不明な第三者が接続されました
午前11時。空を眺めれば、太陽が惜しげもなく降り注いでいる。
居住区画なら身なりの良い連中が歩いているだろう。
オフィス区画ならスーツに身を包んだ連中が歩いているだろう。
このストリート街はどうか。大量の失業者と幽霊が歩き回っている。
失業者と幽霊の違いは何か。市民登録があるか否か、である。
この違いは大きい。市民であれば偉大なる社会保障制度が
基本的人権の名の下、最低限の食事を保障してくれる。
身分不詳となると、縋ることができるのは公的ではない支援制度となる。
たとえば宗教組織、たとえば同属の互助会、そして何より……犯罪組織。
そういう訳で、自分は犯罪組織の息がかかっているコンビニに来ていた。
便利屋の名前に偽りは無く、大概の物は扱っている。
武器、防具、薬物、機械の数々。アルコールに食料品。場合によっては戸籍まで。
盗品か正規品かを問わなければバラエティは豊かである。
「ヒヒッ、今日は何がご入用だい?」
背の低い小男が端末を操作しながら声を掛けてくる。
雑然とした店内だが、品は全てタグで管理されており
必要な品はそこから引っ張り出されるのが、この店の防犯対策であった。
「例の物あるか?」
「ああ、あるよ。旦那も好きだね…まぁ天然モノには間違いないし、美味いんだが」
「一つくれ」
手渡されたのは、真空パックされた調理済みの肉だ。
合成品ではなく正真正銘の天然物である。
料理された物を真空で閉じ込めているため、値段が安い割りに味が良い。
自分はこれがお気に入りだった。
「毎度……たまには武器とかを買わないか。この前、掘り出し物の剣が出たんだ。
いわゆる業物ってやつで、凄腕のサムライが使っていたらしい」
「そんな余裕があるように見えるか?」
「いやあ、せいぜい小銭を掴んだって程度だね。でも旦那には似合うと思うんだよ。
その体格で振り回したら、さぞ愉快な絵になるだろうね。ヒヒヒ」
この店主が、そういう手合いの漫画や映画が好きである事は承知している。
自分が銃を使わないのを見てとるや、事ある毎にあれこれ勧めてくるのだ。
実際には銃だって使うし、正面からの大立ち回りよりは奇襲の方が多い。
その事は既に説明しているのだが、どうにも判ってくれないようだ。
「服と靴……それに住処を探している。幽霊でもかまわん場所だ」
「なんだ、そんな金があるなら刀を――わかった、わかったよ旦那。ちょっと待ってくれ」
無表情で眺めていたのが功を奏したらしく、幾つか住処の候補を出してくれた。
普通の家を選ぶときの感覚ならば、景観や駅までのアクセス、防犯を考えるだろう。
自分の場合の選定基準は、家賃の支払猶予と、逃走経路の有無だけだ。
他について思いを馳せる余裕は、今のところ存在していない。
いつか手に入る事を願う。
「……ここにしよう」
「あいよ。前の住人が戻ってくる事は無い。好きに使ってくれ」
その理由を尋ねる意味を感じないので、了解して端末を渡した。
小男は、端末と部屋の鍵をリンクさせる手続きを行う。
そして代金を渡すと、鍵と端末が戻ってくるのが取引となっている。
ここで自分の渡した2枚のカードが1枚となり、持っていかれた金額に溜息が出る。
「服と靴は隣の倉庫で好きなのを持っていってくれ。毎度あり」
「わかった」
倉庫に入っている新品の服と靴を見繕い、その足でクリーニングサービスに向かった。
そこで身に着けていた服を全て機械に放り込む。
待っている間に端末で住居の場所を確認しておこう。
そう考えて、端末を取り出したその時、着信があった。
何処からなのか思い当たる節を考えたが、特に浮かんではこない。
暫く待っても諦める気配が無いので、根負けして出ることにした。
「ようやく、繋がった」
声を聞いた瞬間に、全身の毛が逆立つ。
それは、夢の中で聞いた声だった。




