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第二章 第一話



 俺を夢の世界から呼び戻したもの。それは朝の眩い光と、小鳥たちのにぎやかなさえずり……ではなく、俺のわき腹へと無慈悲な勢いでおみまいしてきた、佐奈の踵落としだった。


「ぐほぁっ!」


 佐奈の踵があと数センチ深く食い込んでいたら、きっと俺はそのまま夢の世界の住人になっていたことだろう。


「さっさとおきなさいよっ! このバカ龍が!」

「うう……さ、佐奈……俺を起こしたいのか眠らせたいのか……どっちなんだよ?」

「つまんない事言ってないでさっさと起きる! それとももう一発欲しい?」

「だぁーっ! わ、わかったよ。起きる、起きるよ! ……それにしても変な夢見たなぁ。なんか俺のフィギュアが現実になってさ、妖怪と戦って――」

「何うだうだ言ってんのよ、さっさと制服に着替えてキッチンに来てよね。せっかく作った朝食がさめちゃうじゃない」

「へぇ、朝食……俺のために朝食作ってくれたんだ?」

「ア、アンタのためじゃないわよ。花鶏のために作ったら……その……たまたま作りすぎちゃって」

「あーそうか、花鶏のため……あとり…………花鶏! さ、佐奈! あれからどうなった! あ、花鶏は! ももいろあやかしは?」


 そうだ、昨日の夜の出来事は夢なんかじゃない! あの時強制的に眠らされて、朝まで暢気に爆睡ぶっこいてしまってたんだ。


「心配しなくても、一匹目のあやかしは私が封印したわ。今頃は封魂壷の中でおとなしくしてるわよ。それから、花鶏がアンタを部屋まで担いで運び込んでくれたんだから、あとでお礼言っときなさいよ」


 お礼を言うも何も、気絶させたのはその花鶏本人なのにな。まぁ一応、あとで「ありがとう」って言っとくか。


「そ、そうか……でも流石だな、佐奈は」

「何が?」

「いや、いきなり実戦でさ、一族総出で封印したって言うももいろあやかしを、たった一人で封印しちまうんだからさ」

「そうでもないわよ。花鶏が奴を弱らせてなければ、私のほうが取り殺されていただろうし……今回の事で、自分の力の無さをひしひしと感じたわ」


 そりゃまぁ、相手は名うての魔物なんだし。いくら佐奈が霊長類最強といえども、チート機能を搭載したバケモノを相手にするなんて、そりゃ無理だって話だよ。


「実力が違いすぎるんだよ、仕方ないさ」

「それは……そうだけどさ。龍を守ってやれな……ううん、なんでもない。今のは忘れて」


 伏目がちに悔しさを見せる佐奈。余程格闘家としてのプライドが傷付いたのだろう……ここは空気を変えてやらなきゃ。


「そ、そういやさ、朝こうやって起こしてくれるっての、小学生の時以来だな。なんだかなつかしいや」


 俺のふと漏らした言葉に、佐奈の表情が変わった。顔を耳まで赤くして、恥ずかしそうに視線を床に落とす仕草が少しかわいい。


「バ、バカな事言ってないで、さっさと支度してよね!」

「へいへい」


 そう言って部屋を出て行く佐奈の横顔は、少し笑みを宿しているように見えた。いつ以来だろ? あいつのあんな顔見たのって。





 紺のブレザーにパンツ、そして一年生を表す水色のネクタイを締め、申し訳程度に顔を洗い、足早にキッチンへと急ぐ。もたもたしてたら俺の食い扶持がなくなってしまうという危険性が十二分にあるからだ。


「おっはよー! さぁ朝飯あさめしっと♪」

「うむ、おはよう……ずずずっ」


 そこにはエプロン姿でアイランドキッチンに立ち、ベーコンエッグを作っている佐奈。そしてテーブルで味噌汁をすすっている花鶏の姿があった。


「やっと起きてきた。あと一分遅かったらアンタの分、全部捨ててたところよ」

「す、捨てるなんてとんでもない! どんだけもったいないお化けに喧嘩売るつもりなんだよ」


 きっとそれくらいのオバケなら勝てると踏んだのだろう。佐奈がモノを測る尺度は勝てるか勝てないか、だからな。それはさておき、いつ以来だっけか、朝飯食って登校なんて。いつもはギリギリまで寝て、身支度したら即登校だもんなぁ。


 さて、テーブルの上にはほかほかごはんと、卵を二個使用し程よくカリカリになったベーコンエッグ。そして佐奈ん家特製のお漬物に味付け海苔とお味噌汁と言う、豪華なラインナップが俺を出迎えてくれている。おお、お味噌汁は俺の好きな大根と油揚げだ! これはまるで、新婚夫婦の朝食風景といっても過言ではないじゃないか!


「であれば、わしはさしずめ小姑といったところかのう?」


 と、俺の思考を読み取ったのか、花鶏がにやりと笑い、零した。


「え、何? なんで花鶏が小姑なの?」


 焼きあがったベーコンエッグをお皿に移しながら、佐奈が尋ねる。


「い、いやぁなんでもないさ!」


 そんな、佐奈と俺はまるで新婚さんいらっしゃーい的な関係みたいだねーなんて口が裂けても言える訳ないじゃないか。もし言ってしまったら、俺の鮮血が飛び交う「血祭り」ってお祭りが催されることとなるだろうからね。


「『――ってお祭りが催されることとなるだろう』と、龍一は考えておる」


 ――! 花鶏のやつ、俺の脳内盗聴をしでかしている上に、同時通訳で佐奈へと報告しやがった! 俺に清く死ねと言うのか!


「だーっ! なんで人の考えを他人にしゃべるんだよ!」

「へぇ、花鶏って人の心が読めるんだ? 流石神様だね」

「いや、読めるのは龍一の心のみじゃ。創造主であるこやつの心なら、手に取るようにわかる」

「そうなんだ。龍の心の中って、きっとぐっちょんぐっちょんのエロエロで汚れまくってるんでしょ?」

「うむ、否定はせん」


 いや、少しくらいは創造主のフォローしろよ。


「どーせそうでしょうね。さ、そんな事はいいから、冷めない内に食べちゃってよね、バカ龍」


 うーん? 意外や意外。どうやら流血の惨事は回避されたようだ。

 と、とにかく早く飯をかっ込んで平らげてしまおう。でないといつ気が変わって、俺の飯を没収されてしまうかわかったもんじゃないからな。


「では、いただきまーす!」


 と、ほかほかご飯に箸をつけようとした矢先。俺の見ている風景に何か違和感が……いや、ピンポイントで花鶏に違和感がある事に気が付いた。


「なんじゃ? なにかわしの顔についておるのか?」

「う~ん、なんだろう? 花鶏に違和感が……って、あれ?」


 よく見ると、花鶏の着ている服がおかしい。何がおかしいって――


「花鶏、おまえ何で御翔高校ウチの制服着てんだよ?」

「フム、これか? 佐奈が貸してくれたでな。これはこれで似合うじゃろう」

「お、おうそうだな。セーラー服の方が似合うと踏んでいたんだが、ブレザーってのもこれはこれでなかなかかわいいじゃないか。特に水色のリボンがポイント高くて……いやいや、そうじゃない。問題はそこじゃない! その服を着てどうしようってんだ? って話だよ。まさか一緒に登校――」


 そんな興奮気味の俺の言葉を遮って、佐奈が漬物をかじりつつ一言。


「花鶏はね、今日から一緒に……ポリポリ……登校するのよ」

「は? な、何で?」

「言うたであろう? 四六時中龍一のそばにおると」

「う、うん。そう言えばそんな事言ってたな。でもなんでこんな急に入学なんかできたんだ? 昨日の今日だぜ?」

「知ってるでしょ? うちのお祖父様はアレでも……ずずず~……御翔市の名士なの。お祖父様が昨日の内に、学校長に同じクラスに転入させるようにと一言口添えしてくださったらしいわ。で、私の予備の制服を貸してあげたワケ」


 お茶で口の中を潤しつつ、花鶏の制服姿の訳を語る佐奈。なんともご都合主義……いや、手回しのいい事だ。そんな訳で、花鶏は今日から謎の転校生って事か。

 だがしかし、だ。違和感ってのはそこじゃないような気がする。もっと俺の心が軋むような、とても大事な出来事。重大な忘れ物をしでかしているようなこの感覚。いったい何がそうさせるのか……そして佐奈のこの優しさ。何かある……きっとなにかある。――はっ!


「そうだ、フィギュアだ! 俺のホロウはどこいった?」


 椅子を蹴り上げて立ち、卓に付く二人を見た。花鶏はこちらに目線を合わす事無く相変わらず味噌汁をすすっているし、佐奈にいたっては小さく舌打ちをかます始末。一抹の不安が俺をよぎる……ま、まさか!


「龍一よ、お主胸を張って誇るが良いぞ。アレはまことに良い人形であった」

「ちょ、ちょっとまて! 過去形ってどーゆーこった!」

「ちょっと、ご飯食べてるときは静かにして! せっかくの朝食がまずくなっちゃうでしょ?」


 冷ややかな目で佐奈が言う。いやいや、これが騒がずにいられるか! とにかくだ、俺のホロウはどこにいった!


「それ……」


 佐奈がお箸で指し示した先にあるもの。それはテーブルの上におかれた新聞紙、そしてその上には何やら白い粉末と、プラスチックのような小さな欠片。


「え? ええっ!」

「アンタを部屋に運んだあとにね、花鶏が元の身体に移ったら、急にそうなっちゃったのよ」

「う、うぎゃああああ! お、俺のフィギュアがぁ! 俺のホロウ・スリーピーがぁ!」

「すまぬな、龍一。わしは人形に込められておる愛情を糧に、その人形の持つ特殊な能力を発揮することができるのじゃ。お主たの作った黒き衣装をまとったおなごの人形、さぞかし丹精込めて作ったのであろう……深き愛に満ちておったわ。お主が激しく悲しむ気持ち、わしにもわかる」

「と、当然だ! 寝食を惜しんで、しかしながら細心の注意を払って作り上げた逸品だぞ! それを……それを!」

「わしも初めての事ゆえにな、力の配分を間違うてしもうたのじゃ。しかるに、人形の原形をとどめぬほど、お主の愛情を『力』として開放してしもうたのじゃ。許せ」

「う、ううっ……俺の……俺のホロウ……」

「ほら、いつまでも泣かない! さっさとご飯食べて学校に行かなきゃ遅刻するわよ!」

「ひどい……ひどいよ! 傷心中の俺にそんな冷たい言葉なんて!」

「あーもう! 男のくせにメソメソと! ご飯いらないんだったら私が食べるからね!」

「あ、いや。ご飯は食べるよ」


 と、半べそで頭をもたげた俺がそこに見た光景。それはすでに俺のベーコンエッグに箸をつけてもりもりとほおばっている佐奈の姿だった!


「て、てめぇ! 俺の朝飯を!」 

「そうか、龍一の分は要らんのか。ならば味噌汁はわしが頂こう」


 言うが早いか、花鶏がまるで奪い取るかのように俺の味噌汁に手をかけ、一気に飲み干した。


「お、お前ら鬼かぁー!」



 という訳で、今日もいつもと変わらぬ朝飯抜きの一日が始まったのだった。……ホロウ……お前の事は決して忘れないよ。あとで裏庭にてお前を手厚く弔ってやるから、安らかに成仏してくれ。


最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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