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リアリティ・チェック  作者: こざかな
第1部 ― 鯨中学校学期
6/13

第5話:やる気満々!

第5話、公開しました!ぜひお楽しみください!

「ただいまー!」


小川とユウが家に着くと、母のキョウコはキッチンで夕飯の支度をしていた。


「おかえり、二人とも。今日は夕飯、チキンカツ丼よ。できるまでに手を洗って、さっぱりしてきなさいね」


ユウはうなずくと、さっさと自分の部屋へ向かった。小川は大きくあくびをしながらキッチンへ近づく。ふとダイニングテーブルを見ると、姉たちが三人、宿題をしていた。


「よぉ、ちび害虫。今日も学校でやらかした?」


「マイ、言い方。たとえ“やらかしてる可能性が極めて高い”としても、失礼よ」


小川は鼻で笑った。


(それもそれで失礼だろ……でも、否定できねぇ)


長女……ではないが、双子の姉――マイとマヒル。二人とも十六歳で、剣士養成で評判の良い高校に通っている。双子とはいえ、見分けはつきやすい。マヒルは黒に赤みが混じった長い髪で、マイは同じ色味だが少し短めのミディアム。目の色も、マヒルは黒、マイは青。性格も真逆で、マヒルは穏やかで優しいタイプ、マイは元気で男勝りでガサツ寄り。共通点があるとすれば――頭が良く、剣の腕も高く、そしてなぜか小川マコトに対して若干……いや、かなり辛辣なところだ。


「温かい歓迎ありがとう。もうちょい俺を信用してくれてもいいだろ」


「やらかしたんでしょ?」


「……はい」


「ははっ。ほんとバカ!」


「マイ、だから言い方! でもマコト、本当にトラブルばかりはやめたほうがいいよ。将来だってもう……その、厳しいんだし。勉強を放り投げてたら、もっと大変になる」


「言い方が遠回しすぎて逆に刺さるわ、マヒル」


そんなやり取りの中、もう一人の姉がため息をつき、本を閉じて立ち上がった。


「いい加減、大人になりなさい。正直、その振る舞いは見ていて恥ずかしい」


「へぇへぇ。ご意見ありがとう、ミサト」


ミサトは階段を上がっていった。ミサトは三人目の姉で十七歳。そこそこ良い高校に通っているらしいが、学校名は小川も覚えていない。長い黒髪と、空色がかった瞳の色が小川と似ていて、昔は“真似っ子”だと思ったこともある。感情をあまり表に出さず、どこか無表情で読めない子だ。ただ一つ確かなのは――姉たちの中でも、ミサトは特に小川に厳しい。


「……あいつ、俺のことマジで嫌いだよな」


「嫌いじゃない人いるの?」


小川はマイを無表情で見た。


「ありがとう、マイ」


「どういたしまして、弟くん!」


小川が舌を出してキッチンへ向かうと、マイは指でL字を作って額に当て、からかうように見送った。


「ねえマイ。マコトが面倒なガキなのは分かるけど、もう少し優しくしてあげたら?」


「無理。ていうかマヒル、あんたも結構ズバズバ言うよね。そっち直したら?」


「わ、私は今関係ないでしょ!」


「私はあいつがちゃんと大人になったら優しくする。……でも正直、あいつはもう手遅れ。期待してない」


マイはまた宿題に戻り、マヒルは小さくため息をついた。嫌いではある。けれど、それでもどこかで、弟が変わることを――ほんの少しだけ、願っていた。


-


小川がキッチンへ入ると、母は材料を出していた。


「よ、母さん」


「……マコト」


キョウコが振り向く。顔には疲れと落胆が浮かんでいた。


「今日、学校から電話があったの。訓練の授業で何をしたの? 卒業まで“真剣の使用禁止”って通知が来たんだけど。トラブルを起こすなって言ったよね? どうしてこうなるの? 剣を使えなかったら遅れるに決まってる。置いていかれるよ!」


「うげ、母さん、また説教!? 何があったか知らないくせに、俺が悪いって決めつけてるだろ! 不死鳥先生がムカつくこと言ってきたから、俺は立ち向かっただけ!」


「それは理由にならない。先生に失礼なことをしていいわけがないでしょ。ほんとに、マコト……どうしたらいいの……」


小川はため息をつきつつ、ニヤッとする。


「いいって! 木剣でも鍛えられるし! 見てろよ、俺はこれから“新時代の最強剣士”になるんだ!」


「“新時代の最強バカ”の間違いでしょ。あ、もうなってたわ」


「黙れマイ!!」


母はまた深く息を吐いた。どう接するのが正解なのか、分からない。


「そうだ、忘れる前にこれ渡しとく!」


小川はリュックを下ろし、ゴソゴソと探ってファイルを取り出し、紙を母へ差し出した。


「今度の日曜から、一週間の“クルーズ研修”があるんだ。親のサインが必要だから、お願い! 行きたい!」


キョウコは紙を見て、迷うような表情になる。


「マコト……あなた、本当に行く資格があると思うの?」


「えー、ちょっと! 別に休暇じゃないって! 剣の地獄みたいな訓練があるし、俺は木剣だから余計にしんどい! この研修、俺にとっては七五%逆風なんだって!」


「でも、またトラブル起こしたらどうするの……?」


小川が目をそらした、その時。


「行かせればいいじゃない。家の中が少し静かになるし、ついでに船から放り投げられて学べば?」


背後、階段から降りてくる声。


小川とキョウコが振り向く。


「シノブ、そんな言い方しないの。お兄ちゃんよ」


「事実を言っただけ」


シノブ・オガワがキッチンへ入り、軽く何かつまむものを探し始めた。シノブは四人いる姉の末っ子……ではなく、最年長であり、そして最も完成された姉だった。長く艶やかな赤髪、澄んだ黒い瞳。姉妹の中で一番美しいと言われ、父に次ぐ剣士としても評価が高い。剣のアート・オブ・ソードを専門とする国内ランキング2位の大学――グリーンレルム大学の二年生。美貌と頭脳を併せ持つ、正真正銘の天才だ。今日はたまたま大学が一週間休みで帰ってきているらしいが、小川は理由など興味がない。


「相変わらずキツいな、シノブ。でもいいよ! 言った通りだ! お前ら一週間俺から解放されるんだぞ! だから行かせろ!」


「バカね」


「成績だけはA級の脳みそで!」


「でも通知表は平均C」


「うるせぇ! 母さん!」


キョウコは少し考え、迷い、そして決めたように言った。


「……マコト、ペン取ってきて」


「よっしゃ!! ありがとう! シノブも! 皮肉だけど!」


小川は勢いよくペンを探しに走った。


「正直……少しは静かになって助かるかもね」


「母さん、甘すぎ」


「そうかもしれない。でもね……あの子、いつもすごく楽しそうでしょう。あんまり押さえつけすぎたくないの」


シノブは水を一杯注いで飲み、階段へ向かいながら肩をすくめた。


「年相応に振る舞っても、幸せにはなれる」


キョウコはその言葉を反芻する。……否定できない。


「そうね……でも、まずはこの研修でどうなるか、見てみましょう……」


小川が満面の笑みで戻ってくる。キョウコは苦笑しつつ、紙にサインをした。


(きっと、ふざけて、また叱られて……それでも最後には笑って帰ってくるんでしょうね。

あなたは私を困らせてばかりだけど……その大きな笑顔は、私にとって本当に大切な宝物なの)


……


……


……


――けれど、人生はいつも思い描いた通りにはいかない。

起きた出来事は、あなたの未来を、永遠に変えてしまうことがある。


……


……


……


(もしあの日、母さんが俺を家に置いて、俺のしつこいお願いに負けなかったら……

俺の人生は、どれだけ違ったんだろう。

そして――この先の“災厄”は、俺がこの流れから外れることで防げたんだろうか。

……最初から、俺なんていなかったほうが……よかったのか――?)

みなさん、第5話を読んでくださってありがとうございます!今回は少し短めですが、小川家のことをもう少し掘り下げたり、今後の展開につながる小さな要素も入れました。次回はかなり長めになる予定なので、ぜひお楽しみに!


息子をよろしくお願いします。楽しんでください。――キョウコ

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