十九年前の世界
ーーなつかしい
そよぐ風に乗って草の匂いが運ばれてきた。
懐かしい感覚にゆっくりとまぶたを開いた。
そこは森の中だった。周りには木に囲まれて、道がひとつも存在しない。輪のようにきが囲っていてそのなかに木が生えていない平地があった。そこに、ジニアは倒れたいた。
何故こんなところにいるのだろう。倒れる前の記憶が思い出せなかった。
確か、私はルイを迎えにいこうと村に戻り…
そこまで辿り、思い出す。
自分は変な男の戯れ言のようなことを信じ、過去に飛ばされたのだと。
「ルイ!」
空にできた亀裂に吸い込まれたとき、自分はルイを落とさないように強く抱いていたはずだ。
焦りと不安が沸き上がってくる。
慌てて体をおこし、立ち上がる。そして、周囲を見渡した。しかし、ルイはいない。
嫌な予感がして身体が一気に冷たくなった。
「る、ルイ!何処にいるの!?」
身体が不安と悲しみで引き裂かれそうだ。
段々とルイを呼ぶ声がかすれていった。
「むぅ~…ぷっは!」
暫くして、茂みの中から子供の頭が飛び出てきた。間違えるわけないその顔にジニアは安心で泣きそうになった。
風よりも早くルイのもとに駆けつけ、抱き上げた。
「よかった…本当によかった」
もう一人は嫌だ。
腕の中にある愛しい体温に体の力が抜けそうに成る程、安心した。
一人ではない。それだけで、ジニアは生きていける。
「此処は、一体?」
冷静になってから抱いていた疑問に気付く。自分は雪の降る山の奥にいたはずだ。
こんなところに来た覚えはない。
ジニアのいる場所は雪が降っていなく、むしろ暑かった。
最後に見上げた空は日が完全に落ちていたのに、今は真上にある。自分が寝ている間に時間がかなりたって朝になったのか?
いや、景色まで変わるなんてあり得ない。
可能性があるのは、あの不思議な男が言ったように、ここが過去の世界だと言うこと。
しかし、そうだと言う証拠がない。
ジニアは目を覚ましたとき、懐かしい感覚がよぎったのを思い出す。
「此処を私は知っている…?」
確かにこの景色は何処か懐かしくさせる。しかし、どこの景色なのかジニアはあと一歩で思い出すことができない。
「まま!あのね、あっちにね、キラキラおみずたくさんあった!」
思い出そうと、心当たりを探していたジニアに、腕に抱いていたルイがある方向を指差した。
よほど素敵なものを見つけてきたのか、瞳をキラキラさせてジニアの腕のなかで暴れている。
ルイが指差す方向に意識を集中させると、木々のその先から水の流れる音が僅かに聴こえてきた。
ジニアは音に聞こえる方に歩みだした。
木々に覆われた道なき道を進む。
そこから、抜けた瞬間痛いほどの輝きがジニアを襲った。
「ぁ…」
目がなれて、ゆっくりと目を開ける。
目の前の懐かしい景色に驚きのこえが漏れた。
そこには、光に照らされ宝石のように輝き流れる生命の川。
ーー嗚呼、此処は
ジニアの大好きだった場所。
ジニアの世界だった場所。
忘れるはずがない。
此処は自分の故郷だ。