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情報弱者の悩み


「誰だ」


壁に背をあてて周囲を伺う。無駄だとは判っていても、そうせざるを得ない。

傍から見れば、端末を手に壁に張り付いている半裸の男である。


特にドラッグを利用した記憶もないし、前後不覚になるほど飲んだ訳でもない。

だがしかし、確かに声を聞いたのは夢の中であったと断言してよい。

その声の主が、いま現実に自分の端末へ連絡してきているという事実は

自分を混乱させるのに十分な出来事だった。


「既に判っていらっしゃるのでは?」

「近頃は物覚えが悪くてね」


相手の笑う声を聞いて苛立つと同時に、いくらか冷静さを取り戻す。

まず相手が誰で、どうやってこのアドレスを知ったのかを確認する必要がある。

それに、コンタクトを持ってきた目的も聞き出さねばならない。


「……それで?用事は何だ」

「依頼です。指定する場所で、壊して欲しい物があります」


聞こえてくる音に細心の注意を払って、少しでも向こう側の情報を得ようとするが

本人の声以外は何一つ聞こえてくるものは無さそうだった。

つまり屋外ではなく屋内、それも閑静な場所からのコンタクトのようだ。

あるいは何かしらの加工がされている


「判りやすいな。俺を選んだ理由は」

「『連絡』できる人が、他におりませんでしたので」


連絡、に何か色々と含むものを感じる。

他にいないという事と、自分が見た夢は何か関係があるのだろうか。


「あの夢か?どうやってこの番号を……」

「ふふ、やはり判ってらっしゃる。また『連絡』します。返事はその時に」


通話が切れると、目の前の洗濯機が洗濯の完了を告げる。

いつのまにそこまで話し込んでいたのか、と端末の時計を確認。

確かに時間は過ぎていた。画面の表示は時間の経過のみだ。


「……どういう事だ」


そこで初めて、端末の履歴が存在しないことに気が付いた。

あまり操作に明るい訳ではないとはいえ、履歴の確認くらいはできる。

画面は、この端末で何のやりとりも無かったと主張していた。


とりあえず端末を置いて乾燥まで終わっている服を着る。

どうでもいいが、乾燥させた衣類の暖かさと、かすかに香る洗剤の匂いが好きだ。

『お楽しみ』を提供する店にいるような連中の匂いと違い、安らげる。


今の状況を考える。

夢に出てきた謎の人物から仕事の依頼を受けた。

相手を調べようにも端末に履歴は無く、先方からの連絡待ちだ。

別の仕事を探すという選択肢を選ぶには、今の状況はあまりに異常すぎる。

今の自分には助言が必要だ。コンピュータやオカルトの類に詳しい者の助言が。


だが、この状況を説明してくれそうな人間に心あたりは無かった。

自分自身が情報に疎く、非常識的でオカルトな存在なのは自覚しているが

情報に強い人間やオカルト寄りに詳しく、頼れそうな者を知らない。


正確に言うと、後者には心当たりがあるが、顔を合わせれば追い回されるのが落ちだ。

教会の退魔局――吸血鬼やら妖怪の類を滅ぼす組織――に所属しているような連中に

「すいません夢で破壊工作の依頼がありまして」などと尋ねに行けば

良くてカウンセラー送り。相手が悪ければ、仕事の対象にされて日常はお仕舞いだ。

教会のボランティアが利用できなくなると考えただけでも割に合わない。


せめて情報に明るい者を紹介してもらうべきだろう、と結論付け

俺は予定を切り上げて境界ボーダーポストに向かうことにした。

手元の残額がまた目減りする事を考えると、足取りは重いのだが。




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