第8話:さまよう思考
第8話、公開しました!ぜひお楽しみください!
「小川! 集中しろって言ってんだろ!!」
「はい、すみません!!」
鯨中学校の訓練場では、合同訓練プログラムが進行中だった。各班は近い位置で、それぞれ別のメニューをこなしている。
青木班は剣の振り。
七瀬班は気の制御。
沢村班は反応速度の訓練。
そして青木班の中心には、いつも通り小川に苛立っている青木がいた。理由は単純。小川がまったく真面目にやらないからだ。
「剣の持ち方が違う! ちゃんと握れ!」
「に、握ってますって……俺なりに! ほら、動いてるし!」
小川は両手で剣を握った。……が、位置が両方ともズレている上に、振りがふにゃふにゃだ。もし実戦でそれをやったら、瞬殺で終わる。
「違うって! ほら、私みたいに!」
青木は刀を構え、左手を柄頭側、右手を鍔元のすぐ下に置く。
「いい? こう。……それで!」
青木が振り下ろした瞬間、空気が“裂ける音”がした。周りの生徒の中には、空気の揺らぎ――波紋のようなものを見たと言う者までいる。
小川は思わず見とれた。力任せではない。なのに、振りそのものが異様に重い。
「ねえ。今の振り、なんであんなに強かったと思う? 別に全力で振ったわけじゃないのに」
「……フォーム?」
「正解。そこまで分かるなら上出来」
「えっ、褒めた!?」
青木はくすっと笑った。小川のアプローチは心底うざい。だが“面白い奴”ではある。何より――ほんの少しでも努力すれば、化ける可能性はあると青木は思っていた。
「構えで気を巡らせて体を強化するのと同じ。戦い方にも“気”は連動する。
気を全身で制御して、刃に乗せる。そうすれば弱い振りでも、鋼を断つ威力になる。いい? 剣の術を甘く見るな。真面目にやれ、小川」
小川はため息をつき、もう一度構え直す。フォームを直そうとして――
「もっと愛情くれたら、俺うまくできるのに!」
「夢見てろ。手を動かせ、小川!」
小川は情けない声を出しつつ、また練習に戻った。
少しマシになった振り(……と言ってもハードルは低い)が続く中、小川は他のエリートたちに目を向ける。七瀬班と沢村班は大体何をしているか分かっているので、正直興味はない。
小川が見ていたのは、ひとりだけ離れて訓練しているエリートだった。
(クルミ先輩、ずっと一人なのに……誰よりも追い込んでる。見てるだけで疲れる。もうこの剣振りたくねぇ……!
でもサボったらラナー先輩に怒られるしな。……怒られるのも、悪くない気がしてきた)
クルミサヤは、ただ素振りをしているわけではなかった。訓練用のダミー相手に、技を叩き込んでいる。
小川の目では追い切れない。
動きは速く、正確で、無駄がない。氷の上を滑るように軽いのに、攻撃は冷たく容赦がない。
(うわ……こわ。ユメコちゃんとホナミ、よく一日でも持ったな。絶対クソ厳しいタイプだろ。
俺が多少マシな剣士だったとしても、絶対に自分から“教えてください”って行かねぇ。自殺だろそれ)
クルミが一度攻めの手を止め、息を整える。視線を感じたのか、ふいにこちらを見る。
――目が合った。
小川は固まった。まさか自分を認識するとは思っていなかった。
ほんの一秒。けれど妙に長い一秒。
クルミは何も言わず視線を外し、また黙々と訓練を再開した。
小川は小さく息を吐いて、自分の練習へ戻る。
(今の、やば。怒ってるわけじゃないのに……怖い。二度と目を合わせたくねぇ)
その直後だった。
小川が剣を振り下ろした瞬間、握りが甘くて剣がすっぽ抜けた。
飛んだ剣は後方へ――ほぼ真っすぐ――日向ヒキの方へ。
「ぎゃああああ!!」
刃は地面に突き立ち、日向の足元数センチのところで止まった。
日向はゆっくり剣を見下ろし、ゆっくり顔を上げ、小川を見る。
小川は目を見開いたまま、気まずそうにへらっと笑った。
「おい!!」
「わ、悪い! ヒキ!」
「ふざけんな! どこに振ってんだよ! 握り強くしろ!!」
「ごめんって言っただろ!」
小川は剣を引き抜いて元の位置へ戻る。そこには青木が待っていた。
「小川」
「えっと……ラナー先輩、こんにちは!」
「……言葉が出ない」
「じゃあ“好き”って――」
青木はファイルで小川の頭をバシバシ叩きながら叫んだ。
「集中しろ!!」
-
一方、クルミ。
ダミーに最後の一太刀を入れて止まる。
(……はぁ。なんなんだ)
集中できない。理由は分からない。けれど“何か”が引っかかる。今までほとんど感じたことのない、奇妙な感覚。
そのせいで、今している訓練に意識が乗らない。
(小川マコト。鯨中学校の最下位。怠け者。どうしようもない落ちこぼれ)
クルミは水を一口飲み、刀を鞘に収めた。
(……どうして、あんなふうに“ふざける”)
クルミには理解できない。正直、クルミは普段あいつのことなど気にも留めていない。
授業は聞かない。青木にベタベタ絡む。目立ちたがりで、剣の術に対する敬意も薄い。クルミの目には、ここにいるべき人間には見えない。
――なのに。
(……分からない。私にとっても、あなたは“謎”だよ。……道化師)
こんにちは!正直に言うと、これから数話は少し“つなぎ回(ちょっと日常寄り)”っぽくなります。ただしもちろん本編の正史にちゃんと関わる内容です(笑)
「つなぎ回」というのは、単純に“あまり大きな出来事が起きない”という意味です。でも、もうすぐ大きな転機に入るので、ぜひ引き続き見守ってください!
それと今回の章は翻訳がかなり難しくて、何度も修正しました。もし分かりにくい部分や「ここどういう意味?」というところがあれば、遠慮なく教えてください!
「死にそうなんだけど! 続けられるように支えてくれ!!」
――小川マコト




