プロローグ
基本、毎日18~19時ごろに更新します。
よろしければお付き合いくださいませ。
高校一年生なんて言う人生の一期間は、実に多感な時期らしい。女は箸が転がっただけで大笑いするし、男はおっぱいと聞いただけで百メートルを全力疾走できるという民間伝承もあるくらいだ。
そんな想像力とエネルギーに満ち溢れた年頃の少年が、眠りのさなかに見る夢の中で、全裸の少女を登場させてしまうというのは、至極真っ当な事だと言えるだろう。そう、もし斯様な夢を見たとして、誰が咎めるというのか。
ましてやそんな夢を頻繁に見てしまう等という事は、身体が若く健康であるという証拠なのだ。前途ある男子としては、頼もしい限りだ。大いに結構じゃないか。
仮にではあるが、その夢に出てくる全裸の少女が、毎回同じ人物であるとしよう。
それは一人の女性を想いぬく、今時珍しい硬派な若者であると言う事ではないだろうか。まことに天晴れな心意気と、だれもがそう感じずにはいられないだろう。
ではここで問題だ。
夢の中に毎回同じ少女が、毎回同じシチュエーションで現れて、毎回同じ台詞を一語一句違わずに語りかけてくるという事態に見舞われたとしよう。
さて、この件に関し、いったい誰がどのような弁護をしてくれるだろうか。いや、こいつは弁護なんて必要ない。必要なのは、きっと精神科医の先生だ。おそらく誰もがそう言うに違いない。いやいや、やっぱ言わないで! 俺はどこもおかしくない! どこもおかしくは無いはずなんだ! ……多分。
そうなんだよ。俺はこの一週間というもの、前述の通り全く同じ夢を見るという、謎の素敵な悪夢にうなされる毎日を送っていると言う訳なんだ。
夢の内容を詳しく説明すると――。
我が家から目と鼻の先にある錠前神社。深夜と思しき真っ暗な一本道の参道を、俺が一人で歩いている所から始まるんだよ。
そして程なく開けた境内に出ると、そこには一本の巨樹がずんっと立っているんだ。
辺りを照らす器具など何もなく、周囲は鬱蒼とした草木が密集しているだけの境内に、ただ一本だけ雄々しくそびえる巨大な老樹。子供の頃から見知ったそれは、言い伝えによれば『怪異封じの御神木』と呼ばれるもので、何と言うか神様が宿っているような、厳かで神聖な感じのする古木なんだ。
で、まるで吸い込まれるように御神木の前まで歩み寄った途端、突然金縛りにあって、俺の体の身動きが取れなくなるんだよ。
そんな状態の中、目の前の巨樹へと目をやると、突然一人のすっぽんぽんな美少女がすぅっとその幹から現れて、俺に近付いて来る訳さ。
そうだな、年の頃なら俺と同じくらいの十六~七歳程で、切れ長の冷ややかな眼差しに、吸い込まれそうな漆黒の瞳がとても印象的で、艶のある黒く長いしなやかな髪の毛と、それとは対照的な新雪を思わせる輝くような白い肌という……そう、妖艶と言う言葉がとても似合う女の子だ。
おまけに華奢ですらりとしている綺麗なプロポーションに、ついくらくらと惑わされそうになる。だが、まことに残念な胸の谷間が、俺を今一歩のところで冷静にしてしまうんだ。本当にそれだけが残念でならない。
とまぁ、そんな女の子が、身動きがとれずただ立ちすくむだけの俺に、目の前まで歩み寄って、透き通るような可憐な声でこう言うんだよ。
『いにしえよりの契りじゃ。はようわしを開放し、身体を用立てておくれ』と。
夢というにはあまりにもリアルで、彼女の存在も、それに巨樹のある周囲の状況も、おまけにその場の空気までも、何もかもが鮮明なんだ。
こいつは何か心霊的な怪奇現象なのか? それとも逆に、現代科学の粋を結集した壮大などっきりなのか?
仮に霊的現象だったとして、俺のような何のとりえも無いただの一高校生に、その霊的な露出魔さんは何を求めてるんだ? それとも、やはりここは精神科医の先生にお世話になる以外、手段は無いのだろうかね。
となると未成年である俺としては、本来こう言う『精神がちょっとばかり病んでますね』的な事象は、両親という存在に相談すべき事なのだろう。
だが、お袋を早くに亡くし、親父も仕事の都合で海外にいるという有様だ。おまけに、そんな唯一の肉親である父親も、頼りにならないときている。
昨日の夜に国際電話で連絡をよこした際、思い切って相談をしたのだが、
「龍一、そいつはいろいろと溜まってんだよ。抜け」
の一言で早々に片付けられる始末。言われなくとも毎日――まあそんな事はどうでもいいか。てな訳で、肉親において頼るべき存在は皆無に等しい状況なんだ。
けれど、まだ「仮定」の話でそんな悲しすぎる結末を妄想するのは、自虐的過ぎて嫌だよな。
そこで俺はこうも考えた。
もしかすると我が鍵野家には代々俺の知らない特殊な力があって、ご先祖様が太古に封印したなんかへんなものが復活云々に伴い、俺に鍵野一族の秘めたる力の血が多く宿っているとかいないとかで、その謎の特殊能力みたいなものがこんな不思議な夢を見せているんじゃないのかな? と。
そうだよね。やっぱ仮定の話なんだから、もっとこう自分に都合よく考えた方が楽しいよね。
そこで学校への登校中に、「斯様な俺の宿命超かっこいい!」的奇譚チック妄想を、小学校からの友人である関口浩太に語り意見を伺ったところ、
「龍一、そいつはいろいろと溜まってんだよ。抜け」
と一刀両断されてしまった。言われなくとも毎日――まあそれはさておきだ。
とにかく流石の俺も、この夢に関していつまでも無視を決め込んでいられる訳じゃない。藁よりも相当頼りないが、こんなハッピーエロス溢れる悩み事を相談できる相手は、今現在、目の前のコイツだけなんだよな。
「友人だろコータ? そんなベタな下ネタ言わずに、もうちょっと親身になって話を聞いてくれよ!」
そう哀願こもる眼差しで訴えたところ、
「どうせまたネット販売でエロフィギュアのキットでも買って、作ってるうちにムラムラしたんじゃないのか? このフィギュア萌え族め!」
などと確信をズバリと付くコメントを頂戴するに至ったんだ。言い返せない自分がちょっと悲しかったよ。
実は今、限定販売の美少女系フィギュアシリーズ『温宮ハルナの憂鬱』ってアニメの主役キャラである温宮ハルナ(バニーガール仕様)を、製作用・保存用・プレミア待ち用と三体入手し、現在その一体の制作に取り掛かっている最中なんだ。
一応俺の面子のために言っておくけど、人には見せられないようなあられもない姿の美少女モデルではなく、アニメや漫画の美少女キャラクターを専門に製作しているんだ。
そりゃまぁ、きわどいコスのキャラもあるにはあるのはあるけどさ……。
とまぁそんな訳で、シンナー臭の漂う部屋で美少女フィギュアを作ってたら、頭があっぱっぱーになって変な妄想に取り付かれたりしてもおかしくないよな。うん、そこは認めるよ。
「まぁ心配すんな! 俺編集の秘蔵DVDコレクション……の二軍を貸してやっからさ。それ見て内なる小宇宙を爆発させろ」
「なんだ二軍かよ」
「嫌ならいいんだぜ?」
無論借りるけどね。
「でもよ、夢ん中で身体を作れって言ってるんだろ? もしかしたらその全裸少女、お前にフィギュアで身体を作れって言ってきてるんじゃないのか?」
と、俺にしれっとのたまうコータ。まさかとは思うが……本当にまさかとは思うが、俺の趣味である『美少女フィギュア製作』に何か関係があるんじゃないかなんて、些か考えたりもするんだけど……やっぱいろいろと溜まってんのかな? 俺。
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!
感想、批判、ございましたら是非お聞かせください。
評価ポイントなどを押していただけると、とても嬉しいです。
どうかこの子を安らかに成仏させてあげてください。






