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最終話



 先生の車のテールランプを見送った俺は、薄暗くなった境内で安堵の息を吐いた。


「ふぅ。一時はどうなるかと思ったけれど、佐奈のお陰で助かったよ」

「えっ? あ、そ……そうね」

「そう言えばなんで佐奈はあんな呪文を知ってたんだ?」

「ギクッ! ……あ、アレよホラ。あ、あんたにあげたストラップのアニメがどんな作品かと思って、たまたまテレビを見たらその呪文の回で……そ、そうよたまたまよ、たまたま。べ、べつにファンって訳じゃないからね」

「そうか、偶然知ってたのか。でもよく詠唱まで一字一句詳しく覚えてたよな」

「あ、あたしはあんたと違って記憶力が超すごく良いのよ!」

「ふぅん。あ、そう言えば、首なしライダーのホロウがヘルメットを貫かれた時、首から上がない事や、ブランカが獣化てもちゃんと喋れるって事も、よく知ってたよな――」

「そ、そんな事より花鶏の事よ! 基本体はあやかしの攻撃でバラバラになっちゃったみたいだし。あんたすぐ作れるんでしょうね?」


 佐奈がその話題をうやむやにするように、最後の懸念事項を口にした。


「あ、そうだよな。花鶏の身体はバラバラにされちゃったんだよな」

「うむ。この身体はお主らに返さねばならぬ故な――それにわしはあの身体が気に入っておる。まあ致し方なし、龍一に新たな身体をこしらえてもらうまで、しばらくは別の身体で――」

「ふふふ、そんな事もあろうかと!」


 にやりと笑い、俺は背負っていたナイロンリュックからおもむろに一体のフィギュアを取り出し、二人に披露した。


「実は秘密裏に、花鶏の基本体のスペアを作っていたのだ!」


 温宮ハルナが通う県立南高の制服そのままに、髪の毛と顔にのみ修正を施した、言わば『簡易製作型花鶏』って奴だ。


「ほう、手回しが良いのう」

「どうだ? 前回のボディーより一部ボリュームが三十パーセント増しになった、超ハイグレード仕様の花鶏だ! しかも今回はちゃんと衣装《セーラー服》も着用しているんだぞ?」


 以前と同様、温宮ハルナのセーラー服バージョンを流用した、お手軽ではあるがそれなりに気合の入った作品だ。本格的に一から作り込んだ作品じゃないのにはちょっと訳がある。

 まぁこれは試作段階であって、本格的にフルスクラッチ製作するには、本人の意向を組み入れなければならないからなんだ。と、言うのも――


「ちょ、ちょっと待ってよ龍! その花鶏の人形、やたらと胸がおっきいじゃないの!」


 そう、あまりにも凄惨な地平線でしかない胸を三~四割程度増量させるために、胸元には修正を施していないんだ!


「これはお主の……趣味か?」

「と、とんでもない! 本来ならばありのままを忠実に再現すると言うのが俺のポリシーなんだけどさ、更地と見紛う程の平原を、ちょっとは賑やかにしてやろうかな? と言う親切心で手を付けないでおいたんだ」

「親切心……か、まあ良い。せっかくじゃから、新しき基本体へと憑依させてもらおうかの」


(ずるい……)


「ん? なんか言ったか、佐奈」

「う、ううん。なんにも」


 なんだか一言いいたげな佐奈はさておき、どうやら花鶏はこの新たなバージョンアップ基本体を承諾してくれたようだ。


「では龍一よ。お主の血を――ほれ、首筋から出ておるそれを人形へと付着させ、この基本体に憑依せよと願うてくれ」

「ああ、分かった」


 未だ刺すような痛みを感じるそこへと指を這わせ、自分の血を指に付着させる。そして付いた血液を、今度はニュー花鶏基本体へと移し付けた。


(よし、これで今からこのフィギュアは、新たな花鶏の基本体だ)


 そう念を込め、花鶏へと手渡す。


「うむ、万事滞りなし。では……憑依帰体」


 もう既に見慣れた輝きが、ルナ花鶏を包み込む。やがてその光は小さくなり、その横に人型の新たな光明を生み出した。

 スラリと伸びた足に華奢な体躯。黒く長いしなやかな髪の毛をサラリとなびかせ、胸元ふくよかな新型花鶏が誕生した瞬間だ。青空を思わせる天色と白のセーラー服といい、胸元のワインレッドのリボンといい、その若い明るさがはじけるセーラー服は、大人びた花鶏にはちょこーっと似合わないかも?


 と思っていたが……実際見るとなかなかどうして様になっているじゃないか。


「おおおー! いい、いいぞ花鶏! そのセーラー服もさる事ながら、胸が大きくなったお前は、以前に比べたら魅力五割り増し……いや、七割り増しだ!」


「そ、そうかの……」 


 一瞬、照れを交えた喜色を見せた花鶏が、すぐさまその表情を変えた。何と言うか、思い悩むかのような面持ちだ。


「よ、良かったわねぇ花鶏」

「う、うむ」


 佐奈の上ずった声に、花鶏もどう答えていいやら判らない様子だ。


「佐奈、牛乳飲め! 聞くところによると牛乳を毎日たくさん飲むとホルスタインのようなボインちゃんになれるそうだぜ?」

「ど、どこ見て言ってんのよこのエロバカ龍が!」

「な、何だと! 人が親切心で言ってやってるのに」

「よ、余計なお世話だアホ!」

「ちょ、ちょっとまっへぶしっ!」


 また佐奈の鉄拳が俺の顔面を襲う。と、いつもの俺達二人のミニコントを見て、花鶏が笑顔を浮かべた。


「お主らは本当に仲がよいの」

「ば、バカ言わないで」

「そうだ! 仲が良いどころか、俺は虐待を受けてるんだぞ!」


 そう反論しつつ花鶏を見ると、そいつは本当の笑顔なんかじゃなかった。潤んだ瞳に憂いを秘め、今にも涙の洪水が堰を切って流れ出しそうな、そんな眼差しだ。


「佐奈、すまぬがな……」

「何?」

「わしを今一度この封じの神木へと封印してはくれまいか?」

「「な、何で!」」


 俺も佐奈も驚き尋ねた。だが花鶏は何も語ろうとはしない。


「頼む」

「何故だ? 何でだよ花鶏! そりゃもうももいろあやかしは全て片付いたさ。でもな、なにもまたわざわざ封印される事なんて無いだろ!」

「そうよ、龍のエロさが嫌ならこいつの方を封印してあげる! なにもあなたが封印される云われは無いわ」

「そうだよ、俺が変わりに封印され……おいちょっと待て」


 おちゃらけて場を和ませようとしている佐奈に、乗り突っ込みで返し――と思ったが、結構本気の目で言っている佐奈に改めて恐怖を感じた。


「いや、そうではない。ただ……わしの目覚めは少々早すぎた――と言うことじゃ」


 少し震える声でそう呟き、花鶏は俺の手をとり、そっと何かを手渡してくれた。


「こ、これは……ルナ・インパルス」


 俺の掌の中には、少しマントの部分が欠損してはいるが、それ以外は憑依する前となんら遜色ないルナのストラップフィギュアがあった。


「あれほどの大技を使こうたと言うに、お主らの愛情の力は減るどころか縷々として溢れてきおる。互いの思いが深き証拠じゃ」

「あ、あとり……」


 何故だか佐奈が涙ぐみ、小さく頷く。


「そう……分かったわ。あなたがそう望むなら……」

「うむ。わしの想い、分かってくれたか……佐奈」

「お、おいおい! 俺はわかんねーよ! なんで花鶏は進んで封印なんか――」


 そんな俺の憤怒に似た抗議を遮り、佐奈は言う。


「いいのよ龍。これは花鶏が選んだ答えなの」

「よかねぇよ! 短い間だけどさ、苦楽を共にした仲間なんだぜ? これからもずっと――」

「花鶏を苦しませないで!」

「な、何にだよ? 何に苦しんでるって言うんだよ? ワケわかんねーよ!」

「このバカ龍! 花鶏はあなたが――」

「佐奈ッ!」


 佐奈が何かを言おうとした矢先、花鶏の一喝が言葉を止めた。


「やれ、致し方なし。実はな龍一よ、本当の事を言うとわしは神ではない。真の正体は、悪行働く物の怪じゃ! 今は現世の面白さにお主らの味方をしてやっていたのだが、なにやらそれも飽いてきての。が、お主らに些か情が移った。それでわしの心が悪心に変わり果てる前にな、自ら封印されようと言う訳よ」

「な、何言ってんだよ?」

「おうほれ、言うておる間に悪心が疼きだしてきおったわ……早う封印せねば、どんな悪さを働くか分からぬぞ?」


 物憂げだった表情が、途端魔物染みた顔つきに変わる……小学生でも嚇せない、芝居っ気たっぷりの悪人顔に。


「わ、分かったよ。佐奈……花鶏を封印……してくれ」


 佐奈は気付いているようだけど、今の俺には「何か深いワケがある」としか理解できない。でも分かる事もある――花鶏は余程の覚悟で、自ら封印してくれと望んでいるのだろう。


「じゃあ花鶏……あなたを封印するわ」

「うむ、やってくれ」


 大粒の涙を零しながら、佐奈が花鶏へと身構える。


「封技、初の術型……帰魂封脚。罪科を悔いし魂よ、我が声を標に安住の眠りに……導かれよ!」

 柔らかな光の文字達が旋風かぜに乗り、花鶏を優しく包み込む。金色の輝きへと変化した花鶏のシルエットは、しなやかに踊る髪の毛から次第に光の粒子となって漂い、やがてその身までもをほろほろと零れる様に光の粒へと変えて行った。


 まるでホタルの群れを思わせるその光景に、俺は言葉が出なかった。かわりに目から熱い粒が幾筋か頬を伝い出たのは、人として真っ当な現象なのだろうと思う。


「あとりっ! ありがとう!」


 声をかぎりに叫んだ。


「うむ、達者でな」


 俺の心の耳に、確かに花鶏の声がした。






 やがて最後の光の一粒が漂い、御神木へと流れ着く。と同時に、地面へ何かが落ちる音が聞こえた。


「花鶏の新型基本体……」


 両手で慈しむように拾い上げ、この騒動は全て終わったんだと悟った。

 気付けば周囲はいつしか闇をまとい、しんと静まり返った境内に、佐奈のすすり泣く声が聞こえる。


「佐奈……」

「りゅうぅ~……」


 こんな時、どう声をかけていいのか分からない。いや、言葉なんか要らない、必要ない。なんだかんだ言って、ずっと兄妹のように過ごして来た仲だ。互いの心は言葉は使わずとも理解できる。


「佐奈、もう泣くなよ」


 そして俺は、ポケットからハンカチを取り出し、佐奈へと差し出した。


「ぐすん……ありがとう……」

「理由はわかんないけど、花鶏はこれが最善だと考え、自らの身を封じたんだ。彼女の意を汲んで、感謝の笑顔で送ろうじゃないか」

「うん……」


 涙を拭きながら佐奈が答える。


「さ、もう帰ろう」

「そう……ね」

「腹減ったなぁ。佐奈、悪いけどなんか食わせてよ?」

「ん……」

「あーすっかり真っ暗になっちゃったな。佐奈、足元に注意しろよ?」

「…………」


 返事が無い。あまりもの暗さに怖気付いたのかな?


「ははは、佐奈も女の子だな。なんなら俺が手をつないで――」

「……龍」

「ん、何?」

「あんたが渡してくれたコレ」


 闇の中で佐奈が差し出したものが、うっすらと俺の網膜に投影された。

 こんな暗い闇夜でもその存在を主張する、三角形の白地に青のストライブが刻まれた物体。それは――


「これって私のパンツじゃないの! この間からないないと思ってたら……キサマが盗んでたのかッ!」

「い、いや違うって! これは花鶏の――」

「問答無用だぁー! 死にさらせぇッ!」


 佐奈のビックバン・パンチが俺の顔面に炸裂する。


「ひぃっ、誤解だんぶべらッ!!」


 言葉にならない悲鳴と、飛び散る血飛沫。

 その数滴が俺の手に握り締められていた花鶏のフィギュアへと降り注ぎ……。




「 花 鶏 、 た す け て く れ ー ! 」



最後まで読んでくださって、まことにありがとうございました!


「二次落ち作品なんか読ませてんじゃねーよ!」と、お怒りの方もいらっしゃるかと存じます。が、自分はこの作品を気に入っておりまして……せめて一人でもいいから読んでもらいたい! との想いから、投稿いたしました。

「なろう」では好まれないジャンル、薄いキャラ達、そして下手な文章。にも拘らず、この作品に目を通していただいた方に、深い感謝と投げキッスを送ります!


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