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引継ぎ

※いつもより読み辛くなっております。



先ほどまで会話していた相手が、単なるドキュメントファイルに置換される。

単純なデータの置き換えだと割り切ってしまえば、どうという事は無い。

だが、急に異動になり、ナノマシンで命が奪われる状況に放り込まれて

前任者の立場を引き継ぐことになった今は、胸に来るものがある。


思ったよりも私は参っているようだ、と自分の状況を認めて

すこし時間を置いてから、改めて残されたドキュメントを確認した。



『後任者へ。

 既に“俺自身”から説明を受けたかもしれない。

 だが様々な可能性を考慮してテキストとして情報を残しておく。

 俺の担当した特命オーダーは電子的な技術だけでは達成する見込みは無い。

 解析対象のサーバである“霊廟れいびょう”は霊的接続アストラルリンクで経路を確保している。

 まずは、その経路を潰すために中継拠点となっている物体を破壊すること。

 これは次に説明する厄介事への対策となる。

 厄介事……こちらから接続した際に作動する“霊廟れいびょう”の障壁について。

 これは霊的アストラル攻性防壁ファイアーウォールであり、文字通り接続者を攻撃してくる。

 俺の時には接続者に対して獣の幻影イメージが襲い掛かってきた。俺の精神に!

 これを書いている時点でも、既に幻覚、または感覚の喪失が発生している。

 次は死ぬだろう。ああ、そうだ!幻影イメージは何度も攻撃してくる!

 接触してはならない。接触した場合は霊的アストラルの専門家に助けを求めろ。

 この文章を読んでいるという事は、俺と同様にエルフだということだ。

 俺の知り合いからの助力があれば対処できる可能性がある。だが残念なことに

 そいつはエルフ至上主義で、同族エルフでなければ助力は得られない。

 アドレスと符号は紙に書いてベッドの下に混ぜえ居る。

 そしてお前が志願者ではない場合……志願者だとしても、ナノマシンを注射されている。

 俺のデータを例の至上主義者に提供しておいた。既に解析済みだそうだ。

 もし首輪を外したければ、連絡してみろ。俺は命まで会社に差し出した覚えは無い。

 だが俺は、その首輪を外すことは無いだろう。

 これを書いている今も、出来る限りの人格転写を行っている。

 いつまで時間が残されているのかもわからない。 どこからか獣の声が聞こえる。

 もう回線を切っているが、アイツには意味が無い。拠点を壊さなければ何度でも来る。

 気をつけろ。霊廟れいびょうを解析するように特命オーダーした奴の狙いを探れ。

 フェリックス課長の上にいる3人の部長は全員が既に死んでいた。

 課長は知っているのか?確認するときは気をつけろ。全員が怪しい。課長もだ。

 声が近づいてきた。転写率は3割にも満たない。だめだまにあわない しにた』



やはり前任者の彼が何をして欲しいのかまでは、断片化していて探れなかった。

あるいは既に無くなった彼の中にだけ存在していたのかもしれない。

仇を討って欲しいのか、助けて欲しかったのか。それを知る術は失われている。

だが判ったこともある。私も前任者も、死にたいとは思っていなかった。

前任者は可能な限り手を尽くしたが、届かなかった。

自分はどうだ。彼の屍を踏み台に、まだ手を伸ばすことが出来る。




眩暈。私は再度襲い掛かってくる『焦げ付き』の悪夢を越えて現実に戻った。

周りに描かれた意味不明な文様は、恐らく彼なりの抵抗だったのだろう。

戻ったときの不快感は暫く消えないが、無理やり体を動かしてベッドの下を漁った。


やがて丸められた紙が指に触れ、それをつまんで広げてみる。

紙に書かれていたのは、携帯端末の連絡先だ。

私は個人の端末でナノマシンと霊廟というキーワードを元にメールを送って

ベッドに横たわった。


カレラの支援は望めないだろう。

かと言って直にメールが帰ってくるとも思えない。

シャドウランナーと呼ばれる連中を頼ろうにも、

今の自分に人を雇うような金は存在していなかった


金。


「……経費、落ちるのかな」


ふと疑問に思い、私は課長に電話をすることにした。

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