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第二章 第四話



「な、何ッ! ちゃんと鍵はかけたはず……」

「ふん、神仏をなめるでない。このような鍵などあって無きが如しよ」

「何をわけのわからんことを!」


 先生の怒りがピンヒールの踵の一点に集中され、無慈悲な鉄槌となって――何故か俺を襲った。


「うぎゃーッ! 何でまた俺が!? 花鶏、早くたすけてくれー!」

「龍一よ。助けには来たがな……佐渡とやら、そやつの去勢は続けてくれて構わぬぞ。どうせ以後使わぬものじゃ」

「あ、アホか花鶏! 勝手に俺の今後の人生までもを決める権限がお前にあるのかー!」

「フン、その内なるケダモノを潰してしまえば、今後こういった騒動も起こすまいて?」


 ぐぬぬ、言い返せない自分が悲しい。


「いやしかしだ、鍵野龍一本店が潰れてしまえば支店である身体全体が機能を果たさなくなるじゃないか! それだけは是非とも阻止したい! 頼むから助けてくれ、何でも言うことを聞くからさ!」

「何でも言う事を……か。まるで小悪党の命乞いじゃのう。まぁ良いわ……と言う事でのぅ佐渡よ、その者を放してくれまいか」

「ふぅん、こんな愉快なオモチャを独り占めしようって魂胆ね? 嫌だ、といった……ら!?」


 ズドムッ! とヒールの踵が一等激しく俺のシークレットゾーンを襲う!


「ッ~~~~!!」 


 もう声にならないくらいの快感――いや、激痛が全身を走る! このままじゃ、自分が男であることを失念してしまいそうだ。


「やれ、仕方なし。実力行使せよという訳か」


 そう言うと、花鶏は佐渡先生との距離をにじるが如くに詰め寄りはじめた。途端、先生は俺の股間への圧迫攻撃をやめ、花鶏と正面切って対峙する。


「ああ! せ、先生、やめないでください!」と、喉元まででかかった言葉をぐいと飲み込んで、俺は二人の闘志に見入っていた。


 ――が、そんな時だった。


 俺の身体がふわっと宙に浮いたのだ。なんなんだ? あまりの激痛に耐えた結果、無意識のうちに武空術でも会得したかな? 一瞬そんな思いに駆られたけれど、もちろんそんな事はある筈も無かった。ももいろあやかしが俺を軽々しくひょいっと持ち上げ、体育館側へと抜ける出入り口へと連れ去っていたんだ。


「うふふ、二号きゅんはぁー、あちしが預かりますわん!」


 見た目に似合わぬ怪力で俺を運びながら、可愛さ溢れる拉致宣言をかますももいろあやかし。そのお茶目な表情が、体育館へと躍り出た瞬間、ハッとした顔色へと変わった。

 扉の向こう、窓から差し込んだ西日の朱に染まる体育館の中央。そこには通せんぼをするが如くに仁王立ちとなった佐奈の姿があったのだ。


「さ、佐奈! きてくれたのか!」

「アンタのためじゃないわよ! こんなアホを助ける気にはなれないけどさ……花鶏のためとあれば仕方ないじゃない」


 腕を組み、やれやれという相変わらずの表情。けれど今だけは、そんなお前も女神に見えるぜ! ……って、なんで二人とも俺が体育館倉庫で襲われてるって判ったんだ?


「それはの、お主の考えなどわしには全てお見通しだからじゃ」


 などと、俺の思考を盗聴していた事を悪びれもせずに語る花鶏が、倉庫から体育館へと現れた。

 保健室での先生からのお誘いも、俺が嘘をついて倉庫前までやって来た事も、全てばれてたのか。で、その上で俺を泳がせて、ももいろあやかしを誘い出そうって事だったんだな。

 …………なんか釈然としないが、まあそれはおいておくとして――そんな花鶏に目をやると、そこには花鶏によって後ろ手に腕を取られた佐渡先生の姿もあった!

 流石は神様、基本体でも人間程度には十分強いんだな。


「クソッ! は、離せ!」


 動きに制限を強いられている佐渡先生の姿を目の当たりにしたあやかしの蜜柑が、俺をぽいっと放り投げ、囚われの身となった主人の元へと一目散に駆ける。


「ご、ご主人さまぁ!」


 そして蜜柑のツメが花鶏を襲った!


「娘っ子ぉ! ご主人さまを離すワンッ!」


 が、間一髪。佐渡先生の腕を離した花鶏は、蜜柑の繰り出した一閃をひらりとかわした。そして苦笑いの表情で一言。


「二人ともあやかしかと思うたが、その犬っころだけだったようじゃの。しかも気配を読ませぬと言う、わしをも謀る隠密さ……なかなかどうして侮れぬ者よ。だがわしへのこの仕打ち、高くつくぞ?」


 見ると花鶏の生白い頬に、一文字の赤いラインが一本入っていた。じわりと滴る一滴は、まるで花鶏の怒りの炎のように真紅に染まっている。


「さて、基本体ではここまでが限度じゃな。よかろう、奥の手を出すかの」


 そう言って、花鶏が肩にかけていた通学鞄から取り出したものに、俺は驚嘆を隠せなかった!

 それもそのはずだ、亜麻色のロングヘアーにちょこんと生えた二つの獣耳を持つ少女――アニメ『大神おおかみの更新料』に登場するヒロイン『ブランカ』のフィギュアがそこにあったのだから!


「ちょ、ちょ、ちょっとまて! 花鶏、お前ソイツをどこから……」

「うむ。お主の部屋の人形を一つ失敬して、毎日鞄に忍ばせておった。獣耳と尻尾があるでな、人たらん異形者はさぞかし強かろうと思うてこやつを選んだのじゃ」

「何そんな大事をさらりと言ってのけてんだ! そいつは俺のコレクションの中でも一二を争う想い入れの逸品なんだぞ!」

「で、あるか。ならばお主の愛情もしこたま篭っていようぞ?」

「と、当然だ! 俺に、そして世の男性諸氏にケモナー属性もアリかな? という新境地を開拓してくれた思い出深い作品なんだ! ホロウの時みたいに粉微塵にして――いやいや、少しでも傷をつけてみろ? お前の基本体にあらぬモノを付けてやるからな!」

「まったく、小うるさいヤツじゃな。最前言うたではないか? 何で言う事を聞くから助けよ、と」

「そ、そりゃあ確かに言ったけどさ……せ、せめて原形を留めて返してくれよ? な?」

「うむ、努力はしよう。憑依具現!」


 眩い輝きが花鶏を包む。それはつまり、俺の懇願は無駄な足掻きとなったって事だ。


 やがて光は霧散し、その場所に現れたもの。

 制服姿の花鶏フィギュアと、そして狼の耳を頭から生やし、大きな尻尾を「もふりん」とたくわえた、白い外套をまとう美少女の姿――アニメでお馴染みだったかわいい狼の化身、ブランカだ!


「ふむ、よしよし。これにてそなたと同じく獣娘となったの。さて、一手所望仕るか」


 と、そんな花鶏の変身振りに一瞬は驚いたももいろあやかしだったが、すぐさま平静を装い、にやりと口元を緩めたのだった。


「うふふん、そんなのではぁー本当のケモノ少女愛好家の心は奪えませんよぉー」


 笑顔の口元から、にょきりと鋭い牙が顔を出す。

 そしてそれは見る見る大きく……いや、それだけじゃない! 蜜柑の口も、顔も、身体自体も大きく、毛深くなっていく。こいつは本物の獣、狼女? ライカンスロープ? ウェアウルフ? よくわかんないけどなんかそんなやつだ!


 ともあれ、身の丈が倍以上もある敵に、至って冷静な花鶏ブランカだが……一体どう戦うのか?


「どれ、その図体がハッタリではないところを見せてもらおうかの」


 言うより早く、ブランカの右拳が矢のように空を翔け、山の如くに対峙する大犬蜜柑の左頬へと突き刺さる! がっ!


「っ! い、痛い! な、なんじゃこれは!?」


 痛みに顔をゆがめ、拳を早々に引き戻すブランカの姿。それはまったくの年相応の人間の少女の反応でしかなかった。


「うふふ、何かしましたかぁ? ぜんぜん痛くないんですけどぉ」


 灰色の巨体がゆるりと動く。そして蜜柑の右前足が、拳の痛みをこらえるブランカを、まるで獲物をいたぶるかの如く襲った。


「うぐぅ!」

「あ、あとり! 大丈夫かっ!」


 吹き飛ばされて体育館の床に身体を強か打ち付けられている現状を見るからに、無論大丈夫なワケは無い。だが、気丈にもブランカ花鶏はにやりと笑ってのけた。


「い、些かこたえたわ。じゃがまだ大丈夫……とはいえ、基本体より弱い闘力とは……さて、どうしたものかのう?」

「どうもこうもないわ! 私が戦うまでよ!」


 佐奈の叫びが体育館を駆け抜ける。既にその足元には以前見た光の文様が浮かび上がり、旋風をはらんでいた。


「くらえ! 錠前家封技、闘の術型――双輝妖撃掌!」


 佐奈の両の拳が青白い閃光に包まれた。


「でりゃああああッ!」


 まるで自分が発した咆哮よりも早いかのようなダッシュであやかしとの距離を縮める。


「せりゃあッ!」


 渾身の右が、光の軌道を一直線に描く! が、そんな佐奈のベストショットも当たらなければ意味がない。


「ちィ、外れた。ってか当たんない!」


 山のような身体がまるで攻撃を見切ったかのように、インパクト間際で機敏にかわす。


「ふぅ、あぶないわん。食らってみたくなるような、なかなかステキなお仕置きだけどぉ~、それに当たっちゃうとあちしの命にかかわる大ダメージなのよねぇ~」

「蜜柑! チンタラしてないでそろそろカタをつけてしまえ! けど、やりすぎるなよ? 痛めつけるだけでいい! 誰が女王様か教えてやるんだ」

「了解しましたわん、ご主人さまぁ」


 ゆるりと距離を縮める巨大な魔犬。流石の佐奈も、たじろぎを隠せないでいる。

 デカいガタイなのにやけに俊敏な動き、そして余裕とも取れる言い草。かなりの強敵っぷりに俺達は成す術がないのか?

 いや、実はあるにはあるんだ。だが、ソイツを言ってしまえば……あのホロウ・スリーピィのフィギュアに訪れた惨劇が繰り返されてしまうかもしれない。


 ……だが、しかしだ! 俺を助けようと二人の少女が身を挺して戦っているってのにだ、俺は自分のフィギュアの心配なんかをしていていいのか?


 そうだ、花鶏ブランカを見てみろ! 身体中を襲う痛みにうち震え、それでもなお戦う意欲を消していない。

 佐奈だってそうだ! いつも通りの気丈な素振りでも、内心はおっかなくてたまらないはずなんだ。


 彼女達は何のために戦ってる? 俺を守るためじゃないか!


 チクショウ、こんな大ピンチに俺は何てくだらない心配をしているんだ? 自分の命がかかってるんだぜ? 死んじまったら元も子もないだろ。

 いやいや、もちろん俺だけじゃないさ! 二人の大事な仲間の命が危険に晒されているんだ。


 ええい、ここは……ここは仕方がない!


「いいか花鶏、大事な事だからよく聞け! 『わっちはりんごと龍一が好きでありんす』と言うんだ! そしたら俺達の勝利は確実になる!」

「な、なんじゃ? それは一体……」

「いいから言うんだ!」

「う、うむ……わ……わっちはりんご……と(ごにょごにょ)……が……好きでありん……す? これでよいのか?」

「ちっがーう! もっとこう、感情を込めてだ! 大切な事なんだぞ!!」

「ちょ、ちょっと龍! そんな事今言わなくったって……」


 佐奈が口を挟む。


「うるさいッ! 口を挟むんじゃない。こいつは重要な事なんだ!」

「うぅ……そ、そうなの? わかったわよ」


 俺の勢いに気圧された佐奈が、口を噤んで引き下がる。そう、こいつは肝心な事なんだ!


「やれ、仕方ないのぅ……わっちは……わっちはリンゴと龍一が好きでありんす――ほれ、どうじゃな?」



 ―― 百 点 満 点 だ !



「それでこそ、それでこそアニメの中のブランカと同じだ! 今、俺の目の前には大神の更新料のヒロイン、ブランカそのものがいるんだああああ!」



 ああ、まるで二次元の世界に迷い込んだような錯覚すら覚えるようだ。

 これでもう思い残す事は無い! 感無量だ!


最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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