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勤務時間・日数は相談に応じません


車はやがて、雑居ビルの前に到着した。

箱1つを抱えて降りた私の後ろに1時間前に職場を去ったときと同じ隊列。

先導が運転手。進む私の後を、他のメンバーが付いてくる。


3階のフロアに到着すると、そこに机や簡易べッド、

そして暫く扱っていなかった、電脳直結型の端末タップが目に飛び込んできた。

「ここが君の、そして前任者のいた職場だ。出入りは自由。2日おきの報告が義務だ」

「ちょ、ちょっと待って下さい。まだ何をやるのか聞いていないんですよ?」


よく見ると床には奇妙な模様が無数に刻み込まれており

その模様から、何か形容しがたいものを感じる自分にも気づいた。

私の理解できない世界の出来事に巻き込まれたことは確信していた。

だが、彼らが何を求めていて、私は何を成さねばならないのかが判らない。


「先ほど見せてしまった方が早かったのだがな?ベイカー君。

 自己紹介が遅れたな。私はフェリックス。一応は課長という扱いだ。

 気軽にフェスとでも呼んでくれ」


ミラーシェードを外して笑顔を見せるフェス……自分の、これからの上司相手に

私は正直なところ、面食らって何も言い返せないままだった。


「君の抱えている問題トラウマは知っている。だがそんな事を我々は考慮しない。

 君には、あるデータベースにアクセスしてもらう。 期限は2週間。

 必要な機材があれば多少は用意できるが、基本的にはある物だけだ。

 バックアップは1人。普段は別の特命にあたるため、原則は1人で対応してもらおう。

 以降の詳しい説明は、彼……カレラから聞くように。何かあれば連絡してくれ。健闘を祈る」


フェリックス課長と名乗った人は、携帯端末を机の上におき、他のメンバーを連れて立ち去った。

唖然としている間に質問すべきチャンスは失われてしまった。

いつもそうだ。私は何をやるにも遅すぎる。

残ったのは銃を向けてきた男。その表情は相変わらず仏頂面だ。


「よろしくお願いします」

「ああ」


沈黙。説明とをしてくれる気配は無い。

互いに黙り込んでしまったが、このままでは埒が明かない。

私は恐る恐る、カレラと呼ばれた男に質問を切り出した。


「……その、特命オーダーの詳細を教えていただきたいんですが」


データベースにアクセスする事は判ってます、と付け加えた上で尋ねてみる。


「少し前、次期リリース予定の試作端末が奪われる事件が発生した。

 それについて責任者や関係者に事実関係を確認中、別の問題が判明。

 以前から、施設のあった場所に対してデータのハッキングや、幽霊騒ぎがあったらしい。 

 前任者は、その件についてのリサーチを担当していたが、確認中に "見えない"《・・・・》 防壁で焼け死んだ。

 残ったデータから、ハッキングには廃棄された研究所の『霊廟れいびょう』と呼ばれるシステムから

 無線の通信経路を利用して行われたことまでが判明している。お前は前任者に代わって、

 その『霊廟れいびょう』の解析を行ってもらいたい。選抜理由は既に聞いての通りだ。

 死んでも構わず、魔法適性がありそうで、かつエルフである……よかったな」


最後の一言は余計です、という言葉は、喉のあたりで飲み込んだ。


「……最後の条件がよく判らないですね。どうして種族の限定を?」

「前任者の設備を利用するための条件に、簡易DNA検査と魔法的なロックがかかっているらしく

 エルフ以外のものが触れてもシステムが起動しない。どのような意図でそういった仕組みにしたのかは不明だ」


はた迷惑な前任者をいくらか恨みたい気持ちがあったが、

どうしようもないので諦めている自分もいた。

自分がいくら抵抗しようとも、虫ケラのようにひねり潰されるのがオチだろう。


「……後は端末で確認しろ、という事でしたね。普段は、ここに出勤すれば良いのですか?」

「そうだ。連絡先は課長の置いていった携帯端末ポケットロンにある。必要があれば呼ぶんだな」

「わかりました」


端末を手にとって連絡先を確認する。

登録情報を見ると、どうやらフェリックス課長と、カレラの2名しか登録されていないようだ。


「ああ、最後に大事な事を3つ」


背後にカレラ氏が立ってそう言うや否や、首に何かを押されたような鋭い痛みが走った。

振り返ると、なにやら銃のようなものを持っている。


「まず、いま注射させてもらったナノマシンについてだ。

 2日に1度の報告が無ければ、そのナノマシンによってお前は死ぬ。

 次に、その携帯端末ポケットロンだが、特定の操作で自爆するよう設定されている。

 自決するなり破壊工作に使うなり好きにしろ」

「そんな……!」

「俺にも同じような処置が施されている。自爆操作はマニュアルを読め。

 最後に、お前の所属は現時点を持ってイワサキ本社、特命対策課エクストラカウンターに配属となる。

 昇給する上に勤務時間は報告の時以外、全て自由だ。ようこそ、新しい職場へ」


話は終わりだ、といわんばかりにカレラ氏も去っていき、私は一人、部屋に残された。

足元を、忘れ去ろうとした絶望が抱きしめてきた。

一体私はどこで間違えてしまったのだろうか。

何もしていないはずなのに、どうして悪い事ばかりが……。


私はそんな自問自答をしながら、奇怪な模様の中心地店にある椅子に腰掛ける。

しばらくは呆然としていたが、じわじわと自分が死ぬかもしれない事がわかってきた。


怖い。私は、死にたくない。


ヘッドセットを装着する。自分の呼吸音で、驚くほど息を荒げているのが判る。

だが立ち止まるわけには行かない。

私は意を決し、自らの電脳を直接ネットワークに接続した。

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