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リアリティ・チェック  作者: こざかな
第1部 ― 鯨中学校学期
8/13

第7話:エリートたち

第7話、ついに公開です!お待たせしてすみません!

金曜日の昼休み明け。小川マコトは教室で、今にも弾けそうなほどワクワクしていた。いや、ワクワクしているのは彼だけではない。教室全体が浮き足立っている。


月曜から木曜までは、いつもの剣術の訓練と理論の授業で、正直かなり退屈だった。だが金曜日だけは違う。金曜は訓練と理論が丸ごと別の授業に置き換わる。


それが――合同訓練授業。


これは日本の中学校が参加している、これから高校へ上がる剣士候補たちの技量を磨くためのプログラムだった。


「みんな気持ちは分かるけど、静かにしてね!」


静岡先生の一言で教室が一瞬で静まった。この特別授業の日だけは、みんな素直に先生の指示を聞く。あの“バカ四人組”ですら、今日はちゃんと静岡先生に集中していた。静岡先生はそれが少し嬉しい。


「日曜からのクルーズ研修の前に、合同訓練でしっかり血を巡らせましょう。では、いつも通り――」


静岡先生が一歩下がった、その瞬間。扉が開き、四人の生徒が入ってきた。高校生だ。


「J.R.S.アカデミーの“四大エリート”よ!」


教室が一気に湧いた。拍手と歓声が飛び交う。


J.R.S.アカデミーは、日本の剣士育成高校で国内ランキング1位、世界でも5位に入る超名門。剣士としての洗練と熟練を極めるための学校で、学力も要求されるが、何より重視されるのは「剣のアート・オブ・ソード」をいかに体現し、理解しているか。


合格率は約0.2%。A組からZ組まで各クラス30人、合計780人程度しか入れない。受験者は毎年、国内外合わせて数百万規模と言われる。ここに入れた時点で、剣士としての将来はほぼ約束されたも同然――大学へ進もうが、すぐプロの道へ出ようがだ。


松本が小川に身を寄せて囁く。


「一日の中で一番アガる時間だよな、合同訓練!」


「だろ! しかも見ろよ!」


四人のエリートは教室の前に並んだ。“エリート”とは、J.R.S.アカデミーの一年生で、この合同訓練プログラムに参加している生徒を指す。J.R.S.がこの制度を始めたのは数年前で、中学生を鍛える目的だけでなく、“将来J.R.Sに入れる逸材”を早い段階で見つける狙いもあった。


「やっほー! みんな、寂しかった? ふふっ!」


一番右にいたのは、青木ラナ――生徒たちは親しみを込めて「青木先輩」と呼ぶ。明るくて勢いのある性格で、場の空気を一瞬で温めるタイプだ。


長い赤髪を雑めなポニーテールにまとめ、燃えるようなオレンジの瞳。すぐにでも授業を始めたいと言わんばかりの目をしている。


制服……というより、剣士装束だ。高校に入ると「自分専用の剣士服」を作る課題があり、それが剣の術に適応する形で強化される。


青木の装いは、黒い短めのレザージャケットに、下は濃いえんじのTシャツ。黒いパンツに黒いブーツ(中央に白いライン)。さらに黒の指ぬきグローブ。「強く見えるから」という理由らしい。腰には刀がきれいに差してある。


「また会えて嬉しいよ! 先週私と組んだ子たち、ちゃんと復習してきたよね?」


青木ラナは四人の中で一番人気だ。だいたいみんな彼女の班に集まる。


「青木先輩、最高!」

「めっちゃ優しい!」

「いつか私もああなりたい!」

「今日こそ成長を見せる!」


松本は、隣の小川の顔を見て嫌な予感がした。小川は完全に恋する目になっている。


「……あーあ、始まった」


もう一つ、小川マコトの情報を足すなら――彼は田中ユメコに夢中なだけではない。青木ラナにも、しっかり心を持っていかれていた。


もちろん、青木本人はそんなつもりは一切ない。むしろ小川のことは、かなり苦手だ。普段は誰にでも友好的なのに、小川相手だとそれが維持できない。


「ねぇ青木。お前の“ちっちゃい彼氏”が見てるぞ」


青木の隣で、くしゃっとした黒髪の男子が身を寄せた。背はそこそこ高く、黒い瞳が面白そうに状況を見ている。


青木は小さく舌打ちする。


「……は? うわ、やだ……小川じゃん。あと“彼氏”とか言うな! 絶対ない。未来永劫ない!」


「でもお前らいつもケンカしてるだろ。いや、正確にはお前がずっと文句言ってて、あいつが子犬みたいにヨダレ垂らしてるだけか。ははは」


「うるさい、サワムラ!」


黒髪のエリートは、サワムラ・ロキ。黒系で統一された装い(黒ジャケット、灰色のセーター、黒いダボパン、手袋、ブーツ)に、紫の宝石が光るネックレス。雰囲気が完全に「闇の覇王」で、見た目だけで怖がる生徒もいる。


「まあまあ二人とも。まずは静岡先生が紙配って、授業始めないと。時間無駄にしたくないでしょ?」


二人の間に入ったのは、金髪で整った髪の男子。サワムラと同じくらいの身長で、青い目が真面目そうに二人を見回す。


白と金のブレザーに白シャツ、白いパンツ、茶のローファー。右胸には金のエンブレム。白い手袋は掌が金色。王都の騎士みたいな見た目で、小川いわく「ラノベの王子様そのもの」。


彼の名はナナセ・リュウ。


青木はため息をつきながら頷き、サワムラは無表情で返す。


「ナナセ、お前ほんと几帳面だな。二コマあるし、数秒しゃべったところで遅れねぇよ」


「サワムラ、たまには“きっちり”しようよ!」


ナナセがため息をついたところで、ふと最後の一人に声をかける。


「ねえ、クルミさん! そんな端にいないで、こっち来なよ。仲間なんだからさ、はは!」


扉の近くに一人で立っていた最後のエリートが、腕を組んだまま小さく息を吐いて歩み寄る。


クルミ・サヤ。


青木が笑顔で話しかける。


「クルミちゃん、元気出して! 生徒に会うの、だいたい楽しいでしょ?」


「……まあ。でも、私と組みたい人なんていないし」


サワムラが口を挟む。


「そりゃそうだろ。お前、圧が強くて生徒が逃げるし、そもそも『興味ない』ってずっと言ってるじゃん。正直、時間の無駄に聞こえる。なんで参加したんだよ、って思う」


「サワムラ! やめてよ! クルミちゃんだって頑張ってるんだよ!」


「まあ、確かに。ミス・100だしな」


「サワムラ!」


サワムラが振り返ると、クルミは腕を組んだまま、入ってきた時と同じ退屈そうな顔。挑発にすら反応しない。


「……ここには、私の“生徒”になれる人がいない。

それに、私が教えるべき相手も見つからない。

私と組んでも、互いに成長できない。だから――あなたたち三人と組んだほうがいい」


サワムラは言葉を失い、青木は少し心配そうな顔になった。そこでいつも通り、ナナセがまとめる。


「はいはい、その話はあと。今は授業を進めよう。今日は“違う教え方”なんだから。ね?」


サワムラはだるそうに頷く。青木もほっとして頷き、クルミも小さく頷いた。


ナナセが手を叩き、静岡先生へ向き直る。


「失礼しました先生。進行、お願いします」


静岡先生は小さな紙を手に、ため息をつく。


「あなたたち、J.R.Sの生徒なのに問題児すぎない?」


ナナセは苦笑。サワムラはニヤついて青木の脇を軽く突く。青木は反射でサワムラのすねを蹴り、サワムラのニヤつきが苦痛の顔に変わった。


クルミは相変わらず興味なさそうに、窓の外の雲を見ている。


静岡先生は列を回り、白い紙(希望票)を配っていく。


「やり方は分かってるわね。上にエリートの名前が書いてあるから、組みたい人を書いて、その人に渡す。

……そしてお願い。ちゃんと“伸びそうな相手”を選んで。あなたたち自身が“上手くなりたい”と思える相手をね」


配り終えると、静岡先生の視線が露骨に小川へ向く。小川はムッとする。


「え、ちょっと! 俺も成長してますけど!? かなり!」


「成長してるのは“振られ方”だけだろ!」

「松本、殴るぞ」


静岡先生は扉の方へ向かった。


「じゃあ任せるわ。さあ、みんな選びなさい!」


そう言って出ていった。


教室は一気にざわめき、みんな希望票に名前を書き始める。


小川は違った。紙を渡された瞬間に書き終えていた。息をするみたいに自然に。


そして――


「ラナー先輩!!」


青木がびくっとして顔を上げると、目の前に小川がいた。満面の笑みで票を差し出してくる。


「えっ……あ、小川……。って、何度言った? 私の名前呼びは禁止! 青木先輩でしょ!」


「えー、ラナー先輩! 俺らもう心の距離ゼロじゃないですか! なら名前で――」


「小川……はぁ……」


サワムラがまた茶化す。


「いけいけ少年。青木もお前のこと好きだぞ」


「サワムラ!!」


「マジっすか! 応援ありがとうございますロキ先輩!」


サワムラは笑い、青木は今にも爆発しそうだった。


「小川! いいから黙って、私の後ろに立って!」


「後ろ!? じゃあ遠慮なく――」


「違う! キモい! やっぱなし! 横に立て! 今すぐ!」


「はいっ!」


小川は嬉しそうに隣へ移動し、近すぎる距離で立った。恋する顔が全開だ。青木は顔を覆い、すでに疲れている。


「……早く授業終わって……」


「失礼します」


青木が顔を上げると、田中ユメコが希望票を差し出していた。


「今日も青木先輩と組みたいです」


青木は泣きそうなほど嬉しそうな顔をした。田中は青木にとって、間違いなくお気に入りの生徒だ。


「タナカちゃん! うれしい! 今日も頑張ろうね!」


田中も微笑む。


「私も楽しみです」


「うおおお!! ユメコちゃんとラナー先輩と同じ班に俺もいる!? 今日、人生最高の授業!!」


青木は遠い目をし、田中は鼻で笑って小川から最大限離れた位置に立った。


「俺たちも入るぞー!」


松本、ヒュウガ、ウラナ、そして他の生徒たちまで、青木班へ押し寄せる。


「多すぎだろ!! これは俺とユメコちゃんとラナー先輩の班なんだよ! 入ってくんな!!」


松本が呆れ顔で返す。


「現実見ろマコト。人数制限なんかねぇし、青木先輩を独占できると思うな」


「うるせぇジュンペイ! 他の先輩行けよ!」


「お前がな!」


また言い合いが始まり、周囲がため息をつく。ウラナが青木の前で丁寧に頭を下げた。


「すみません、うちのバカどもが……。無視して授業を進めましょう。お願いします」


青木は苦笑して頷いた。


「うん、もちろん。……二人とも、いい加減にしなさい!!」


二人は同時にピタッと止まり、敬礼する。


「はい、すみません!」


-


全員が班を決め終えた頃、小川は不満げに周囲を見回した。


(くそっ……ラナー先輩の班、人多すぎ! まあいつもこうだ。だってラナー先輩、優しくて最高だし!

俺、ラナー先輩大好きだし、きっと先輩も俺のこと――

……いや、ユメコちゃんは別格。ユメコちゃんは天から降ってきた神だ。美しすぎる)


田中が背筋に寒気を感じたのか、小川を睨む。小川は気まずそうに笑って誤魔化した。


青木班は22人。次に多いのはナナセ班で12人。


(まあ当然。客観的に見てリュウ先輩が一番“正統派”で洗練されてる気がする。俺の剣も直したほうがいいのかもしれないけど……ラナー先輩と同じ班のチャンスを捨てるわけない。修正は気が向いたら自分でやる。あと普通に顔がいい)


ナナセ班が女子多めなのも、小川は納得していた。


(だろうな)


サワムラ班はナナセ班の半分くらい。見た目が怖いし、称号も影響する。サワムラの称号は人気を上げるタイプじゃない。しかも、ちょっと不気味だ。


(でも称号自体はカッコいい。“ベルゼブブ”は属性とも合ってるし)


高校に入ると、剣士服を作るのと同時に「称号」を自分で決める決まりがある。称号は剣士としての自分、性格、そして力の象徴。剣士にとっては神聖な“もう一つの名前”だ。


小川は、予備の紙に書かれていた四人の称号を確認した。


青木ラナ(炎の流星)

七瀬リュウ(お気楽な白鳥)

沢村ロキ(ベルゼブブ)

胡桃 サヤ(凍てつく兎)



小川は青木をちらっと見る。青木は最後の票を受け取りながら、ナナセと何やら話している。たぶん訓練の段取りだ。


(炎の流星。ラナー先輩にピッタリ!

リュウ先輩も……まあ合ってるのか? 性格と矛盾してる気もするけど、ガチ戦闘見たことないしな。

属性とも関係あるのかも。ラナー先輩の属性は“炎の流星”そのものだし)


青木が「炎の流星」と呼ばれるのは、戦い方も性格も爆発的で、剣術属性の名前自体が「フレイミング・メテオ」だからだ。単純で分かりやすい。青木らしい。


ナナセの剣術属性は「白き破片ホワイト・シャーズ」らしいが、小川にはまだピンとこない。


(白……白鳥? うっ、考えるの嫌)


サワムラは完璧にハマっている。「ベルゼブブ」は“蠅の王”。彼の剣術属性は「死のフライズ・オブ・デス」。そして本人も雰囲気がだいぶ……怖い。


(うん、闇の覇王。ロキ先輩だわ)


最後の一人――胡桃サヤ。


小川は彼女を見た。普段あまり気にしていないが、J.R.Sの過去60年で見ても屈指の才能だと噂される剣士だ。唯一、小川が彼女だけは名前呼びしない相手でもある。


(胡桃先輩は別格だよな……J.R.Sの入試で三科目オール満点。60年ぶりの快挙。だから“ミス100”。

マイとマヒルがずっと騒いでたし、ニュースでも見た。将来は社会で超重要な――えっと、なんだっけ……名前忘れた)


小川は改めて胡桃を見て、認めざるを得なかった。彼女は美しい。顔立ちだけで言えば、青木より可愛いし綺麗だ、と小川の(自称)公平な評価でも思う。


腰まで流れる白銀の髪。前髪は可愛く額を隠し、瞳は北極みたいな色。白い肌に映える。

装いも美しく、白いブレザーに淡い水色の差し色。白いスカートに黒タイツ、光る白いブーツ。そして兎耳みたいな白いカチューシャ。


ただし――胡桃には“愛想”がない。青木は綺麗で、しかも魅力がある。胡桃は時々、冷たい毛布みたいに感じるか、怖いほど威圧的か、そもそも人に興味がないか。


(……それでも、人気ないんだよな)


実際、胡桃班はゼロだった。小川は計算する。クラスは40人。青木22、ナナセ12、サワムラ6。合計40。つまり胡桃は完全に一人。


このプログラムが始まってから、ほとんど誰も彼女に近づかない。田中が一度だけ胡桃と組んだことがあったが、二人とも満足できず、田中はむしろ嫌がっていた。それで今は青木かナナセを選ぶ。サワムラはあまり好みじゃないらしい。


さらに学年2位のリク・ホナミも胡桃に挑戦したが、戻ってきた顔は最悪だった。結局サワムラ班へ移った。


(あいつ短気だしな。爆弾みたいなやつだ)


小川は胡桃をよく理解できない。毎回ほぼ“二コマ自由時間”みたいになって、ひたすら一人で剣を振っている。


(……一人で訓練してて寂しくないのか? 退屈じゃね? もっと楽しめばいいのに)


そう考えていると、ナナセの声が教室に響いた。


「よし! 全員の票を確認したよ。班も決まった! 訓練場へ移動しよう!」


歓声が上がり、生徒たちは一気に教室を出ていく。まるで洪水みたいな勢いだ。


小川は胡桃のことをいったん頭から追い出し、青木と田中と同じ班になれた現実に集中した。


(完璧だろ、今日)


「よし! 今日こそ俺が一番カッコいいって証明してやる!!」

みなさん、第7話を読んでくださってありがとうございます。更新が翌日になってしまって申し訳ありません。昨日ちょっと用事トラブルがあり、投稿が遅れてしまいました。


今回は本来そこまで長い回にする予定ではなかったのですが、物語として重要な情報を入れる必要があり、「後で出す」形にはできないと思ったので、今のタイミングで投稿しました。


また、『リアリティ・チェック』とは別に、別作品/別投稿も2つほど更新する予定です。もし興味があれば、公開されたらぜひ見てみてください!


それでは、次回もお楽しみに!

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