Sunlight
カレラの腕の治療には数日を要する、というのが医者の診断結果だった。
もっともそれは、数日で治療するための最先端の医療措置を導入するが故の結果だ。
企業人は社会保険が聞いて羨ましい、と言うと、カレラとベイクは笑っていた。
あの後、フェリックスは死体で発見された。
開放したアレがそのままで済ますとは思わなかったので、一々疑問には思わない。
カレラは当初こそ疑惑の眼を向けたが、ベイカーの証言でそれは払底された。
二人は晴れて元の生活に戻ることになったようだ。
もっともベイカーは前の部署には戻れないまま、特命対策課に籍を置くらしい。
事件翌日、カレラは実務担当として『中途採用』扱いになった状態で『入社』した。
元の戸籍が失われてから時間が経過しすぎており、戻すには無理があったらしい。
気にしていないかと尋ねたら、特には気にしていないらしい。
「思い出があればいい」と言って笑ったのを見て、ベイカーと俺は驚いたものだ。
特命対策課には実態を知ってか知らずか、幹部職が別に割り当てられることになるそうだ。
ベイカーには、もう一つ良いニュースがあった。今回の一件で、以前よりもネットワークに対する嫌悪感を克服したらしい。
ショック療法みたいですね、と笑っているベイカーの顔は明るかった。
お気に入りの人形が壊れたことはショックだったらしいが、懲りずに次のモデルを買うつもりらしい。
ベイカーは失業せずに住んだことを喜んで、喜びのあまりにその夜は酒で潰れた。
一方、しばらくは手に入れた家に帰宅もできずにいた伏が家に戻ると郵便物が山のようになっていた。
電子化されているかと思われがちだが、現物がもつパワーも捨てがたいため、この時代でも健在だ。
玄関にはよく見ると無数のマークと解錠を試みられた痕跡がある。どう見ても良くないサインだ。
ため息を付きながら印を消したり、突っ込まれた郵便物を束ねていると、お隣さんが顔を出した。
別に引越しの挨拶はしていないし仲良くするつもりもなかったが、形式的に挨拶をしておく。
見ると小学生ぐらいの子供だ。多分、音が気になって顔を出したのだろう。
「どーも、隣に越してきました」
目が合うと、引っ込んだ。中から足音がするから部屋に戻ったのだろう。
何なのだ一体、とブツブツ言いながら整理整頓を続けて一段落する。
個人あての郵便物はないか、とチラシを確認すると、差出人のない封筒が挟まっているので、ポケットに突っ込む。
おおかた管理組合やら個別の依頼やら、巧妙に作られたチラシのたぐいなのだろう。
次にドアが開いて顔を出したのは、女性だ。おおかた先ほどの子供の親に違いない。
「あらホントだ、こんにちは」
「どーも、お隣です」
「いまお帰り?子供がうるさいかと心配でして」
人の良さそうな親だ、という感想を抱きながら気にすることはないと告げる。
「……ま、夜勤が中心なのでお気になさらず」
「あらそうなの。大変ねぇ」
「ええ、そりゃあもう……厳しいのでキャンキャン吠えてますよ」
会釈をして、自分の帰るべき家に戻る。
ここ最近は雨に降られてばかりだったが、ずいぶんいい天気だ。
次の仕事にとりかかるまでは、暫くはのんびりしよう。
夜もいいが、昼間からゴロゴロするのもいいものだ。
そう決めた伏は、とっておきの合成肉とアルコールを取り出してソファーに腰掛けて、一杯はじめるのであった。
空は珍しく青く、穏やかな日光が降り注いでいた。
これにて物語は終わります。ありがとうございました。
誤字脱字、修正したい場所は多々あります。
が、まずは終えたことを喜んでおります。
また色々書きたいし作ったプロットなどもございますが
今はとにかく昔の自分に『成し遂げたぜ。』と言ってやりたい感じです。
一度は放置して無かったことにしようとも思いましたが
次にとりかかる前に、どうしてもオチをつけたい作品でもありました。
かれこれ4年越しで何とか終わらせた次第です。
感想がいただければ嬉しいですし、無くともアクセスが増えれば喜びます。
現金なものです。
モチベーションの維持になった各方位に感謝申し上げます。
次はもう少し短期間で成し遂げたいものです。




