第2話:嵐の前の静けさ
第2話です!遅くなってすみません。課題が多くてバタバタしてました(笑)
昼休みが終わり、小川たち三年A組は中庭の訓練場へ集められていた。全員の手には剣――いや、この学校では“剣”そのものが当たり前の存在だ。松本は今日、やけにテンションが高い。
「今日の担当、誰だろ? サトウ先生だといいなぁ! カッコいいし……めっちゃ美人だし!」
小川は松本を見て、親指を立てた。
「わかる。もし今日サトウ先生だったら、ユメコちゃんにもサトウ先生にも、両方にいいとこ見せられるかもな!」
そのやり取りに、ウラナは呆れたように目を回す。ヒュウガは苦笑した。
「ほんとくだらない会話……。でも、ヒキくんはあの二人より礼儀あるよね」
「いやぁ、そこまででもないけど……ありがとう。嬉しいよ」
ざわざわと生徒たちの声が大きくなっていく中――
「よーし、静かにしろ! 今日はやることが多い! 効率よく準備しろ!」
そこへ現れたのは、屈強な体格の男だった。赤髪を長いポニーテールにまとめ、鋭い紫の片目がこちらを射抜く。羽織っているのは、柄の入った赤い着流し。腰には刀。鞘は燃えるような赤で、鳳凰のような紋が刻まれている。
その姿を見た瞬間、あちこちから悲鳴と呻きが上がった。
「えっ、なんで今日あの人なの!?」
「うそだろ、今日は楽な日がよかった!」
「最悪! 運悪すぎ!」
「サトウ先生どこ!? なんでフシチョウ先生なんだよ!」
――そう、この教師の名は不死鳥ヒカル。鯨中学校でも屈指の厳しさで知られる剣術教師であり、校内でも最強クラスの剣士だ。全盛期は日本屈指の剣豪だった――という噂すらある(本人が語らないので真偽は不明だが)。
どうやら今日は、いつも担当している訓練教官・サトウいつか先生の代役らしい。ヒュウガの様子から、それはすぐ分かった。
「やっぱり……。サトウ先生、今日は来られないんだ。フシチョウ先生が代わりだと、組手がめちゃくちゃキツいんだよな……」
ウラナも頷く。
「うん。でも、昔のフシチョウ先生よりはマシらしいよ。何十年か前、強すぎて三年生を何人も“死にかけ”にしたって噂、聞いたことある」
「さすがにそれは噂だと思うけど……でも、片目と片腕であのレベルってやばいよ。むしろ今のほうが“剣の術”を磨いてて、剣術属性も強くなってるって話だし。怪物だよ」
その話を聞いた小川は、ニヤッと笑った。
――確かに、フシチョウ先生の授業は滅多にない。小川が受けたのも二回くらいだ。しかも二回とも、なぜか先生をイラつかせた。
でも小川は勝手に結論づけていた。
(大げさに怖がられてるだけだろ。威圧感で黙らせてるタイプだ)
「ふーん? でもさ、もうあの人の組手とか、やりたくねぇんだよな。……詐欺師なら、暴いてやるよ」
「マコト、待て。お前――」
ヒュウガ、ウラナ、松本、そして周囲の何人かが目を丸くする中、小川はフシチョウ先生のほうへ歩き出した。
――補足しておくと、不死鳥ヒカルの“欠けた部分”には理由がある。ある事件(詳細は公表されていない)で、彼は右目と左腕を失った。それでも剣筋は鈍っていないどころか、黒い眼帯の下に隠れた傷が、むしろ威圧感を増している。
生徒たちはよく言う――「なんであの状態で学校にいるんだ?」「引退してもいいはずだ」と。実際、彼が教員として来たのは前学期の終盤、前の三年生の頃からだ。教えるなら他校でも良かっただろうに、と小川も思っていた。
「よし。静かに。今日はやることが多い。内容は“決闘”だ。……あと、サトウ先生のことは心配するな。用事で遅れてるだけだ。授業の後半には来る。さあ、時間がない。始めるぞ」
フシチョウ先生が紙を取り出し、組み合わせでも読むつもり――その瞬間だった。
小川が動いた。
「うぇ~……サトウ先生じゃないなら組手やりたくないっす。フシチョウ先生、熱すぎてしんどいっす」
空気が凍りついた。
一瞬、全員が小川を見たあと――すぐに怒号が飛ぶ。
「黙れバカ!!」
「いい加減にしろよ!」
「うわぁぁ、マコトォ!!」
まただ。小川がフシチョウ先生に絡むのは初めてじゃない。そしてそのたび、クラス全体が巻き添えを食う。生徒たちはそれを知っている。
フシチョウ先生が顔を上げた。紫の片目が、鋭く小川を射抜く。
「……今、何と言った? 小川」
「聞こえたでしょ」
クラスの怒りがさらに増す。
「やめろって!」
「また俺らが罰受けるだろ!!」
小川は怒っているクラスを見回し、なぜか親指を立てて笑った。「俺が代わりに言ってやってる」みたいな顔だ。余計に腹が立つ。
田中は額に手を当てた。ウラナも頭を押さえ、呆れて首を振る。
「ほんと……なんでマコトってこうなの!? あおったって誰の得にもならないのに! ヒキくん、止めてきてよ!」
「そのうち止めることになるとは思うけど……正直、どこまで行くか興味ある」
「はぁ……男子って……」
フシチョウ先生が小川の前まで歩み寄り、顔を近づけた。
「お前ごときの要求を聞くつもりはない。……何様のつもりだ? 最下位が」
小川はニヤッとする。小川が“デッドラスト”と呼ばれるのを嫌うのは、それが図星だからではない。図星すぎて、響きが最悪だからだ。負け犬、いや、負け犬のさらに下――それが小川だと、周りは思っている。
でも小川は怒ってないフリをする。自分の中の“信条”があるからだ。
「……へっ。怒らせようとしてる? 悪いけど、すぐ泣いたりキレたりするやつって、繊細すぎてダサいっすよ。煽りに乗りません」
フシチョウ先生はしばらく小川を見たあと、鼻でふん、と息を吐いた。
そして、手にしていた紙を捨てるように宙へ放った。
紙がひらひらと落ちてきて、フシチョウ先生の目の高さに差しかかった――その瞬間。
シュッ――!
刀が走った。
生徒たちは「紙が真っ二つになる」と思った。だが、数秒待っても……紙はそのまま床に落ちる。切れ目一つない。
誰も言葉が出ない。……いや、小川だけは違った。
「ぷっ――ははははは!! それ!? 全然切れてねーじゃん! “輝く不死鳥”さん、どうしたんすか? もう枯れました? 片腕じゃ刀もまともに扱えないんじゃね? ははは!」
生徒たちも驚いていた。正直、少しだけ落胆すらしていた。
フシチョウ先生は床の紙を見下ろし、刀を握ったまま首を傾げる。自分でも不思議そうだ。
「……」
先生は刀を見る。
「……」
そして、また紙を見る。
「……」
顔を上げた。
「……ああ、そうだった」
そう呟いて刀を鞘に収めた――その瞬間だった。
紙が、もはや“紙”ではなくなった。
一枚だったはずの紙が、まるで百万枚の紙吹雪みたいに、極小の欠片へと砕け散っていた。
生徒たちは息を呑んだ。誰も信じられない。場が静まり返る。小川でさえ、口を開けたまま固まっていた。
「おい、小川」
小川はハッと我に返り、先生を見る。フシチョウ先生は退屈そうな顔で、いつの間にか棒付きキャンディを口にくわえていた。
「本当なら今すぐ怒鳴って、クラス全員を巻き添えで罰にしてもいい。……だが、それだと面白くない。だから“妥協案”をやる」
先生はキャンディを噛み砕き、パキッと音を立てる。そして小川に視線を固定した。
次の瞬間――先生は刀を抜き、小川へ向けて切っ先を突きつけた。
「俺と一対一で決闘しろ。
お前が勝ったら、今日の授業は全員自由時間にしてやる。
だが、お前が負けたら――罰を受けるのはお前だけじゃない。“剣の使用停止”だ。鯨中学校を卒業するまでな」
教室ならぬ訓練場が、完全な沈黙に包まれた。生徒たちの視線が、先生と小川の間を行き来する。
「……え?」
「あと、逃げるのは禁止だ。準備しろ、小川マコト」
「……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
第2話、ここまで読んでくださってありがとうございました。
正直、今回の話は翻訳が少し難しくて、いくつか表現やキャラの言い回しを調整しました。もし「ここ変かも?」とか「もっと自然にできそう」という部分があれば、ぜひ教えてください。どんな感想・指摘でも大歓迎です!
ちなみにちょっとした裏話ですが、不死鳥先生は最初から考えていたオリジナルキャラではなく、今回の第2話を書くために新しく作ったキャラです。でも、せっかく登場させたので、これからしっかり活躍させる予定です。
改めて、読んでくれてありがとうございます!次回もお楽しみに!
「マコトが俺ら全員を殺さないよう、ちゃんと見届けてくれよな -3-」
――占メグミ




