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第三章 第四話



 ミスコンイベントの片付けが終わり、殆どの生徒が部活ないし帰宅の徒に付いた夕方の校内。俺達三人は一年生棟の校舎屋上へと向かっていた。


 花鶏曰く――


「先程あやかしめに言うてやったのじゃ、『夕刻、一年生棟屋上にてサシで勝負してやるから、先に行って待っておれ。くれぐれも奇妙な仕掛けなど張り巡らせぬようにな』とな。あやつめ『くれぐれも奇妙な仕掛けなど張り巡らせぬよう』と言う言葉に反応し、ならばと承知しよった。今頃屋上でなんぞ罠でも巡らせておるやもな」


 からからと笑いながら語る。おい、それって笑い事じゃないぞ!


「自ら罠に飛び込むのかよ。自殺行為じゃないのか?」

「なに、死中に活有りじゃ。それにな、こんな事でも言わねば奴めきっと逃げ仰せて、またぞろ不意打ちを仕掛けてくるかも知れぬでな」

「で、でもさ……」

「ふふ、お主細工は隆々なのじゃろ?」


 言いながら、俺のパンパンに膨れ上がった学生カバンを見る花鶏。


「まぁ、それはそうだが」

「じゃあさ、別にいいんじゃない? いざとなれば一対一の制約なんて、反故にしちゃえばいいんだから」


 これまた不遜な笑みを浮かべながら、佐奈が言う。らしいといえばらしいが、それは些か正義の味方がとる手段じゃねぇだろ。


「とにかくじゃ。鬼が出るか蛇がでるか、何せ最後の勝負じゃ。扉の向こうは戦場故、二人とも気を引き締めよ」

「「うん、わかってる」」


 屋上へと出るための扉に手をかけた花鶏、そして佐奈と俺が互いに頷きあう。


 ――がちゃり。


 開かれた扉の向こう、いつもと変わらない景色が広がっていた。いや、ちょっとだけ違う点がある。それは屋上の最奥、金網フェンスの上で腕を組み、仁王立ちになってこちらを見据えているちびっこい影の存在だ。そう、ももいろあやかしである魔女っ子天使の苺とやらが既に待ち構えていたんだ。


「つーか、あいつ余程高いところが好きなんだな」

「言うじゃろ? なにやらと煙は高いところが好きとな」


 鼻で笑う花鶏。


「にゃ、にゃにおう! このバーサン口調の古狸め! あんた一対一って言っておきながら、何でそいつらまで連れてくるのよ」


 顔を真っ赤にして応戦する苺がちょっとかわいい。


「心配するな。戦うのはわしだけ、こやつらは見届け人のようなものじゃ。それよりもほれ、名前よろしく顔をまっかにしておる暇があったら、はようかかって来ぬか」

「うっさいうっさい、うっさーい!」


 苺のか細い足がフェンスをトンッと蹴り、軽やかな跳躍を見せる。と同時に、右手に持っていたチューリップの出来損ないのようなステッキを振りかざし、今さっき考えたばかりのような短い詠唱と共に、魔法攻撃を繰り出してきた!


「ピルピルパップン・パピプペポ! くらえ、炎のファイヤーアロー!!」


 ブンッと振られたピンク色のその先から、ボウッ! と言う轟音と共に、三つの炎の鏃がこちらに向かって飛びかかる!


「ふんっ!」

「はっ!」

「ひえぇぇ!!」


 俺達それぞれが三方向へと身をかわす。元いた場所に炎の矢が着弾と同時に小さな爆音を放って爆ぜ、火の粉が勢いよく四散した。


「小ざかしいわね、大人しく黒焦げになっちゃいなさいよ」

「ふふ、こちらが手の内を明かす前に倒れたとあっては、そなたも目覚めが悪かろうて?」

「何言ってんのよ! こっちはぜんっぜんかまわないんだからね」

「ならばもそっと気合を込めた攻撃をして来ぬか」


 余裕めいた花鶏の言葉が苺を煽る。きっと花鶏お得意の、こちらのペースに引き込む作戦だろう。


「くぬぅー、もうアッタマきた! 人間如きにこれは大げさかなと思っていたけど、もう遠慮しないわ」


 と言う前置きから、今度は若干マジっぽい表情で、ちょっとヤバめな感じの詠唱が放たれた。


「ハン・アン・デ・リグル・ウンターモア・ル・バシリューリア・クルズ! くらいなさい、断絶異空結界《いちご時空》!」


 真上へと向けられたステッキの先端から、天へと向けて小さな雷を孕んだ漆黒の雲影が迸った! それは一定の高さまで突き進むと、程なく周囲へと拡散し、薄灰色の半円球型空間を作り出した。まずいな、俺達はなす術もなくその空間へと取り込まれてしまったようだ!


「どう? あたしの能力、断絶異空結界の居心地は。アンタ達は一生ここから出られないんだからねー」

「隔離結界か。これはちと厄介じゃのう」

「隔離結界?」


 佐奈が問う。


「うむ、世には通常わしらが暮らす世界とはまた違った世界がある。その多くは、世界の景色は同じじゃが、人がまったくいないというモノが多いかの。わしらが封印されていた世界もこのようなものじゃ。もっとも、わしとあやかし達はまた違った異世界におったらしいで、奴らがどんな世界に居よったかはあずかり知らぬがな」

「って事は、俺達封印されちまったって事か?」

「いや、封印とは少し違うかの。しかしじゃ、これほどまでの強力な結界を張るには、前もって周囲に文様やそれに似たものを配置し、力を増幅させる必要があるはず」


 そして花鶏はあやかしへと目を向け、続けた。


「あやかしよ。そなたわしとの『くれぐれも奇妙な仕掛けなど張り巡らせぬよう』と言う約束を破ったな?」

「フンッ! そんな些細な事どーだっていいじゃない? そもそも遅くやって来たアンタ達が悪いのよ」


 悪びれもせず、ぬけぬけと言い放つ。が、その言葉を待っていたかのように、花鶏は返した。


「そなたが約束を反故にするというのであれば、こちらとて考えがある。一対一と言う約束はこれにて消滅よ」

「お、お前ずっこいぞー!」


 自分の事は棚に上げて、ちびっこいのがこちらを指差し地団太を踏む。


「さて龍一よ、お主の出番じゃ。そろそろお主の策とやらを拝見しようかの」

「お、おう! まかせとけ」


 やっと俺の出番がやってきた! 早速肩に掛けていた鞄からもぞもぞと第一の策を取り出し、ババーンと掲げて紹介する。


「まずはこれだ! 花鶏、こいつは国民的、いや、世界的有名な未来からやってきたネコ型ロボットで、その腹のポケットからはチート性能満載の未来の道具が――」


 と、そんな俺の解説に、花鶏が割って入った。


「龍一よ、すまぬがな」

「ん、何だ花鶏?」

「わしは生物にしか憑依できぬのじゃ」

「そ、そうかロボットはダメか。じゃあこんなのはどうだ? 日本中の男子の心を鷲掴みにしたバイオレンスアクションアニメの主人公でさ、一子相伝の暗殺拳を会得した胸に七つの傷を持つ男――」


 と、またしても俺の解説に、花鶏が割って入る。


「龍一よ。わしはこれでもおなごぞ? おのこに憑依するは些か勘弁してもらいたいのだがの」

「む、これもダメか。んーその他ったら、この前近所のコンビニで当てたキャラくじの一等賞で、モンスターを狩るゲームに出てく雌火竜種ワイバーンなんてどうだ! これはいいぞぉ~? なんたって造形がいい! おまけにこの躍動感はどうだ? 今にも飛び掛って来るようじゃないか?」

「…………」

「あれ、呆れてる?」

「他にどう見える?」

「でも、これも生物だろ? おまけにこの緑のワイバーンはメス……もとい女なんだぞ?」

「百歩、いや千歩譲ってじゃ。それに憑依したとしての、お主の愛情がどれほど篭っておる? どれほどそのバケモノに愛着があるのじゃ?」

「あ、あるさ! なんたって一万円もつぎ込んで当てた代物なんだぜ?」 

「「い、一万円!?」」


 佐奈、そして花鶏が、同時に驚愕の声を上げた。


「ア、アンタそんな大金を……一体何考えてんのよ! 今日と言う今日はトドメ刺してあげるから覚悟なさい!」

「いや待て佐奈、わしが殺る。一万円もあれば、満月屋のおはぎや大福が一体いくつ食べられた事やら……龍一よ、せめて我が手で葬ってやろうぞ」


 双方共に殺る気マンマンと言った感じで、俺へとにじり寄ってきた。


「ちょ、ちょっと待てよ二人共。敵はあっちだろ?」

「まずアンタのその腐った性根を叩きのめしてからでも遅くないでしょ? 一万円も持ってるんなら、なんで食費にまわさないの!?」

「これだから女って生き物は困るよな。このフィギュアに今後どれだけの価値が出るかも知らずにさ」

「将来の価値より、今この瞬間の食費の方が大事でしょ! 大体、そんなバカみたいに無駄なものへ一万円もつぎ込む事事態考えられないわ!」

「そ、そうは言うがな、一万円で当てたってのは運がいい方なんだぞ! 普通は二万三万突っ込んでも当たらない――ひぃ!」


 佐奈の表情が雌火竜種よりもおっかない形相へと変わり、拳をパキポキ鳴らしながら今にも一子相伝の究極奥義を繰り出す勢いで迫ってきた! たすけてドラ○モーン!


「お、お、おまえらーいいかげんにしろー! 敵であるアタシをおいてけぼりにするなぁー!」


 ああ、ごめん。そう言えば居たんだっけ? ももいろあやかし。


「いいか! この空間ではなぁ、アタシの魔法力は数段パワーアップされるんだぞ! おまえらなんかひとたまりもないんだからな!」

「おう、一丁前に怒っとるのう……ではそろそろ本気で参るかな? 佐奈よ、ちと」


 花鶏が神妙な面持ちで佐奈を呼ぶ。


「よいか、わしはあやつの懐深くに飛び込み、動きを止める、その隙にわしごと封印せよ」

「ちょ、ちょっと花鶏そんな事できるワケ――」

「いや、龍一の策が使い物にならぬ以上、これしか道はない。もっとも、元よりあてにはしておらなんだがな」


 えっ! 俺ってはなっから戦力外計算?


「なぁに、龍一にわしだけ封印をといてもらえば何とかなるだろうて」

「それは……そうかもしれないけど」


 考え込む佐奈に花鶏は続けた。


「それにの、これ以上このような生活を続けておると、小姑に留まりおく自身がなく――いや、まぁそれはよい。とにかくやってくれ、佐奈」

「花鶏……」


 いきなりの戦力外通知にはちょっとむっとしたが、それはともかく危なっかしい作戦は取るべきじゃない。


「花鶏、そんなぎりぎりの戦いはやめようぜ? 下手すりゃ佐奈もお前も怪我しちまう」

「ほう、ではどうせよと?」

「じ、実はさ……最後の取っておきがあるんだ」

「なっ? この愚図! それならさっさと見せなさいよ!」


 佐奈の怒りはもっともだ。でもなぁ……できればこいつは出したくなかったんだ。

 何故かって? それは判るだろ。大事な家族フィギュアなんだぜ。それも俺にとって、とびっきりの逸品なんだ。先に出したそれ程愛着のない、塗装済みの完成品とは訳が違うんだよ。


 だが事態が事態だ!


 今使わないなら一体何のために持ってきたんだよ? って話だもんな。そうだよ、花鶏に憑依させて戦ってもらうため


に持ってきたんだろ? そしてその戦いの後に起こる出来事にも対処出来うるという計算の上で、『彼女』を選んで持ってきたんじゃないか。

 これが最後、最後の戦いなんだ! きっと乗り切れるさ。


「花鶏、べ、別に隠していたわけじゃないんだ。その、さっき出したもので何とかなれば、それに越した事は無いと思ってさ。でも今はそんな事言ってられないってのは判ってる。だからこの娘に、『ゼロの使いっパシリ』ってアニメのヒロイン『やる気ゼロのルーズ』に憑依してくれ!」


 鞄から取り出した一体のフィギュア。それはピンク色のしなやかな長い髪の毛も愛らしい、十六歳にしては幼さが残る印象のキャラクターだ。

 異世界の魔法学園の制服と魔法用のステッキ、ひるがえしたマントも凛々しいそのフィギュアは、原作のイラストイメージを大切に、俺が初めて一からフルスクラッチで製作した、記念すべきフィギュアだ。その思い入れは他のフィギュアよりも群を抜き、その愛情たるや底知れぬものがあると自負する、超逸品な訳さ。


「なんじゃ、あるならはように出せば良いものを」


 そう言いながら俺の手からルーズのフィギュアを受け取る花鶏の表情は、「やれやれ、やっと出しよったか」と言わんばかりだった。あれ? もしかしてこれって、俺ひっかけられたのかな?


「ふふ、お主を操る術を心得てきた自分が嫌になるわ」


 そう残して、基本体の花鶏は光に包まれ、小さな物言わぬフィギュアと化した。代わりに光の中から生まれ出でた少女。そいつは言わずもがな、アニメ『ゼロの使いっパシリ』に登場するヒロイン、ルーズ・フランシス・ラ・エリエールそのものだった!


「あ、花鶏。判ってると思うが、くれぐれも……」

「うむ、感じるぞ。泰山の安きに置くを思わせるお主の愛情……心配いたすな、ちょっとやそっとでは無くならぬわ。それより巻き添えを食らうぞ? 佐奈と共に離れておれ」

「魔女っ子対魔法使いの魔法合戦ってワケね。花鶏、がんばって!」

「うむ、任せよ」


 右手でしなやかな髪の毛をふわりと掻き揚げ、少しけだるそうにヘアスタイルを整える仕草。

 まるでアニメのワンシーンを髣髴とさせる異世界の風景に、これまたアニメの登場人物。この命の危険迫るであろう現状に、俺は場違いにもワクワクとした心の高揚を感じている。

 ここは一つ、原作さながら「うっさい、このバカ犬!」などと罵ってもらいたいとふと思った――が、よくよく考えると、いつも言われている事とさして変わらない気がするのでやめておこう。


「なぁお前らー、もうそろそろ攻撃してもいいかー?」


 シラケきった顔で問うあやかしの声に、改めて向き合う花鶏ルーズ。


「すまぬな。こちらの事情を無視せず待っていてくれた辺り、お主も義理堅い性格よの」

「フン、強者故の余裕ってヤツよ」


 にやりと笑みを浮かべ返したその言葉を皮切りに、互いのステッキが相手を見据え、閃光を放つ。


「くたばれ! 氷柱の弾幕アイシクル・ヴァラージ!」

「花鶏、エクスプロージョンだ!」 

「受けて立とう! エク……えくすろ……なんじゃ?」

「日本語で『爆発』だ!」

「 爆 発 ! 」


 無数の氷の鏃が迫り来る中、ぎりっぎりのところで花鶏の放った爆発魔法が、その全てを相殺粉砕した! まるでダイヤモンドダストのように舞い散る細かな氷の結晶と、急激な蒸発で発生した水蒸気が辺りを漂う しかし! そんな景色を強制的に引き裂き突き進む、紅い球体の存在があった。それは苺が無詠唱で放った火球魔法だ!


「油断したアンタの負けよ!」


 一瞬の出来事だ。放たれたファイヤーボールは、まっすぐにルーズの身体を射抜き、強烈な炸裂音を伴う爆発を見せた!


「「あ、花鶏!」」


 爆炎と黒煙渦巻く惨状に、俺も佐奈も息を飲む。勝利を確信した苺の高笑いだけが、静寂の結界内に響き渡った。


「あーっはっはっはっは! 詠唱なんて儀式のようなもの、詠唱無しでもこれくらいの攻撃呪文は即座に撃てるんだからね!」


 だが! 聞き覚えのある声が、その高笑いに合わせるように響いた。それは無論!


「くっくっくっく。詠唱は儀式のようなもの、か。いやまったくじゃな」


 花鶏がいつの間にかあやかしの背後を取り、枯れた木の枝のような杖をその頭に突きつけていたんだ!


「なっ! お、お前いつのまに――」

「なぁに、わしも詠唱無しで呪文を使うただけよ。『幻影』なる幻を見せる術でわしの幻を見せ、『瞬間移動』とか言う術を使うてここまで来た、と言う訳じゃ」


 そう、やる気ゼロのルーズが会得している『虚脱魔法』の『イリュージョン』と『テレポート』だ。だがよくそんな事を知って――あ、そうか。俺の心を読んで、咄嗟に考え付いた作戦か。


「すまぬな、龍一。また心を読んでしもうた……許せ」

「いやいや、いいさ。こんな時だし、花鶏を責める理由はないよ」


 ……うん? 何だろうこの違和感は。花鶏のやつ、今まで俺の心を読んだとしても悪びれる事もなく平然としていたのに、今回に至っては謝意を見せている。


 そういえば最近、花鶏は俺の心を読んでいない気がするけど……まぁそれはそれでいい事だけどさ。


「さぁ、あやかしよ。どうじゃな? 改心し詫びを入れ、この結界を解けば許してやらんでもないぞ?」

「ふ、ふざけるなぁッ!」


 一喝してルーズの杖を払いのけた苺が、軽やかなバク転と大きなジャンプで距離をとり、まるで仕返しと言わんばかりの氷の弾幕を張った。


「アイシクル・ヴァラージ! この! この!」


 やけくそ気味の乱発魔法により、いたずらに氷塊の針山が広く大きくなっていく。あやかしのやつ、余程頭にきたのだろう。やたらめったにあちこちと氷の魔法を打ちまくっている。


「ほれほれ、どこを狙っておる? わしはこっちじゃぞ」


 瞬間移動で苺の背後に回った花鶏が、からかい気味に手を叩いて気を誘う。


「フ、フンッ! それくらい分かてるわよ」


 魔法力の消費しすぎだろうか? 肩で息をしている苺が振り返り、花鶏ルーズを視界に納める。


「それにしてもアンタ、さっきのは甘かったわね! 背後から黙って魔法を撃てばよかったのにさ? せっかくのチャンスをみすみす逃すなんて大アマよ」

「なぁに、強者故の余裕と言うヤツよ」

「その態度、ほんっとムカツクんですけどーッ!」


 またもや氷の矢を放つ。しかしながら、ルーズは再度瞬間移動で攻撃をかわす。本来原作では詠唱の長さによりテレポートの距離が決まるらしいのだが、この程度の距離移動だ。花鶏ルーズにとっては瞬時にこの魔法を使う事は造作もないんだろう。


 が、しかしだ!


 攻撃が迫るその短い時間の間に、テレポートを発動させ、しかも出現する場所を決めなければならないと言う事は、流石の花鶏にもギリギリの判断だったのだろう。

 そう、ルーズの出現位置を読み、そこへ魔法を撃てば……そして俺達のいる屋上の半分以上は、この苺が放った氷の鏃によって剣山のような有様だ。ルーズが現れる場所はおのずと限られて――!


「かかったな、そこっ! 氷結爆弾フリージング・ボム!」


 花鶏ルーズが消えた位置から苺をはさんだ正面。その少し開けた場所へと、氷の塊が放たれた!


「――っ!」


 空間を割って現れたルーズの足元へと氷の塊が襲う! どうやら氷の魔法をめちゃくちゃに乱発しているように見せかけながら、テレポートの出現場所を限定させようと言う、計算の上での行為だったようだ。


 一瞬にして足元を氷結せしめたその魔法は、どうやら苺の図にあたり、花鶏ルーズの動きを止めてしまっている。


「どうだ! うごけまい? やーいやーいバーカバーカ!」

「むっ? これはしたり。ちと迂闊じゃったっか」


 苦笑い? いや、アレはちょっと内心焦っているような笑みだ! 流石の花鶏もピンチなのか?


「ちょっとばかり変な術が使えるからって、人間如きがももいろあやかしさまにたて突こうってのがそもそも間違いなのよ! じゃあね、おバカさん……ソワ・アン・デ・ヴァシラ・ウンラガシド、食らえ! あたしの必殺技、絶望の流れシューティングスター・オブ・デスパレット!!」


 マジ気味な詠唱を唱えるあたり、結構な威力の攻撃魔法をぶっ放す気なのだろう……どうしよう、こんな時俺は何もしてやれないのか? チクショウ! 俺はなんて無力すぎるんだ!


「死ね! 古狸!」


 突如花鶏の頭上高くの空間が裂け、バスケットボール大ほどの漆黒の流星群が風切り音と共に飛来する。ヤツの攻撃を阻止する術のないまま、ただ想いだけが俺の口を突いた。



「 畜 生 、 花 鶏 ィ ! 」



最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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