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Stellacce Twinkle  作者: 橿原るり
第一幕 サンリスタニア王国編

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第6話 嘶く綿毛はメーメーと

朝起きるとフレンはもういなかった。

机に服が置いてあった。ズボンと白いティーシャツだった。手紙も置いてある。

『俺の部屋着良かったら着てくれ!』


お言葉に甘えて着替えた。かなりダボダボだ。紺色のハーフパンツのようだがぼくには七分丈になった。服の生地が不思議な肌触りだ。何か加工してあるのかな?


とりあえず、狭い廊下を歩き広場に向かった。

広場にはステラッチェ団長がいた。

「やぁフレンの部屋はどうだった?眠れた?」

「はい。寝坊をしてしまったようで」


ステラッチェ団長は昨日と同じ服を着ていた。シルクハットは被っていない。

「寝坊だなんてそんなことないよ。その服フレンのもの?プレンツにはちょっと大きいね」

「はい、そのようで」

「おなかが減ったでしょ?朝ごはんを食べたらちょっと歩かない?」



朝食を食べてから建物を出た。朝食はパンと野菜スープだった。

街のはずれにこの建物があるようだった。

「この建物は舞台と私達の宿舎があって、って話はベールとかから聞いたのかな?」

「はい。ベールさんに教えてもらいました。」

「そっか。ベールはあんな感じだけど親切だし教え方も上手いから教育係として優秀で助かる」


建物の全体が見える位置まで歩いた。

「この建物は商人の宿(サライ)と呼んでるんだけど、私達、実はもう一つサライを持っていてね。今見えてるのが大っきいサライ。秤の国にもう二回りぐらい小さなサライがあるんだ。それを行く先々に合わせてキエリスの魔法で転移して公演してるんだ」


移動の時は私も手伝ってね、と付け加えるステラッチェ団長。


「どっちもサライだとどっちのことかわからなくなるからおっきい方をガルニエ、小さいのをそのままサライって呼んでる時もある。ま、みんなどっちも使って話してるかな〜。ちなみにガルニエというのは昔あった建物の名前から名付けられたんだ」


全体が見えると宮殿のようだ。フロント部分には石柱が何本も並び屋上には何やら金色に光る像なども見える。

よく見ると柱や壁にも看板が書いてある。この劇団の広告だろうか。いや、劇団以外の広告もあるようだ。


「私達は舞台ごと移動するから広い場所じゃないとサライを置けない。だから大体街のはずれや畑跡とかにサライを置いて公演するんだ」


遠くの丘に栄えてそうな街が見える。あの距離ならそこまでアクセスは悪くないのだろう。


「さ、着いてきて。今日は天気がいい。あまり楽しい話ではないかもしれないけどプランツのこと教えてくれないかい?」


ぼくは話した。帝国の施設で育てられたこと。初陣のこと。そして昨日あの町にいたことを。


ステラッチェ団長は時々頷き、真剣に聞いてくれた。

気がついたら草原に着いた。遠くに何か白いものがいくつも動いている。


「プレンツ教えてくれてありがとう。大変だったね。改めてうちの団に入ってくれる決断してくれて嬉しく思うよ。これからよろしくね」

そういうとステラッチェ団長は手を伸ばした。


「はい。これからよろしくお願いします。」


固く手を握った。ステラッチェ団長は微笑んだ。少し照れくさいな。


「えっと、あの遠くに見えるあの白いのは何ですか?」


照れて話題を変えたくなった。面白くない身の上話も終わったところだし。

握った手を解きステラッチェ団長は白いものの方向に指差す。


「ああ、あれは羊だよ。見たことないかな。ここは羊のための牧場なんだ。あとで近づいて見てみようか。かわいいよ。モコモコで。」


薄汚れてるとこもチャーミングだよ、と。

羊か。そういえば聞いたことはあるけど見たことなかったな。この草原は彼らのご飯だったか。しかしぼくたちはなんでこんなところに来たんだ?


ステラッチェ団長がぼくに背を向け歩きながら話す。


「プレンツ!うちは魔法劇団なんだ。それに君の魔法を消す魔法。昨日君と戦った時は何も見えなかったんだ。私は団長として君の能力を最大限に活かしたい。うちの劇団のためにね」

ある程度距離を取ったところで振り向いた。

「だから君の力を見せてほしい」


手のひらをこちらに伸ばした。

すると炎がぼくに向かってきた!


両手を伸ばし『ぼくの魔法』を放った。

魔法があたるやいなや、みるみる火の勢いが消えていった。こちらまで熱が襲った。


「うん!じゃ次行くよ!」


デコピンをした。

昨日見たようにデコピンの軌跡に沿うように水がこちらに放たれた。

放たれた水に向かって魔法を放った。水はぼくの魔法があたるとその場で滝のように垂直に落ちた。


ステラッチェ団長が右手で空中を煽り小規模な竜巻を起こした。

これにもぼくの魔法を放って打ち消した。


それからも土の柱や雷、光線などを約1時間にわたって試された。

「はぁ……はぁ……」

息が上がる……。絶え間ない滝のような魔法の攻撃のラッシュを受けたのは初めてだ。何よりその魔法の威力とキレが今まで見た、受けたものとは大違いだ。

そんな精度の高い魔法を繰り出し続けるステラッチェ団長は涼しい顔をしている。初撃と顔色が変わっていない。淡々とあの手この手と様々な魔法を放ち続けていた。


「くっ……」

思わず膝をついてしまった。あのひとなんて魔力量なんだ……。

「おっと、ごめんごめん!」

繰り出そうとした魔法を引っ込めてこちらに走るステラッチェ団長。

「いやぁそりゃ疲れるよね。こちらも色々分析しながらだったから配慮が足りてなかった。申し訳ない」


頭を掻きながらそんなことを言った。

こちらはもう座り込んでしまった。よく見るとそばに小さく丸い黒いものがあった。羊とやらの糞だろう。最悪だ。だけどそれを気にするほどの気力がない。


「いやー面白いね!君の魔法!やっぱり私にもわかんないってことがわかった!うーん血の魔法なのかな?魔法の性質上私には模擬できないだろう。ちょっと手貸してみてよ」


そう言うとうなだれるぼくの手を取った。この人結構強引だな。

「……うん無理!残念!無念!やっぱダメか〜」

「あのさっきから何のことを……?」

「私の左目、右目と違って花模様が見えるだろう?」

「目ですか?確かにそうですね」


左頬の黄色い星のペイントが特徴的なステラッチェ団長の顔だが確かに左目の瞳に花の模様が見えた。

「この左目は特殊でね。魔法がよく《《視えるんだ》》。平たくいえば魔法の分析に長けているんだ。その人が持つ魔法量とか得意そうな魔法、その性質、物に宿る魔法とかが見ただけでわかるんだ」


両手を腰にやり胸を張るステラッチェ団長。


「そんな私だからどんな魔法でも見ただけで私はその魔法を再現できる。つまり模擬だ。魔法劇団長としてこれほど最適な力はないだろう。うん。うん」

腕を組み一人で頷き始めた。ひとりで忙しい人だ。見ただけで魔法を真似できるってことか。そんな人帝国でも聞いたことがない。それに魔法の性質なども一眼でわかるだと?正直信じがたいな。それにしてもそれで魔法劇団で役に立つのだろうか。そりゃ魔法が出来るに越したことはないのだろうけど舞台ではステラッチェ団長だけが魔法を使っていたわけではなかった。代役ができるということを言いたいのだろうか。


「なんで模擬が魔法劇団長として最適なんですか?」

「私は舞台の総合演出も担ってるんだ。つまり私は団員たちの使う魔法全部を使って演技の指導ができる。全く同じではないよ?魔法の出力はもちろん私の魔法量に準ずるからね。うちでいう魔法の出力はそれイコール演技の派手さを意味する。ちなみにうちの団で私より魔法量が高い演者は一人しかいない。つまり!」

くるりとその場で回りステラッチェ団長は続ける。

「みんな私を追いかけているってわけ」


ニコっと笑顔を見せるステラッチェ団長。

昨晩の劇の全てがとんでもない魔法だった。

あれらよりもこの人が繰り出す魔法の方がより派手?というか全員の魔法を全部模擬できるってホラ話ではないみたいだ。

昨夜見た魔法ひとつひとつがとんでもなく洗練された魔法だった。どれも魔法の『毛色』が違うのに。

この人昨日から感じていたけど能力が半端ではない。


帝国から教育されたときに聞いた神様みたいじゃないか。


この世界には神がいる。どの神も常識では考えられないほどの力があるという。神が統治している国もあると。帝国はその神に対抗すべく力を蓄えていたようだった。


「血の魔法は聞いたことある?あれは肉体に宿る魔法だから私も血の魔法を使う人に接触しているときじゃないと模擬できないんだ。キエリスと飛んだとき手を繋いでいたでしょ?転移の魔法はキエリスに宿る血の魔法なんだ」


ぼくはまだ息が上がっている。しかしこの人もよく喋るな……。きっとこの人の魔力量の話も事実なのだろう。

キエリスの転移の魔法は血の魔法というものだったのか。確かに帝国でもそんなことを聞いたことがある気がするけどかなり珍しい魔法だったはずだ。ではぼくの魔法はどうなんだろう。


「あ!まだ氷と幻術を試してなかった!じゃ続きをやろうか」

「え?」

「まだ試したい魔法がいっぱいあってね!」


じゃ!とスキップしながらぼくの元を離れていく。間合いをとっていく。

この人、神なんかじゃないただの悪魔だ。

子供が疲れて座り込んでいるのに続行という選択肢があるか!


「おーいそろそろいくよー」


遠くから悪魔の囁きが聞こえる。

あの人にとってぼくに繰り出す魔法なんて小石を投げる程度の労力でしかないんだろう。

なんたるスパルタ。帝国の訓練でもここまで非情ではなかった。何より厄介なのがあの人の純粋さだ。

遊び方を覚えた子供のように。ただ興味を持ってぼくの魔法を試している。


「あ、羊ー!羊見たいのかー!じゃこれが終わったら見よう!」

「違うよこの悪魔ー!!!」


結局夕暮れになるまでひたすら悪魔の魔法を打ち消し続け、『ほら』と羊を見せられた。


「メー」

羊が鳴いた。

「メー」

悪魔が鳴いた。

……悪魔が疲れ切ってギリギリで立っていたぼくを見た。

「ほらメーって言ってごらん?」


何なんだこの人……。


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