Hello, hello, hello, how low?
「つまり、ここで俺に寝ろという事か。ここで」
「そうです。そのまま意識を向こう側に持っていけば……」
そう語るケイトの表情は、いたって真面目であった。
彼女に限った話ではないが、情報やオカルトに偏る連中は
なぜ目的のための手段を選ばないのだろうか。
「そう言われて素直に寝ると思うか?」
軽いめまいを覚えつつ、俺はあからさまにため息をついてみせた。
寝ろと言われて横になれる程、俺の寝つきは良くない。
さらに初対面の人間を前にしているのだから、寝れる訳が無い。
「ただ、横になってほしいだけで……」
「……俺がお前に横になれと言ったら従うか?」
「はい」
まっすぐこちらを見て即答されると、呆れるのも通り越してしまう。
ただ、現状では相手を待つことになるのも事実である。
「……薬で寝ても問題ないか?」
「はい。任せてください」
いくらかの葛藤はあったが、俺は提案を受け入れる事にした。
もちろん多少の保険をかけて、の話だ。
階段を降りて、店主に睡眠薬とジュースを頼む際、
先に女が出て行った場合の『処理』も注文しておいた。
この保険が有効とならず手数料だけで済む事を祈る。
「お前の行動をハタから見ていると、最低な男だぞ」
「気が合うな。俺もそう思ってるところだよ……」
店主のやりとりも含めて一部始終を見ているらしいオークの2人組が
カウンターでニヤニヤ笑っている。
連中からすれば、俺は女を眠らせて『お楽しみ』を狙うケダモノだろう。
後の噂を考えると、ジュースを酒に切り替えてしまいたい衝動に駆られる。
俺はため息交じり階段を上って、部屋に入るなり睡眠薬のタブレットを租借。
ジュースで流し込んでから、ベッドに横たわった。
「危ないようであれば、すぐ引き戻します。用事が済んだら手を叩いてください」
「ああ……夢の中で……覚えていれば……」
この睡眠薬は本来、舐めたり丸呑みして服用するものだが
それをあえて細かく噛み砕くことで効果を早めた。
ついでに本来は1粒で十分な代物を3粒一気にあおったものだから
意識は文字通り落ちたのだ。この身体では、それも長続きしないのだろうが。
ほどなくして、自分は奇妙な回廊に立っている事に気が付いた。
夢を夢だと自覚するというのは奇妙なものだが、これが術の効果なのだろう。
『……聞こえてますか。今から言う通りに進んでください』
そう言われる先には道がある。
意識していない部分は霧につつまれており、見えている部分も
石畳が波のようにうねっている。耳には無数の声が聞こえ、皮膚感覚は無い。
こんな得体の知れないものよりも、五感で感じられる現実が愛おしく思う。
どれだけ歩いたのかよく判らないが、やがて道の果てに巨大な壁が見えた。
城壁、とでも形容すべきそれは、近づくと檻である事が判る。
『ここです。ここに、貴方に連絡をしてきた主が……檻には触れないでください』
恐らく、触った結果が先ほどの光景なのだろう。
しかし触れずに進むとなると、どうしたものか。
無駄足だったのか、と尋ねようとしたその時、
「これはこれは……本当に来るとは思いませんでした
檻の向こうに、人影が現れた。