第11話:次はどうなる?
こんにちは!『リアリティ・チェック』第11話です。お楽しみください!
荷ほどきを終えた生徒たちは、再びロビーへ集まっていた。
時刻は朝の6時。さすがに全員かなり眠そうだ。
前には、静岡先生、不死鳥先生、サトウ先生、そしてマユリ先生が立っていた。サトウ先生が手を叩いてみんなの注意を引く。
「はいはい、みんなー! ついに出発したよー! ほら、外を見て!」
クラス全員がロビーの大きな窓の方を振り向いた。見ると、船はたしかにゆっくりと東京から離れ始めている。
何人もの生徒が窓辺へ駆け寄り、少しずつ小さくなっていく陸地を眺めていた。
小川も興奮した様子で外を見つめる。
「うおおっ! ついに動いた! こんな長い間、家族と離れるの初めてだ! 自由だぁぁ!!」
不死鳥先生が鼻で笑う。
「そう自由でもないがな、チビ助。……いいから全員戻れ。スケジュールを配る」
生徒たちは再び前へ集まり、それぞれ一枚ずつ紙を受け取った。そこには一週間の予定が日ごとにびっしり書かれている。
小川は自分の紙を見下ろし、意外にもかなり満足した。
-
【鯨中学校 クルーズ研修スケジュール ― 門限 午前0時】
日曜日
[午前7:00~午後6:00 自由時間+アクティビティ]
[午後6:30~8:30 剣術訓練]
[午後9:00~午前0:00 自由時間]
月曜日
[午前7:00~8:00 朝食]
[午前8:00~11:30 自由時間]
[午後12:00~2:30 剣術訓練]
[午後3:00~5:00 剣術理論]
[午後5:30~午前0:00 自由時間+アクティビティ]
火曜日~金曜日
[午前4:30 リンゴ島到着]
[午前7:00~8:00 朝食]
[午前8:30~午後9:00 リンゴ島終日訓練]
[午後10:00 門限]
土曜日
[午前5:30 リンゴ島出発]
[午前7:00~8:00 朝食]
[午前8:00~11:30 自由時間]
[午後12:00~4:30 剣術訓練+理論合同授業]
[午後5:00~午前0:00 自由時間+アクティビティ]
日曜日
[午前7:00~8:00 朝食]
[午前8:00~11:30 自由時間]
[午後12:00~2:30 剣術訓練]
[午後3:00~4:00 決闘]
[午後5:30~6:00 東京港到着]
-
スケジュールを見た生徒たちから、一斉に声が上がる。
「門限が0時!? やばっ!」
「火曜から金曜以外、めっちゃ自由時間あるじゃん!」
「あとで買い物したい!」
「アクティビティって何があるんだろ!?」
松本は、プールでレーズンみたいになるまで泳ぐんだと騒いでいる。占も日向も、自由時間がたくさんあることに顔を赤くしながら喜んでいた。二人とも、この時間を最大限楽しみたいと思っているようだ。田中、日向マヤ、そのほかの女子たちも大盛り上がりで、楽しそうに笑い合っている。
(うわ、研修にしてはかなり緩いな。しかも門限が真夜中とか……最高じゃん!!)
マユリ先生が咳払いをして、生徒たちの注意を引いた。
「みなさんも分かっている通り、今日は“ほぼ休息日”です。今夜は剣術訓練がありますが、せっかくこうして来てくれたので、今日は自分たちの時間を楽しんでください。私たち教師陣も船内にはいますが、みなさんならきっと大丈夫でしょう」
マユリ先生は軽くお辞儀をし、次に静岡先生が口を開いた。
「マユリ先生の言う通りよ。みんな、ちゃんと節度は守ること。でも、しっかり楽しんでもいい。高校へ進む前の最後の一年なんだから、友達との時間を大事にしなさい。もちろん、剣術訓練は真面目に取り組むこと。剣の術は、どの高校でも大切にされているものだからね。
それじゃあ、行ってらっしゃい! 午後6時20分にまたここへ集合、夜の訓練を始めます!」
生徒たちは歓声を上げ、それぞれ散っていく。
小川はすぐに自分の仲間たちのところへ向かった。
「おいみんな! プール行こうぜ! もう泳ぎたくて死にそうなんだけど!」
松本が申し訳なさそうな顔をする。
「あー……悪い。俺、もうトモヤとアキラと回る約束してんだわ。なんかボウリング場あるらしくてさ。三人目が必要なんだと」
そのタイミングで、背の高い黒髪まっすぐの男子と、坊主頭で少しぽっちゃりした男子が近づいてきた。
「おい松本、いたいた。行くぞ」
「そうそう! ボウリング場めっちゃ広いらしいぞ!」
松本は振り返って笑う。
「おっけー! じゃ、行こう!」
去ろうとする三人に、小川が慌てて食いつく。
「待てよ! 俺も行きたい! ボウリング好きなんだけど!」
すると二人は揃って嫌そうな顔をした。
「絶対やだ。お前うるさいし。しかももう四人目も呼んでる」
「一人で遊んでろよ、小川」
小川の顔がわずかに曇る。
「おいジュンペイ! なんか言えよ!」
松本は小さくため息をついた。
「なあマコト、たまにはあいつらとだけで回りたいんだよ。いつも一緒じゃなくてもいいだろ。あとで会おうぜ」
二人はクスクス笑いながら松本と一緒に去っていく。小川はその場に残され、少しだけ傷ついたような顔をした。
「……なんだよ。エアホッケーの話はどこいったんだよ……」
だがすぐに気を取り直し、今度はヒキと占が二人で行こうとしているのに気づく。
「おーい! 二人とも待てよ! 俺も行く!」
日向と占が振り返る。占は露骨に面倒くさそうで、日向は気まずそうにため息をついた。
「なあマコト。俺ら、ちょっと二人で過ごしたいんだ。あとで一緒に回ろう。な?」
「えー、いいじゃん、ちょっとくら――」
「マコト! ダメ!」
占の珍しい強い声に、小川も日向も同時にびくっとした。
占は今、本気でイラついているらしい。
「私はヒキくんと一緒にいたいの! だからマコトは別のとこ行って! ほら、行こ、ヒキくん!」
「あ、ああ……。じゃあな、マコト」
占に引っ張られるようにして、日向も去っていく。
小川はついに一人になった。
(……なんだ今の。メグミ、なんであんなキレたんだ? ヒキのこと好きなのは分かるけどさ……)
小川はため息をつきながら歩き出した。
「しゃーねぇ。なんか食うか……そのあとユメコちゃんが何してるか見に行こっと!」
-
「行ってきまーす!」
朝7時。
金髪を短くポニーテールにした少女が、玄関から飛び出していく。淡い水色のブレザーに濃い青のスカート、膝上までの黒いソックスに茶色のローファー。首からは学生証入りのネックストラップを下げ、背中には紫色の布で包まれた剣とリュックを背負っていた。
彼女眠そうなピンクの瞳をこすりながら前髪を払う。
「学校、早すぎ……。まだ寝てたい……」
そう言ってあくびをしたその時、後ろから駆け寄ってくる足音がした。
「おはよう、ヒナちゃん!」
ヒナが振り返ると、そこには一番の仲良しがいた。
長い淡い水色の髪に、大きくて可愛い蜂蜜色の瞳。同じ制服姿で、彼女もまた首からストラップを下げ、青い布で包まれた剣を背負っている。
「……あ、ノア。おはよう。朝から元気だね、あんた。
こっちは剣術理論の勉強で夜更かししてたから眠いのに。……まあ、勉強してなくても、たぶん今すぐベッド戻りたいけど」
二人は並んで歩き出す。ノアはくすくす笑った。
「ヒナちゃんって、本当に剣のことになると休まないよね。たまには息抜きすればいいのに」
ヒナはじっとノアを見る。
「ノア、それ何回も言ってるけど、もう理由は話したでしょ。
お姉ちゃんに追いつかないと、私は置いていかれる。そんなの嫌。だから私は、いい高校に入れるくらいまでちゃんと強くなるの」
「あっ、そうだった! ごめん、いつも忘れちゃう! でも、それだけ頑張ってるなら――」
ノアは突然立ち止まり、ヒナの肩をがしっと掴んで激しく揺さぶった。
「もしかしてヒナちゃん、J.R.S.アカデミー受けるつもりなの!?!?」
「わっ、ちょっ、やめ……っ!」
ぐらぐら揺さぶられて目を回しかけながら、ヒナは慌てて首を振る。
「ち、違う違う! 無理だよそんなの! あそこなんて超難関じゃん! 剣の術の実力だけじゃなくて、成績もめちゃくちゃ良くないといけないし! 私、成績はそこそこでも“すごい”ってほどじゃないし、実力もJ.R.S.レベルなんて全然足りない。日本のトップ10校にだって入れるか怪しいよ。
だから私は、自分に合ったいい学校に行って、そこから頑張る! それが完璧な計画!」
ヒナはぐっと拳を握って、自信満々に笑う。
だがノアは、なぜか少し残念そうな顔をした。
ヒナはそれに気づいて首をかしげる。
「……何?」
「ヒナちゃん、自分をそんなに低く見ないでよ!!」
「え?」
ノアはヒナの胸を人差し指でつついた。
「もっと上を目指していいの! 今から諦めちゃダメ!」
ヒナは目を伏せる。
「でも、私なんて――」
「できる!!」
ノアの強い声に、ヒナはびくっと肩を震わせた。
ノアがこの調子になる時は、本気で自分の言っていることを信じている時だ。
ノアはヒナの手をぎゅっと握る。
「お姉さんに追いつきたいんでしょ?」
ヒナは迷いながらもうなずいた。
「だったら、お姉さんがJ.R.S.に行ったみたいに、ヒナちゃんだってああいうすごい学校を目指すべきだよ! J.R.S.じゃなくてもいい。でも、トップ10のどれかには絶対挑戦して! うん、それが新しい目標! トップ10の高校に入ること!」
「ノア――」
「でもじゃない! もしどこにも受からなかったら、私、一生許さないんだから!」
ぷいっとそっぽを向くノア。
ヒナはそんな友達を見て、くすっと笑ってしまった。柔らかな目になる。
「……何がおかしいの!?」
ヒナは笑いながらノアの頭をぽんと撫で、また歩き出した。
「はいはい……。じゃあ、剣術属性の制御を、もうちょっと真面目に詰めてみる」
そして振り返り、少しだけ強い笑みを見せる。
「だって、10位でも“トップ10”だもんね。……もう少し先まで目指してみるよ」
ヒナが歩き出すと、ノアはぱっと明るい顔になって追いかける。
「そうこなくっちゃ!」
二人は肩を並べて、自分たちの学校――果園中学校へ向かった。
「今日もこの黒崎ノアと鈴木ヒナ、全力で頑張ります!」
「ふふっ」
-
ギィ、と教室の扉が開く。
まだ朝7時。教室のカーテンは閉じられていて薄暗い。
そこへ一人の少年が入ってきた。樫の木みたいな茶色のツンツンした髪。目を閉じたままあくびをしている。
茶色のブレザーに黒いズボン、白い上履き。
赤い布で包んだ剣を自分の机に置き、窓のブラインドを少し開ける。朝の光が差し込み、教室が静かに明るくなる。
彼は窓際の隅の席に腰を下ろし、鞄を机の横に掛けると、ノートと剣術理論の教科書を取り出した。
山田田樹
秋中学校
少年――山田タイキは、自分の名前の下に書かれた中学校名を見つめ、小さく息をついた。そしてノートを開く。
そこには、剣に関するさまざまな戦術、考え方、気になる点がびっしりと書き込まれていた。
(……これで足りるのか……?)
教室の時計が静かに時を刻む中、山田は黙々とノートへ視線を落とし続けた。
それぞれの場所で、それぞれの生活を送っている三人。
けれど、その存在はどこか――重要な意味を持っているように思えた。
こんにちは。今回の話も楽しんでいただけたら嬉しいです。少し短めではありますが、前から少し触れていたかもしれない新キャラクターを、正式に二人登場させたかったのでこうなりました(笑)。
次の話もぜひ楽しみにしていてください!
「はぁ……面倒くさい。マコトだけ追いかけててよ。私とヒキくんはこの話から外して。」
――占メグミ




