関わらせるのに抵抗してしまう。
いや、それだけではない。
『この騒動で、私の訪問は目立たなくなった。動くには都合が良いだろう』
宰相のマーシャルがあげてきた報告書には、冒険者ギルドに寄せられた『連続少女失踪事件』の情報があった。
神変調査官はそこの調査を担うとあっさり請け負ったのである。
その自由さが、さらに不愉快にさせた。
自分こそが、アキラを探しだし。
自分こそが、アキラを救いだす。
口を開こうとした時。
『アルバン、動いてはならぬ。……理由はわかろうな。捜索はマーシャルと神変調査官殿に任せるのじゃ。やるべき事は他にもあるのじゃ』
父上には気持ちがわかったのだろう。
それでも、釘をさした。
父上と男の視線を受け、激情を押さえ込む。
いくつかの打ち合わせを経て、父上は職務に戻り神変調査官は調査に出た。
そうして、自分はここにいる。
城の警備強化と見直し、国内の動向を調査している。
本当に歯がゆかった。
この話はボツ予定でしたが、主役に続きアルバンも登場してないので載せる事にしました。
短いです。