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リアリティ・チェック  作者: こざかな
第1部 ― 鯨中学校学期
13/13

第12話:小川の試練

『リアリティ・チェック』第12話をお楽しみください!

「うわっ、ちょ、少しは手加減しろよ本波ホナミ、この野郎!」

「お前がたまには剣をマシに扱えるようになればいいだけだろ。お前があまりにも使えないから、こっちはお前のためにやってやってるんだよ!」


小川マコトと本波リクは、剣術訓練の時間に二人一組の訓練を行っていた。

内容は、素早く効率的に反撃するための練習。だが、小川の出来は散々だった。攻める側でも受ける側でも、ほとんど何もできていない。しかも小川は木剣しか使えない。


「小川! そんな雑な動きするな! もっと速く! 止まるな!」

「やってるっての!」

「やってない!!」

「お前は木剣じゃねぇだろ! 思い切り練習できるくせに!」

「そんなの関係あるか! 何かしら剣を持ってるなら全力でやれよ! ガキみたいなこと言ってないで、さっさとやり返せ!」


「お前――!」


そのとき、笛の音が響き、全員の動きが止まった。不死鳥先生が訓練終了の合図として笛を吹いたのだ。


「よし、今日はここまで。お疲れ。門限の0時までは自由にしていい。ただし、明日は長い一日になるぞ。それから火曜にはリンゴ島へ到着する。覚悟しておけ」


他の生徒たちはぞろぞろと立ち去り始めた。小川と本波ようとしたが、不死鳥先生に呼び止められる。


「お前たち、さっきの訓練で何か問題でもあったか?」


小川が口を開く前に、本波が先に言った。


「問題? ありますよ。こいつが問題です。なんで俺が、クラスで一番怠け者で幼稚なやつと組まされなきゃいけないんですか? こいつ、何一つまともにできない。攻めも守りも全部ダメだ」


そう言って本波は鋭く小川を指差した。


「そもそも、なんでお前ここにいるんだよ? 剣のアート・オブ・ソードを学ぶ気がないなら、最初からやるなよ。俺や田中みたいな人間と、同じ進路を歩こうとしてること自体が失礼なんだよ!」


それはさすがに小川もムッとした。


「はあ!? こっちは木剣しか使えねぇんだぞ! どうしろってんだよ! それにお前、クラス2位だろ!? どうせ俺が全力出したって、お前みたいに上手くなれないって分かってんだよ! だったら意味ねぇだろ!」


「ほんと鈍いな、お前! そんなの関係ないだろ! 上手くなりたいとは思わないのかよ!?」

「なんでそんなにキレてんだよ。感情コントロールできないやつってダサいぞ? 俺は付き合わねぇ」


「こっち来い、お前――」

「はい、そこまで!」


不死鳥先生が二人の間に割って入り、睨みつけて黙らせた。二人は口を閉じたが、まだ互いを険しい目で睨んでいる。不死鳥先生は鼻を鳴らし、本波へ向き直る。


「本波。せめて小川の今の実力に合わせてやれ。こいつにとって難しすぎる内容ばかりやらせても、余計に成長を妨げるだけだ。訓練として実りがなくなる」


本波は不満そうに顔をそむける。

それから不死鳥先生は小川の方を向いた。


「そしてお前だ、小川。少しは剣を上達させようと努力してみろ。お前はいつも怠けて、授業をかき回して、人に迷惑をかけてばかりだ。そんな時間があるなら、少しでも学校で前に進むために使ったほうがいいだろう。

……はっきり言うぞ。お前はほとんどクラス最下位だ。いつになったら大人になる?」


小川は鼻で笑った。


「別に大人になる必要なんてねーよ。こんな訓練ばっかしてたら疲れるだけだし。俺は極端な修行なんかしなくても、いつかすごい存在になるっての。

それよりもう終わったんだろ? 俺、プール行くから」


それだけ言うと、小川は不死鳥先生がさらに何か言う前に道場を飛び出していった。

不死鳥先生はため息をつき、本波は冷めた顔で先生へ言う。


「なんであんなやつに構うんですか? あいつ、人生で何一つ成し遂げられませんよ。ほんと、負け犬じゃないですか。そもそも、なんで剣を握ろうなんて思ったのか不思議です。剣術属性ソードアート・アトリビュートもないし、動きも雑だし、剣の術理論ソードアート・セオリーの理解力も壊滅的。何一つ取り柄がない」


本波は鼻を鳴らして去っていく。

その場に一人残された不死鳥先生は、静かに考え込んだ。


(……あの子には才能がある。だが怠惰のせいで、それが見えないだけだ。

小川マコト……お前が本当に大人になる日は、いつ来るんだろうな)


-


その夜。

生徒たちは船の最上階、メインデッキに集まっていた。中央には巨大な屋外プールがあり、DJブースからは大音量の音楽が流れている。生徒たちは水の中ではしゃぎ、踊り、くつろぎ、クルーズを楽しんでいた。


夜空には無数の星が輝き、海はどこまでも広がっている。大海原の真ん中で見る景色としては、これ以上ないほど素晴らしかった。


「これ、めっちゃいい感じじゃない? ユメコちゃん」

「ユメコちゃんも絶対楽しんでるよね!」

「ユメコちゃん、このりんご食べる?」


田中、日向ヒナタ、そして他の女子二人は、プールの中でゆったり過ごしていた。田中は飲み物を片手にくつろいでいる。


「うん、そのりんご欲しい。ありがとう」


女子がりんごを差し出し、田中はそれを受け取って大きくかじる。果汁たっぷりの甘さに、自然と表情が和らぐ。


「学年トップとしてずっと頑張ってきたんだもんね、ユメコちゃん! こういうご褒美って大事だよ!」

田中はその言葉を考えるようにしてから、くすっと笑って誇らしげに言った。


「……そうね。これは私へのご褒美なんだから、思いっきり楽しむわ」


そう言ってりんごを掲げると、女子たちがわっと盛り上がった。周りも笑い、場はさらに明るくなる。

少し離れたところでは、本波が「どうせその座も長くは続かない」とかなんとか、ぶつぶつ言っていた。


――そのとき。


「キャノンボールだぁぁ!!」


全員が声のした方を振り向く。

そして見た。小川が、誰も逃げる間もなくプールへ豪快に飛び込むのを。


水しぶきはとんでもない勢いで上がり、プール周辺だけでなく、甲板の手すりを越えて後ろの見物人にまで届いた。逃げる暇があったところで、たぶん無駄だっただろう。


全員がびしょ濡れになり、小川だけが水面から顔を出して大笑いした。


「はははは! やっべぇ、最高!!」


……もちろん、笑っているのは小川だけだった。

むしろ、みんなかなりキレている。日向がそれをはっきり表現した。彼女は小川の胸を強く突く。


「何考えてんのよあんた!? みんな静かにプール楽しんでたのに、あんたがバカみたいな飛び込みして全部台無しじゃない!!」


だが小川はニヤついたまま、水をばしゃっと彼女にかける。


「じゃあ勝負するか? ほらよっ!」


さらに何度も水をかけられ、髪まで濡れた日向はますます怒る。

そして田中もとうとう堪えきれなくなった。


「マコト、なんであんたはいつもこうなの!? 髪ぐちゃぐちゃになったし! 行動する前に考えないの!?」


「えー、でもユメコちゃん、濡れてるのすごい似合――」


周囲から変な視線が突き刺さる。


「ち、違っ、今のはその――」


「最低! もういい、私出る! せっかくのプール台無し!」


「ゆ、ユメコちゃん、待って――!」


だが田中が上がりきる前に、別の怒号が響いた。


「小川ァァ!! てめぇ、俺にまで水ぶっかけるとはいい度胸だな!? 死ねぇ!!」


全員が振り向くと、本波がシャツを脱ぎ捨て、灰色の髪をかき上げながらプールへ飛び込んでいた。大きな水しぶきとともに着水すると、そのまま小川にヘッドロックをかける。


「おい! うぐっ――卑怯だろ! 不意打ちかよ!」

「首へし折るぞこの野郎!!」


二人が水の中でぎゃあぎゃあやり合うと、周りの男子は大盛り上がりで本波を応援し始めた。だが女子の大半はしらけている。

田中はもう限界だった。


「いい加減にしてよ!! この旅行、ほんと台無しにしないで!!」


突然の大声に、全員がぴたりと止まった。

小川も本波も、驚いた顔で田中を見る。


田中は、乱れた髪のまま、顔を赤くして肩で息をしていた。かなり本気で怒っている。


「な、なんだよ……」

「ユ、ユメコちゃん……大丈夫……?」


田中は低く唸り声をもらして、プールから上がると「バカばっか……」などと鋭く小声で吐き捨てる。女子たちが慌てて追いかけ、なだめに行く。


日向が男子たちを振り返った。


「ほら見なさいよ! あんたたちのせいでしょ! なんでいつもこんなにウザいの!?」


しばらく沈黙が流れる。

そこへ、女子の一人がぽつりと言った。


「そもそも最初にやらかしたの、小川でしょ。全部の元凶じゃん」


小川は信じられないという顔で、本波の腕を振りほどいた。


「はぁ!? 俺はただ楽しもうとしただけだし! 本波が勝手にキレただけだろ!」

「お前、全員に水かけたんだぞ! 最低だろ、それくらい分かれ!」

「わ、わざとじゃねぇって! あんなに飛ぶと思わなかったし! そっちが避ければよかったんじゃ――」

「その言い訳はないでしょ、マコト」


全員がその声の方を見る。

占と日向ヒュウガ、その後ろには松本、さらにトモヤとアキラまでいた。みんな少し濡れていて、小川をかなり不満そうに見ている。


「……は?」


「聞こえなかった? みんなが普通に楽しんでたところに、あんたがいきなり飛び込んで全部ぶち壊したの。あれはないよ」


「……ごめん」


(メグミまで怒ってる……? 何だよこれ。そりゃ水かかったのは悪かったけど、事故だろ……!)


松本も一歩前に出る。


「マジでさ、あれはちょっとないわ」

「いやお前が言うなよ! 一年の時、市民プールで同じことしたじゃん!」

「そう、一年の時な。いつまでガキやってんだよ」


小川は呆然とした。

周りも次々に同調し始める。


「お前のせいだろ!」

「なんでそんなにウザいんだよ!」

「最悪だな小川!」

「もうどっか行けよ!」


小川は何も言えなくなった。

本波はそんな彼をちらっと見てから鼻で笑い、もうプールを楽しむ気も失せたのか、さっさと上がっていった。


「……分かったよ。悪かった。……俺、行く」


小川は頭を下げたままプールを出て、屋内ラウンジの方へ戻っていく。

だがエレベーターに向かう前、背後から聞こえた。みんながさっきの件を笑い話にして、自分をネタにしている声を。


小川は、からかわれるのには慣れていた。道化をやるならそうなると分かっていた。

でも――自分と同じ“バカ側”だと思っていた連中まで、あんなふうに自分を切り捨てたのは、思った以上にきつかった。


(……もうこの旅行の間、プール行けねぇな)


小川は静かに自分の部屋へ向かった。


(……この旅行、思ってたより全然楽しくねぇ)


-


甲板では、また皆が楽しそうに騒いでいた。音楽は大きく、雰囲気も戻っている。田中たちも髪を整えて戻ってきていて、さっきよりだいぶ機嫌がいい。


占は海を見ながら、ぼんやりしていた。


「メグミ、どうした?」


日向が飲み物を二つ持って隣へ来る。占は小さく跳ねて、礼を言って一口飲んだあと、ため息をついた。


「……ねぇ。私、マコトにちょっときつすぎたかな?」


「どういう意味?」


占はカップを強く握りしめ、どこか後ろめたそうな顔になる。


「その……ユメコと同じ部屋になってから、結構すぐ仲良くなってさ。たくさん話して、お互いのことも色々分かった。

それで思ったの。マコトって、あれが悪気なくても、ユメコにはすごくストレスなんだなって。私……なんか、友達を守らなきゃって思っちゃって」


占はまだ迷っているようだった。日向はしばらく黙って考える。


「……まあ、いいんじゃね?」


そこへ松本がやって来て、手すりに寄りかかりながら口を挟んだ。


「マコトは親友だけどさ。だからって、旅行の空気悪くする行動まで許していいわけじゃないだろ」


日向も静かにうなずく。


「俺らだって、そろそろ大人になろうとしてるのに……あいつだけ、ずっと“ガキのままでいい”って思ってる気がする。成長するってことを無視してるみたいでさ」


占はため息をついて、少しだけ笑った。

日向がそっと彼女の肩に手を置く。その瞬間、占は少し赤くなった。


「メグミは間違ってないよ。ちゃんとやめろって言っただけだし。あいつもそのうち、いい加減大人にならないと。もうすぐ高校なんだから」


松本が鼻で笑う。


「つーか、あのバカが高校なんか行けるのか? 俺、普通に中退コースだと思ってる」

「ちょっと、そんなこと言わないでよ! マコトだって高校には行くよ……まあ、良いとこではないだろうけど」


三人はくすっと笑う。

だが、自分たちが味方してくれなかったことに小川がどれだけ傷ついているか――その時の彼らはまだ知らなかった。


-


日曜の残りと月曜は、あっという間に過ぎていった。

小川もなるべく気にしないようにして、月曜を楽しもうとした。


朝食だけは自分の仲間たちと食べられたが、その後はまたみんな別行動。

田中には何度も声をかけたが、普段よりさらに冷たくあしらわれた。

剣術訓練と剣の術理論ソードアート・セオリーの授業は、言うまでもなく小川らしい出来だった。訓練ではやる気のない半端な動き。理論では講義中に寝てばかりで、内容は一つも頭に入っていない。


しかも月曜の最後、小川はビリヤードでライトを一つ壊し、球を三つなくしてしまい、結局その場にいた全員をイラつかせた。


そして今――火曜の朝。

生徒たちは甲板に集められ、先生たちの前に並んでいた。みんな眠そうで、だるそうだ。不死鳥先生はメガホンを持ち、遠慮なく大声を響かせる。


「全員聞け! リンゴ島到着まであと10分だ! 各自、剣を持て! 小川、お前は木剣を持ってこい!」


喜ぶ者、うめく者、そして目を回す小川。

そこへ松本が後ろから肩を叩いた。


「まあ元気出せよ。少なくとも向こうじゃ、うっかり誰か殺す心配はないんだからさ」

「噛みつくぞ」


松本は顔をしかめ、笑いながら自分の剣を取りに戻っていった。

小川もあくびをしつつ、木剣を取りに部屋へ戻る。


(よぉ、リンゴ島。……どんなもんか見てやるよ。別にそんな興味ないけど)


-


船が島へ接岸し、全員がついに上陸した。

島はそこまで大きくはないが、とても美しい。草は鮮やかな緑で、木々は濃く茂り、小さな生き物たちがあちこち走り回っている。周囲には青い海しか見えない。とても穏やかな場所だった。


多くの生徒が感嘆の声を漏らす。

だが小川は――


(……うわ、地味)


耳をほじりながらあくびした。

せっかくの島なのだから何かテンションが上がるものを期待していたのに、見た目は平和すぎて退屈に感じる。ともだちライフに出てくる最初の島から建物と住人を消した感じだ。


「ヒキくん! すっごく綺麗!」


小川が振り向くと、占と日向が並んで景色を見ていた。ヒキは写真まで撮っている。


「おーい! 写真撮ろうぜ!」


松本が駆け寄り、占の肩に手を回す。占はくすっと笑った。

小川も一緒に撮りたいと思ったが――


「ヒキくんもおいで! 三人で!」


その一言に、小川は足を止めた。

振り返ると、日向は近くのクラスメイトにスマホを渡して撮ってもらっている。

さっきの言い方だと、たぶん占は自分をその写真に入れたくなかったのだろう。


「ありがとう!」


三人はできた写真を見て楽しそうに笑う。

日向はふと後ろを見て、一人で立っている小川に気づいた。


「マコト! 一緒に撮るか?」


小川の顔に少しだけ期待が戻る。


「あ、うん、いいのか――」

「えー、でも今せっかく撮ったばっかだし。もう一回並ぶの面倒なんだけど」


占の言葉に、松本が鼻で笑う。


「こいつじっとしてられねぇからさ。悪いなマコト、また今度」


日向は申し訳なさそうに小さく頭を下げる。

小川は一瞬だけ傷ついた顔をしたが、すぐに隠した。


「あー……いや、いいよ別に」


その時、静岡先生が声を張る。


「みんな、前を向いて!」


視線の先には、一台のバスがやって来ていた。

停まったバスから、一人の女性が降りてくる。どう見ても戦闘向けっぽい服装だ。生徒たちはじっと彼女を見た。


黒いポニーテールに黒い目。

……そして服装は、なんというか――派手だった。


(うわ、主張強っ)

(今の剣士ってああいう服着るの?)

(将来あれ着るのか……?)

(きついな……)


女性はパン、と手を叩いた。


「ようこそ、鯨中学校のみなさん! 私の名前は播磨トウコ! ハリマ先生って呼んでね、その方が楽だから!」


生徒と教師たちは揃って礼をした。静岡先生が笑顔で応じる。


「迎えてくださってありがとうございます。ご迷惑でなければいいのですが」

「全然! これからの剣士たちをビシビシ鍛えるのは大歓迎だから!

さあみんな! リンゴ島移動車に全員乗ってー!」


ハリマ先生は、さっきからそこに停まっているバスを大げさに紹介した。白、鮮やかなピンク、ベージュという妙な配色の綺麗なバスだ。

その時、不死鳥先生が手を叩く。


「よし全員並べ! マユリ先生とサトウ先生が、これから4日間の訓練表を配る!」


二人の先生は満面の笑みを浮かべていた。この特別な島で生徒たちが訓練するのを見るのが楽しみで仕方ないのだろう。

なにせ、ここは剣のアート・オブ・ソードが本格的に広まり、最初の剣術属性ソードアート・アトリビュートが覚醒したと言われる場所なのだから。


サトウ先生は弾んだ声で言う。


「将来の剣聖たちが活躍するのを見るの、今から楽しみだなぁ!」

マユリ先生も頷く。

「ええ。本当に……まるでモナ・リザが描かれていく過程を見ているみたいです」


小川は心の中でうめいた。


(なんでそんな言い方したんだよ。痛すぎだろ……)


ともあれ、生徒たちは訓練表を受け取り、秩序よくバスへ乗り込んでいく。座席は三列シートだが、全員分を埋めるほどではない。何人かの男子は後ろを取り、女子の何人かは前方に固まった。


小川は、前寄りの真ん中あたりに松本、日向、占がいるのを見つけて近づく。


「なあ、二人ずつ座ろうぜ。俺とジュンペイで座ってさ。ジュンペイ、エルデンリングの話見せたくて――」

「悪い、マコト。俺ら三人で座って“しりとりジェスチャー”でもやろうと思ってたんだよ。移動一時間あるし、暇つぶし」


「はあ? じゃあ俺は?」


占が口を挟む。


「向かいの端の席に座れば?」


小川が振り向くと、その空いている席の隣には――田中と日向マヤが座っていた。


「……えっと」

「一時間もあんたと同じ列に座るくらいなら、自分の目をえぐった方がマシ。あんたは別の場所行って」


田中が即答する。

マヤは舌を出して小川をからかった。


「ガキだねぇ」

「お前が言うな」


小川はうなりながら他の席を探す。


「おーい小川! 席ないならこっち来い。俺たち教師陣と座れ!」


声をかけたのは不死鳥先生だった。運転席のすぐ後ろ、唯一の二人席の空いている方を叩いている。その右には他の先生たち。


小川はもう一度ぐるりと見回した。席自体は埋まっていなくても、誰一人“小川と座りたい”空気は出していない。

小川はがっくりと肩を落とした。


「くそ……」


仕方なく前へ行き、不死鳥先生の隣に座る。

すると先生は小川の肩に腕を回した。


「移動時間は一時間だ。ずっとしたかった“長話”をたっぷりできるな、小川マコト」


小川は無表情で先生を見た。


(……殺してくれ)


ハリマ先生がエンジンをかけ、振り返って元気よく叫ぶ。


「よーしみんな! 目的地は――リンゴ島道場!!」


そのままバスは向きを変え、土の道を走り始めた。


「さて小川……話をしようか」

(早く着け早く着け早く着け早く着け!!)

こんにちは、読んでくださってありがとうございます!

特に大きなお知らせはありませんが、今回はかなり長めの話になりました。自分でも思った以上に手が速く動いていて、ちょっと驚きました(笑)。


第13話もぜひ楽しみにしていてください!

また、もし気になるミスや不自然なところなどがあれば、ぜひ教えていただけると嬉しいです。感想やフィードバックはいつでも大歓迎です!


「さあ、リンゴ島道場行きに全員乗った乗った! お前もだぞ!」

――ハリマ先生

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