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待ち合わせ

「すみません、勘弁してください。夜叉姫さんとは知らなかったんです」

 五人組のうちの一人が、必死に土下座をしながら、すがるような目で俺を見つめる。

 残りの四人は、すでに地面に転がってうめき声をあげていた。

「俺さ、夜叉姫って呼ばれるの嫌いなんだよね」

 土下座している男を踏みつけながら吐き捨てるように言う。

 夜叉姫。そう呼ばれるようになったのはいつのことだったか。

 友人曰く、女の子みたいなクリっとした目に長いまつ毛、スラっと高い鼻。それに放ったらかしで伸びきった髪。それを振り乱しながらケンカするさまは傍目から見れば夜叉のようにも見えるのだろう。

「すみません、すみません。お願いします、許してください」

 震えながら涙を流し、顔をクシャクシャにしている男をみて哀れに思うと同時にどうしてこうなったと考えこむ。

 たしか駅の近くで声をかけられて、急いでいたから無視して通りすぎようとしたらキムタクばりに「ちょ、待てよ」と肩を掴まれて……

 ん? 急いでいた? そうだ、約束があったんだ。こんなことをしている場合じゃない。

「次にこの辺で顔を見かけたら問答無用で潰すからな」

 そう言って男の腹に一発かまして俺はカンナとの待ち合わせ場所へ向かった。

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