赤ずきん【大人の童話館】
昔むかし、ある所に愛らしい男の子がおりました。
肌が白く日に弱かったので、母親から頭巾を被るよう言われました。
真っ白なレース編みの頭巾は、彼の肌にとても良く似合いました。
ある日、男の子は、母親から、おばあさんの見舞いに行くよう言付かりました。
手にしたバスケットには、リンゴとパイとワインを少し。
空は良く晴れ、男の子の気分もすがすがしいものでした。
男の子は、白いレースの頭巾と同じように、心の清らかな子どもでした。
けれども、晴れ渡る空に突如黒雲のように怪しい影が近づいて来ることに彼は、ちっとも気づきませんでした。
「よう、“白ずきんちゃん”俺たちと遊ばねぇ?」
見れば、4人の屈強な若者ばかり。
男の子は、とても適わないと、彼らについてゆくことにしました。
男共は、おばあさんの家とは逆方向の森へ、男の子を連れ出しました。
「この辺で良いだろう」
男の一人がニヤリと笑うと、男の子は簡単に取り押さえられ、彼らの言う事をききました。
男の子は、初めての大人の世界にくたびれ果てました。
けれども、なんとか体を起こし土で汚れた頭巾と服を身につけると、おばあさんの家に出発しようと立ち上がりました。
男共は、男の子が持っていた、おばあさんの為のワインを皆で飲み干し、無様にも寝入っていました。
黒雲は、男の子の胸にわいた、暗雲でした。
圧倒的な力の前に、簡単に屈服してしまった自分が、本当に不甲斐なく、
男の子は、すっかり寝入った男共全員に、怒りのナイフを、何度も突き立てました。
たくさん歩いて、疲れ果てた男の子が、ようやくおばあさんの家にたどり着いたのは、カラスがカァと夕刻を告げる日暮れ頃でした。
「おばあさん、ごきげんいかが?すっかり遅くなりました」
夕焼けを背にした男の子の頭巾は、日の色ではない〈赤い色〉にすっかり染まっていました。
おばあさんは、言いました。
「いらっしゃい、赤ずきん」