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第一章 第五話



「あいよ。じゃあ家の鍵は開いてるから勝手に入ってきてくれ」


 我が家への帰還を果たし、花鶏を空き部屋へと案内したその後。自室にて、佐奈からかかってきた電話を適当にあしらい、大きな伸びと深呼吸をする。


 いやぁ、やっぱ自分の部屋ってのはいいもんだな! 見渡せば俺の作ったフィギュア達が、笑顔で出迎えてくれている。まるで「おかえりなさい!」「お疲れ様!」と俺に語りかけているようだ。

 ふと時計を見ると、既に午後の九時を過ぎていた。なんだか今日はいろいろとありすぎたよ。お陰でたったの三~四時間が、まるで何日も経過したかのように感じられる。


 花鶏と出会い、佐奈に殺されかけ、ももいろあやかしなんて素敵なネーミングの化け物を開放してしまって、佐奈の秘めた特殊能力を目の当たりにし、そして再度佐奈に殺されかけた。それらがすべて遠い昔のように思える。いや、ともすれば俺の妄想だったんじゃないか? なんて感じさえ覚えるようだ。


「で、妖封宮司めはなんと?」

「うん、なんでも魔物封じの小瓶だかなんだかを探してるってんで、ちょっと遅くなる……どわっ! あ、花鶏いつのまに!」


 ああ、こいつが居るって事は、まぎれも無い事実だったってことだよなぁ……そう、俺の命が狙われてるって事も。


「ほほう、これがお主の作った人形達か。皆良い作品ばかりじゃのう。お主、なかなか素晴らしき腕の人形師じゃな、どれもこれも温かき想いに満ちておるわ」

「おお、判るのか? 花鶏」

「無論じゃ。なにせわしは九十九の神じゃからのぅ。お主が人形を思いやる気持ち、丹精込めて作り上げた念が、そこかしこに満ちておる」


 花鶏にそう言われて、すごく嬉しかった。無論、フィギュアへの想いは誰にも負けないと自負していたさ。でも、花鶏に言われるのは何というか……重みが違う。なにせ物への愛着心が生み出した神様だもんな。


「そ、そうか、嬉しいよ花鶏。そうだ、俺のコレクション――いや、家族を紹介しよう! これは『温宮ハルナの憂鬱』の温宮ハルナ・セーラー服バージョン! そう、お前の身体の元になったキャラクターだ。アニメの作中じゃ、神様的存在って設定なんだぜ。そしてこっちは同じアニメに出てくる朝日みるくさん・ウェイトレスバージョン! なかなかの巨乳キャラだろ? 物語の中じゃ未来人って設定なんだ。本当は花鶏の胸もこれくらいにしようかと思ったんだけどさ、でもやっぱりオリジナルを尊重すると言う観点からして、それはダメかなと思ったワケなんだよ。おっと、そんでこれは『エトワール魔法の近所目録』ってアニメの美少女ヒロインで、歩く回覧板と呼ばれうんぬんかんぬん……」


 ふむふむと興味を持つ眼差しで、俺の説明に聞き入る花鶏。もしかしたら案外フィギュアの話で、心が通じ合えるかもしれない。フィギュアのすばらしさという概念を共有できるかもしれない! 心を開ける仲間あいぼうの誕生かもしれない!!


「な、花鶏! フィギュアっていいだろ? 素晴らしいだろ? どうだい?」

「うむ、そうじゃのう。正直言って……きもちわるい」

「ヱ……? 何が?」

「いや、お主がじゃ」

「お、俺が?」

「ふむ、まぁ言ってしまえば、そのふぃぎゃーとか言う人形も気持ち悪いのだがの」

「な、な、なんだとぉ!」

「なるほど、佐奈とやらがお主との間に精神的な溝をこさえるのも道理じゃのう」


 ふぅと溜息を零し、やれやれしようの無い奴だと言わんばかりの目で俺を見る花鶏。なんだよ、こんなだから佐奈は俺との間に、目に見えない鉄壁を発生させてるってのか? まぁあいつならIフィールドやATフィールドを発生させてたとして、何の不思議も無いけどさ。


「じゃ、じゃあ、さっきまで俺の熱いフィギュア紹介を、ふんふんと聞き入ってたのはなんだったんだよ!」

「うむ。人形には興味は無いがの、その人形に設定されている『力』には、些か興味があってな」

「設定だって?」

「うむ、人形の元となっておる物語での設定じゃ」

「そ、そんなもんに興味を持つ意味がわかんねぇよ! 大体俺の純情を弄んで、タダで済まそうってのか花鶏さんよぉ!」


 と、憤慨する俺の言葉に、どうやら花鶏は耳をまったく貸していない様子だ。いや、それよりも、俺の言葉とはまた別の何かに聞き耳を立てているかのような、何か別なものを感じ取っているような表情だ。


「聞いてんのか花鶏!」

「龍一よ、客じゃ」


 俺の荒げた声をまったく意に介さずにそう一言告げて、花鶏は部屋の入り口を視線で指し示した。

 ゆっくりと回るドアノブ。花鶏の言う通り、誰かがやってきた。ああ、そいつはきっと佐奈だろう。


「佐奈か? 入ってきなよ。花鶏もいるぞ」


 深く考えもせず呼び入れる。まるでその声に答えるかのように、ドアが勢いよくバーンと開かれた。


「ハァーイ! コニチハー! おじゃマしまぁ~ス!」


 と、垢抜けた挨拶とともに、俺の部屋へと入ってきた佐――誰?

 まるで来日したばかりのアメリカ人のような高いテンションと片言の日本語、まるでアメリカ人のような蒼い瞳とブロンドの長い髪。そしてまるでアメリカ人のようなウエスタン風ビキニとブーツと言う出で立ち。更にはアメリカ人のような……アメリカ人だこれー!


「うむ、早速現れよったか――あやかしめ」


 はっ! こいつが噂のももいろあやかしって奴か! ビキニがはちきれんばかりの巨乳をゆっさゆっさと揺らし、モデルのようなセクシー歩きでにじり寄り、俺を挑発している。


「こいつが……ももいろあやかし? でも花鶏、この人外人さんだよ? 片言だよ? すごくエロいよ?」

「そうじゃ、こやつがももいろあやかしじゃ。奴等めは男をたぶらかすため、古今東西の風俗に馴染み、取り込む力がある。きっとお主の好みを見抜き、西洋の娘へと変化したのじゃ。気をつけよ」


 くそうっ! 十八歳くらいの若くて豊満な肉体で現れるとは……俺の弱点を見事に突いた、素晴らしい作戦だ!


「ハァイッ! ワターシ爆弾豊乳セクシーダイナマイツ甜瓜めろんいいマース! アナタとてモステきデスネー! ぜひワターシのムネをさわってみないデスカー?」


 そう言いながら、たわわに実る胸をぷるんぷるんと自らの手で弾ませ、俺に甘い眼差しを送る、セクシーダイナマイツの甜瓜と名乗る外人美女さん。なんともピッタリな通り名じゃないか。更に甜瓜と言う名にも、DNAに直接語りかけてくるほどのリビドーを感じずにはいられない。こいつは強敵だ!

 こうなったら腹をくくって、このでっぱい美女に戦いを挑むか? いやいや、じいちゃんの言葉を思い出せ! 思慮なき勇敢さは匹夫の雄だ! でも目の前で俺を誘っている丸い物体は、ヒップではなくおっぱいだ。この場合はどうなんだろう? ヒップの雄とは言われたけれど、バストの雄とは言われて無いぞ。触ってもいいのかな? いいよなぁ? おっぱいだもんなぁ。だって物心付かない赤子だって、おっぱいの魅力には勝てないんだぜ?


「龍一よ、アホな事に一生懸命頭を回さんでよい。それよりも……この黒き衣装を纏ったおなごの人形は――強いかえ?」


 黄色い猫耳付きヘルメットと、黒のライダースーツに身を包んだフィギュアを指差し、花鶏が落ち着きはらった声で言う。途端、俺の煩悩がふと成りを潜める。フィギュアの事となると、エロでさえ俺を縛る事はできないんだ。そんな俺がちょっとかっこいい。


「あ、ああ。そうだなぁ……この『デュライダー・ホロウ』の主人公、首無し女性ライダーのホロウは、格闘のセンスもあるし、特殊な能力も備わっていて強いよ。だから?」

「うむ、ちと借りるぞ」

「うおあっ! ちょっと待て! 落とすなよ? 壊すなよ? 傷つけるなよ? 絶対だぞ? 約束だぞ!」

「安心せい。この人形は強いのじゃろ?」

「確かにホロウは強い。戦闘訓練をつんだ人間はおろか、妖怪でも歯が立たないはずだ。でもそいつはアニメの物語の中での話だぞ?」

「ならば問題ない」


 さらりと告げると、花鶏はそっとホロウのフィギュアを手に取った。



「 憑 依 具 現 ! 」



 そう叫んだ途端、ホロウのフィギュアがまばゆい光に包まれた。こいつはどこかで見たことのある光景だ。そうだ、花鶏が俺の作った全裸フィギュアに入り込んだ、あの時と同じ光景だ! まさか花鶏のやつ、このホロウのフィギュアに乗り移ろうって気じゃないだろうな? でも乗り移ったとしてどうなる――


『うむ。人形には興味は無いがの、その人形に設定されている『力』には、些か興味があってな』


 ふと思い出した、花鶏の言葉。まさかフィギュアに乗り移ったら、そのキャラの能力まで扱えるってのか? ……と言うか、キャラクターそのものになっちまうってのかよ?

 そんなことが起こりえていいのか? いや、実際に起こっているじゃないか! こんな事……こんな事が起こるなんて…………い、い、イヤッホー! と言う事は、夢にまで見た『俺の作ったフィギュアの女の子達とキャッキャウフフ』ができると言う事じゃないか! しかもその気になれば、毎日違うキャラをとっかえひっかえできるんだぞ! すごい、すごいよ花鶏!


「あほうが。そのような事わしがするわけなかろう」

「あ、やっぱそうっすよね、ダメっすよね……ってか勝手に俺の心の中を覗くのはやめてくれ!」


 と、我に返り花鶏の方へと目をやると、そこには黄色いバイク用ヘルメットに全身黒尽くめのライダースーツ姿の女性が佇んでいた。そいつはまさに、アニメの中のキャラクターそのものだ! そして彼女の足元には、一体のフィギュアが転がっている。どうやら花鶏のオリジナル体のようだ。ご丁寧に着ていた服までフィギュア化されている。本当に……本当に花鶏は俺のホロウのフィギュアに乗り移ったんだ!


「ふぅ。さて、あやかしよ。貴様の相手はこのわしじゃ。わしを倒す事ができたら、その男の身を好きなようにせよ」


 真っ黒なヘルメットのシールドが、セクシーなんとかのめろんを静かに見据える。室内の明かりにキラリと輝く様は、まるで猛禽類特有の、獲物を射抜くような眼差しを思わせた。


「ワターシとバトルデスかー? のぞむところデース!」

「じゃがのう、ここでは些か戦い難い。広き場所でお相手仕ろうぞ」

「オーイェーッ! どこでもOKデース!」


 あっけらかんとした笑顔で答える甜瓜。なんか楽しんでんなぁ。


「では参ろうか」


 その言葉と共に、花鶏……いや、ホロウは、窓を開けてひらりと身を翻し、おもむろに――飛んだ。

 続き、ももいろあやかしも軽い跳躍を見せ、窓の外へとその身を躍らせる。


『なんて素直な奴だ。この隙に俺を襲えばよかったのに』なんて事を考えつつも、二人が飛び去った窓へと急ぎ近づく俺が見たもの。それは屋根屋根を軽やかに飛び舞う二つの人影だった。そして瞬く間に、二つの影は近所の桜林公園へと消えて行ったのだった。


 すごいものを見た。まるで忍者かエスパーモノのアニメを見ているようだ。そんな小さな感動を覚えつつも、俺も桜林公園に行かなきゃと、とるものもとりあえず、外へと飛び出したのだった。



最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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