異常な村
そこは、森の一部を開墾してできた、小さな村だった。畑と家が有るだけの寂れた村。
どこにでもある平凡な田舎の村。
しかし、この村は普通ではない。
結界は維持するだけでも相当の魔力を失う。人間の魔力は基本的にジニア達に劣るので、都会の町や重要な施設に、結界が張られる。
だから、この村は異常なのだ。人間には認識できないような高度な結界を張り、外界の者たちに見つからないように隠される村など。
否、本当に異常なのはこの村の住人たちだ。
風が吹き、それに乗って独特な香りが鼻腔を掠めた。血に刻まれた懐かしい香りと雰囲気に息が止まる。
ーー嗚呼、ここは
溢れそうになった不可解な感情を反射的に書き消した。
ジニアは探す。目的の気配を。
不意に目に止めた、村の外れにある小さな小屋。本能的に感じた。目的はあそこだ、と。
ジニアは立ち止まっていた足を進めた。
なるべく村人たちの目には留まりたくない。
生き物の目を避けるように、移動する。
遠回りに移動したため、防寒のマントが草や土でひどく汚れてしまった。
ジニアはそれを払い落とした。そして、目の前の小屋に目を向ける。
心臓の音が聴こえてきた。自分も緊張しているのか、とジニアは胸を押さえた。しかし、ここで止まるわけにはいかなかった。
そして、震える己を叱咤し、小屋の戸に手をかけた。
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小屋にはいると、紅く燃える暖炉の前に一人の男が立っていた。
背の高さは、ジニアより頭一つと少し高い。ジニアは同年代の娘より背は高い。なら、この男は長身の部類に入るだろう。
そして、その男はジニアと同じ赤髪を持っていた。
一歩足を踏み出す。木の板に靴が接触した音が響き、男が振り向いた。
血のような赤が揺れる。
その髪の隙間から徐々に見えてくるその顔にジニアの本能が確信した。
この男は自分の父親だ、と。
その瞬間、ジニアはマントのなかに忍ばせていた拳銃を取りだし、男に向けた。
素早く動いた反動で顔を隠していたフードが取れた。
男は拳銃を向けた瞬間、反射的に構えた。しかし、フードに隠れていたジニアの顔を見た瞬間、驚愕に顔を染め、硬直した。
刹那の間の男の隙をジニアは見逃すことなく、躊躇なく引き金を引いた。
弾丸を放ったあとに漂う硝煙の香と、喉を焦がすような鉄の匂い。
男は数歩よろめき、膝をついた。
自分の腹に手を宛て、流れる血を見て目を僅かに見開き、そして、ジニアを見た。
「コ、ネ…リア…?」
それは、ジニアの母の名前だった。
「それは、母の名前です。お父様。」
寒々とした言葉が、ジニアから放たれる。
「母親…?ま、さか…!」
自分の父親の顔が、真っ青に染まった。
ジニアは冷たく嘲笑った。
「ええ、私は貴方とコーネリアの娘です。」