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リアリティ・チェック  作者: こざかな
第1部 ― 鯨中学校学期
10/13

第9話:小川のつかの間の思考

第9話も楽しんでください!

小川家の夜は更けていた。学校は終わり、週末が始まった――とはいえ、クルーズ研修が日曜に控えているので、実質ほとんど一瞬の週末だ。


 小川マコトは自室の机に座り、いつもの友人たちと通話しながらPCでゲームをしていた。


「ヒキ、次のゲーム決めて」


「やだ。マコトが決めて。ヒキに任せたら、またクソみたいなオーバーウォッチやらされる。あれクソつまんないし、意味わかんない! それにファン層も変!」


「オーバーウォッチは面白いって! 役割があるんだよ、役割! タンク、DPS、サポート! 三つくらい覚えろよジュンペイ! マコト、俺の味方しろ!」


「マコト、こいつの味方すんな」


「うーん……俺は……Call of Dutyのほうが好きかな」


 ――静寂。


「マコト! 裏切り者! まともなCoDなんて3以降ないわ!」


「そうだ! ちゃんとしたゲームやれよ、オーバーウォッチみたいな!」


「ヒキ黙れよ!!」


 小川は口元をひくつかせた。いつもの口喧嘩だ。だがそこで、小川は一つ気づく。


「……てかさ、メグミどこ? 全然入ってこないじゃん。俺、あのマルチのホラー一緒にやりたかったんだけど」


「じゃあ俺が連絡してみる」


「はいはい、彼女に連絡ね。なあヒキ、いつ告白すんの?」


「歯へし折るぞ。ちょっと待ってろ」


 日向ヒキがミュートになる。松本ジュンペイは腹を抱えて笑っていた。松本イは日向をからかうのが大好きだし、からかいながらも本気で“早く行け”と思っているのが小川にも分かった。


 小川も、二人はお似合いだと思っている。……ただしそれを口にする気はなかった。なぜなら、日向もウラナも、小川と田中ユメコのことは全く応援してくれない。小川はそれを地味に根に持っている。


「なあマコト。クルーズ、楽しみ? 明日で一日後だぞ!」


「当たり前だろ! それだけじゃねぇ。俺、ついにやる。たぶん出航の日か、その辺で……ユメコちゃんに本気で告白する。今度こそ! 冗談じゃなく!」


「……マジで?」


「もちろん! 高校入る前に決めないとさ。現実的に考えて、高校じゃもう同じ学校じゃねーし。熱いうちに打つ!」


「それは確かに。ユメコはJ.R.S.アカデミー志望だし、たぶん受かる。頭いいし、剣も天才クラスだし」


「だろ?」


「で、お前は真逆。お前があの名門の廊下歩いてる姿とか、誰も想像しない。だからまあ、今のうちに撃て。たぶんエアボールだけどな。安心しろ、振られたら俺が肩貸してやる。俺らは人生を進めよう。努力いらなそうな大学でも目指してさ」


「……今の、全部言わなくてよかっただろ」


「親友として、幼なじみとして、現実言っとかないとな」


「ジュンペイ……クソが」


 松本は向こうでゲラゲラ笑い、小川は溜息をついて画面に中指を立てた。


「おっと。トイレ行ってくるわ、ラブボーイ。すぐ戻る」


「はいはい。落ちんなよ、アホ」


 小川は笑った。松本は悪態をマイク越しに残しながら離席した。小川は二人が戻ってくるのを待ちながら、自然と“自分の世界”へ入り込んでいく。


-


――夢の中。


 クルーズ船の上。カモメが鳴きながら飛び、波は強いのにどこか穏やかで、船は滑らかに進んでいる。太陽は甲板を明るく照らし、最高の一日だった。


「ユメコちゃーん!」


 小川はハワイアンシャツに白T、青い海パン、サンダル、麦わら帽子。本人いわく“クルーズ最強コーデ”。


 田中ユメコは手すりにもたれ、広い海を見つめていた。潮風が髪を揺らす。白いサマードレスにはひまわりの模様。下は赤い水着。こちらの麦わら帽子にはタンポポの飾りと、赤いリボンが巻かれている。


 田中が振り向き、幸せそうに笑った。


「マコトくん! 待ってたよ! 女の子を待たせるのって失礼だよ? しかも、その女の子が“私”ならなおさら!」


「あはは、ごめんユメコちゃん。来るつもりだったんだけど……気合い入れる時間が必要だった!」


 田中は首を傾げる。その仕草が可愛すぎて、小川は心臓が潰れそうになる。


「え? 何の気合い?」


 小川は深呼吸して近づき、田中の手を取る。そして、ひまわりを一輪、そっと彼女の掌に置いた。


「マコトくん……」


 二人とも顔が真っ赤になった。時間が止まったみたいに静かで、風だけが優しく吹いている。沈黙さえ、心地よかった。


 小川は喉を鳴らし、覚悟を決める。


「ユメコちゃん……俺と……付き合ってください……!」


「マコト!」


 田中は涙が出そうな顔で小川を見つめ、口元を手で隠す。だがすぐに手を下ろし、小川が大好きな眩しい笑顔を見せた。恥ずかしそうに視線を落としてから、また目を合わせる。


「マコトくん……わたし――」


「マコト!」


「うわぁぁぁぁぁ!!」


-


現実。


 小川は叫び声と共に夢から引きずり戻された。


「は!? なに!? 最悪! 今めっちゃいいところだったんだけど!!」


「はいはい。俺もう寝るわ、マコト」


「え? ゲームは? てかヒキとメグミはどうしたんだよ」


「なんかメグミが外出たがって、ヒキが一緒に出てったっぽい。言うの忘れてたらしい。俺は眠いからクルーズの準備して寝る。じゃーな」


「おい、待――」


 だが松本はすでに通話を切っていた。


 小川はヘッドセットを外して溜息をつく。妙だ。まだ夜九時。普段なら二人だけでももっと長くやる。なのに今日の松本は、最初から早く切り上げたがっているように聞こえた。


 それに、日向とウラナが“どこに行くか”を松本にだけ伝えて、小川には何も言わなかったのも引っかかる。


 最近、みんなが少し距離を取っている気がする。松本の当たりも、妙に強い。……考えすぎだ、と小川は首を振った。


 その時、ドアの向こうから低い声。


「おい。てめぇ」


 小川が振り向くと、兄の小川レンが立っていた。乱れた黒髪に、魂を刺すような黒い目。不機嫌そのもの。


「俺のプロテインチョコ、盗んだか? 今言えば生かしてやる」


「えー……知らね。あれ不味いし」


「だろうな。お前は“ちょっとでも体にいいもの”食えないタイプだもんな」


「はぁ!? ちょっ――」


 小川が言い返す前に、レンはドアを閉めた。


「ちっ。あれでグリーンレルムの学生とか、信じらんねぇ」


 小川は溜息をつき、ベッドに倒れ込んだ。


 ――早く、研修が始まってくれ。

こんにちは。次の章(次話)からいよいよ物語が動き出します。ぜひこのまま見届けて、楽しんでください!

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