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貞操逆転世界で女の子をからかって遊びたい  作者: しゃふ


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13/13

13話

「こんにちは。センパイ」

 

 季節は六月。屋上へと続く扉からちらほらと雨音が目立つようになってきたこの場所で、僕はいつものようにセンパイと一緒にいた。


「おはよう、真尋」


 柔らかい笑みでこちらに語りかけてくるセンパイは、今日もお弁当だ。

 少し前までは購買のパンだけだったのにどういう心境の変化なんだろう。



「真尋、あーん」


 ……もしかすると、これが目当てなのかな。

 

 センパイの作るお弁当は好きだ。

 最初の方は恥ずかしがったりしたけど、最近は素直に受け入れるようになった。

 だって美味しいもん。

 

 ……単純だな、僕。


「おいひいです。へんはい」

「へんたい?」

「いってないですそんなこと」


 こんな風にセンパイと軽口を叩いている時間は、僕にとって癒しの時間になりつつある。

 ……特に、ここ最近は。


 ふと、数日前の出来事を思い出す。


『――そんなに犯されたいの?」


 あの日の水瀬さんは少し、おかしかった。

 いや、少しどころではないかもしれないけど。

 教室にやってきた彼女は、普段よりも強引で、荒々しくて。


 でも、その目の奥にはいつもの優しさもあって。

 僕は、彼女のことが、少し分からなくなった。


 ……水瀬さんに押し倒される直前、聞かれたことがある。


『なのちゃんのこと、恋愛的に好きなの?』


 彼女の言葉は僕の頭の中にずっと残っている。

 

 ――恋愛的に好き、か。

 

「……センパイって、好きな人とかいます?」


 頭の中に湧いた疑問を解消するために、僕はとりあえず、一番身近な人の意見を聞くことにした。


「な、な、なんの、はなし?」


 言うと同時に、カチカチと彼女の右手の箸がぶつかる音がした。


 ……すごい動揺してる。

 いやまあ。こういう話は今までしたことがなかったけど、少し意外だ。

 

「ただの雑談です。……いるんですか? 好きな人」


 ……もし、センパイに好きな人がいたら?

 

 この世界は女の子同士で付き合ったり、結婚することだって普通らしいし、僕以外の男だって探せばいるだろう。 

 

 もし、センパイの隣にいる人が、僕じゃなくなったら?

 


 ――それは、嫌だなって、思う。


「……真尋は、いるの?」

「えっ?」


 センパイから返ってきた言葉が、思っていたものとは違っていて、僕は少し困ってしまった。


「んー、どうでしょう。……そういうの、あんまり分かんないです。

 あっ、でも」


 きっと、これは質問の答えにはならないだろうけど。


「――センパイと一緒に居るのは楽しいです」


 心の底から、そう思っているのは確かだ。


 目の前のセンパイの顔が少し赤く染まっていく。

 彼女はこういう本音には弱いのだ。


「……私、も。真尋とずっと一緒に居たい」

 

 

「友達、真尋しかいないから」


 そう言うと、センパイは僕の頭に手を置いた。

 僕は抵抗する気もなく、そのまま彼女に身を委ねながら、お弁当に手を伸ばした。



 お互いに食事を終えた昼下がり、スマホを触っていると、不意に通知の音が鳴る。

 見てみると、望月さんからのものだった。


『柊くん、明日ご飯一緒に食べない?』

『ヒロっち見てる〜? なのちゃんは、私の物になっちゃいました〜』

『……こいつも一緒だけど』


 そこには三通のメッセージと一つの写真が添えられていた。

 

 写真には、望月さんの頭の上に顎を乗せてピースする水瀬さんと、それを上目遣いで睨む望月さん。


 ……なんだかんだで、仲良いな二人とも。

そんなことを思いつつも、僕は思考を巡らせる。


 ――そういえば、少し前の昼休みに水瀬さんに誘われたんだっけ。確か三人で一緒にご飯食べよ、って。


 色々と忙しくて有耶無耶になってたけど、友達として、たまには一緒に食べた方が良いのかもしれない。


 でも、それは必然的にセンパイを一人にしてしまうことであって……、ちゃんと、相談した方がいいな。


「明日なんですけど、クラスの子から一緒にご飯食べよって誘われて……」


「――前に会った子?」


 言い終わる前に、センパイの声で僕の言葉は遮られた。

 彼女は「このとき」と呟きながら、スマホをこちらに向ける。


 そこにいたのは、僕。

 前に、望月さんと一緒にセンパイがバイトしているカフェに入ったときの写真だ。


「はい。その子ともう一人、友達と一緒です」


「そっか。……明日、だけ?」

「もちろんです」


 そう言うと、センパイは少しだけ顔を床に俯けた後、「わかった」と、小さく笑いながら言った。


 センパイのことは、ちょっと心配だけど。

 でも一日くらいなら大丈夫なはず、だ。


 

 ……ところで。


 センパイのスマホの写真は確かに、僕が撮るのを許したものだ。

 

 写真の僕が着ている、ヒラヒラとしたワンピースはあの日以降、部屋の奥で封印されているものであり、正直もう誰にも見せる気はなかったものでもあり――


「なんでその写真待ち受けにしてるんですか?」


 ……センパイの待ち受けがそれなのは、問題だ。

 というか、そこまで許した覚えはない。

 

 普通の写真ならともかく、あれはダメだ。

 恥ずかしすぎて僕が死ぬ。


「ちょっと、無視しないでください」


「……やだ」


 駄々をこねる子供のように言うセンパイの姿は、とても"先輩"とは思えない。

 

 でも、あんな姿。

 もし知らない人に見られたら、と思うと寒気がする。待ち受けなんかにしてると、誰かに覗かれる可能性もあるし……。


 そう思った僕は、少し強引な手段を取ることにした。


「真尋?」


 座っているセンパイを見下ろすように、僕は立ち上がって、彼女を見つめる。


 そして、出来る限りの低い声を喉から震わせて、


「――変態」


 まるで軽蔑するような、ジトッとした視線を彼女に向けながら、そう呟いた。


 センパイも"先輩"なのだ。

 こういうことを後輩から言われるのは効くだろう。

 そう思って、彼女の顔を覗いてみると――

 

 センパイの顔はまるで熟した果実のように赤く火照っていた、

 

 ……なんか、思ってたのと違う。


「もう。仕方ない人ですね」


 言葉で説得するのを諦めた僕は、別のアプローチを実行することにした。


「センパイ、今前向いたら良いものが見れますよ?」


 そう言うと、センパイは俯いていた顔を上に動かした。

 ――今だ。


 僕は逃さずスマホのシャッターボタンを押す。

 センパイは何が起こったのか、分からないようで、目をぱちぱちと繰り返していた。


「ほら、見てください。二人一緒に写ってます。これでいいでしょ」


 僕は自分のスマホの待ち受けの写真を今撮ったものに変えた後、彼女にも同じ写真を送る。


「え、あ?」

「分かったら、センパイも変えてください。今送ったんで。……それとも、僕とお揃いは嫌ですか」


 できるだけ弱々しく、少し声を震わせながら彼女に向かって呟く。

 すると、センパイは慌てた様子でスマホを触りだす。


「で、でも。この写真の私、すっごく、変な顔してる」

「そんなことないですよ、可愛いです。

 チューしちゃいたいくらいです」


「へあっ!?」


 ……あれ、なんか凄いこと言ってる気がするな僕。

 

 センパイのふにゃけた声が階段に響き回る中、僕は冷静になって、そんなことを考える。

 

 ……でも、まぁ。

 だいたい本当のことだし、いいか。


「……僕は、センパイのこういう顔。好きですよ」


 そう、言った瞬間。

 センパイは階段から立ち上がって、そのまま下の階に向かって逃走を開始しようとし――


「やらせません」


 すんでのとこで、僕はセンパイの手を掴んで止めた。

 まったく、油断ならないな。


「は、はなへぇ」

「逃げるなら、せめて写真変えてからしてください」


「……うぅ」


 でも、こういう子供っぽいとこも、センパイの良いところだ。


「はい、よくできました」


 センパイの待ち受けを確認した後、僕はそう呟きつつ、彼女の頭に手を置く。


 先ほどまでとは、すっかり立場が逆転だ。そのまましばらく撫でていると、センパイは徐々に元の顔色を取り戻していき、


「落ち着きました?」

「……うん」


 ここから逃げ出そうとしないほどには落ち着きを取り戻したようだ。

 よし、一件落着。


「なんか、ちょっと疲れちゃいましたね」


 どっと疲れが押し寄せたように、あくびをした僕は目元を手で擦りながら、センパイに向かって話しかける。


「眠いの?」

「……少しだけです。昨日、妹が騒がしかったから、夜遅くまでゲームに付き合ってたんです」


 葵の奴は定期的に構ってあげないとすぐに暴走してしまう。

 

 もちろん、彼女と遊ぶのは楽しいけど、貴重な睡眠時間が失われるのは問題だ。

 ……最近は、トラックに轢かれる夢も見なくなってきたし。


「真尋、こっち来て」


 そんなことを思っていると、センパイが手招きしているのが見えた。

 なんだろう、と思いつつも素直に隣に座ると、センパイが少し張り切ったような口調で、


「授業の時間になったら、起こすから」


 ポンポンと自分の膝を叩きながら、彼女は僕の耳元に向かって囁いた。



 ……膝枕。妹にはしたことがあるけど、される側は初めてだ。

 

 こういうことは、昔から少し憧れていた。前の世界でも、常にお兄ちゃんだったし。


 そう考えると、なんだか急に眠気が襲ってきた気がする。

 ……よし、ここはお言葉に甘えよう。


 身体を横に倒して、センパイの膝に頭を乗せる。

 残念なことに、彼女の制服はスラックスなので肌が直接触れることはない。

 

 でも、こっちの方が下手に緊張しなくていいのかもしれないな。


「……んっ、どこ触ってるんですか。センパイ」


 ふいに、センパイの手が僕のうなじの辺りに触れる。くすぐったさから、少し高い声が出る。

 

「さ、さわってない。た、たまたま当たった、だけ」

「寝てるうちに変なことしたら怒りますよ。

 写真撮ったりするのも禁止です」


 ぎくり、とセンパイが顔を歪める。

 まさか、本当に撮ろうとしていたのか。


 ……いや、別に写真を撮るのはいいんだけど。

 でも、撮るなら、せめて誰にも見えないような場所で保管しておいて欲しい。


 こういう姿は、センパイにくらいしか見せないから。


「……それじゃあ。おやすみなさい、センパイ」

「うん、お休み。真尋」


 そんなことを考えながら、僕は瞼を閉じた。

 視界がなくなって、センパイの身体の質感と匂いが、さっきまでよりも過敏に伝わってくる。


 

 ……全然、寝るのに集中できない。

 

 それでも、どうにか眠ろうと画策しているとき。

 ふと、耳元にスースーという息遣いが聞こえた。



「……もう。なんでそっちが寝てるんですか」


 いつの間にか、センパイは横になっている僕の耳元で眠っていた。

 その顔は安らぎという言葉を体現しているように、柔和で暖かい表情だった。


 僕は起き上がって、彼女の身体が倒れないように支える。

 そして、そっと自分の膝の上に、彼女の頭を置いてから。

 

 パシャリと、スマホのカメラを鳴らした。

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