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貞操逆転世界で女の子をからかって遊びたい  作者: しゃふ


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10/13

10話

「水瀬」


 昼休みの後の体育の時間、先生の目から離れた木陰でサボっていると、そう声をかけて私の隣に座ってくる子がいた。


「あ、なのちゃん」

 

 望月菜乃花。

 少し前までは真面目ちゃんというイメージしかなかったけど、最近はずいぶんと可愛げのある子になったものだ。

 

「隣、座るよ」

「委員長がサボりなんていいの? てっきり注意しにきたのかと」

「べつに、いい」


 ……でも、今日の望月は少し様子がおかしい。

 いや、最近はだいたいおかしかったんだけど、今日は群を抜いて変だ。

 

 寝不足なのか、朝からずっとボーッとしてるし。言葉にまったく覇気がなく、ふわふわとしている。


 ――たぶん、例のデートのせいかな。


「で、どうだったの? ……いやまぁ、顔色的になんとなく分かるけど」


 気になった私は身体を揺らして、彼女の肩に頭を乗せる。

 望月は、うざったそうにこちらを見つめた後にポツリポツリと呟きだした。

 

「……柊くんが、知らない女に可愛いって、特別だって、一緒に、居て欲しいって」

 

 彼女の声は今にも泣き出しそうに震えている。

 私は腕を彼女の後ろに回して、その背中を軽くさすりながら呟く。

 

「あー、うんうん。それは柊くんが悪いね。

 ――よし、じゃあ一旦落ち着こうか。はい、深呼吸」


 望月が落ち着きを取り戻すまで、少し時間を与えた方が良さそうだ。

 

 ……それにしても、柊はなにを考えているのか。

 望月が自分のことを好きだってこと、さすがに分かってると思うんだけど。


 ――鈍感なのか、わざとなのか。


 柊の姿はここにはない、前に先生に聞いてみたけど、どうやら男子は体育に参加できないらしい。

 学校としては下手にやらせた結果、怪我とかで問題になるのが嫌なのだろう。


 でも体育終わり、教室で暇そうにしている柊は少し寂しそうで、気にせず参加させてやってもいいんじゃないかとも思う。



 ……そんなことを考えていると、隣の望月に腕を掴まれた。どうやら、落ち着いたらしい。


「もう平気?」

「……うん」


 子供みたいにいじけた態度で頷く望月の姿に思わず苦笑する。

 ほんと、こんな子じゃなかったのに。


「で、結局何があったの?」


 私は彼女の話の続きを聞こうと声をかける。


 すると、少し話しづらそうにもじもじとしながら、望月が語り出した。


「その後……私、怖くなって。それで、帰るとき、柊くんに抱きついて……」

「……まじで?」


 随分と大胆なことをしている……。

 正直、日和って空回りするだろうな、と思っていたから意外だ。


 そこで口を閉じたかと思えば、望月はまだ何か言いたげにしていた。その顔は少し火照っていて、口元は緩んでいる。


 彼女は周りに人がいないことを首を振って確認した後、小さな声で。


「――柊くんが、私に好きって言ってくれた」


 私の耳元に呟いた。

 

「え?」


 それって、告白なんじゃないの?


 頭に湧いた疑問を解決するために、彼女に向かって問いかける。

 

「その好きって、どういう好き?」


 それを聞いた瞬間、望月の顔が少し歪む。そして、またさっきまでのいじけた態度に戻りながら言った。

 

「……分かんないよ。秘密って、言われたし」


 なるほど……秘密、か。

 

 ――やっぱり、悪い子だわ。あの子。

 

 思わずため息が漏れ、その勢いで本音が飛び出る。

 

「……はぁ。もう告っちゃえばいいんじゃない。直接好きって言ったら柊くんも逃げられないでしょ」

 

「むり、ぜったい、むり。あのときは、頭がいっぱいだったから色々できたけど、今はぜったいむり」


 情けない声でぐずぐずとしている望月を見ていると、ちょっとずつじれったい気持ちが襲ってくるのを感じる。


 ……すこし、イジメちゃおうかな。

 

「そういえばさ。この前友達に相談されたんだ。

 ――柊くんに告白したいんだけどどうしよう、って」


 そう言った瞬間、望月の顔が苦悶に歪む。

 

 ……これは、本当の話だ。


 ちょっと前にラインで友達からそんな相談をされた。

 まあ望月ほど本気ではなさそうだったけど、柊を狙っている子は結構いるんだろう。


「放っておくと、先越されちゃうかもよ?」


 そう囁くと、望月は取り乱した様子で、「うぅ」と呻き出す。

 その顔は赤くなったり、青くなったりを繰り返していて、傍目で見る分には面白い。

 

 ……たぶん、こうやってコロコロと表情が変わるとこが柊は好きなんだろうな。

 教室で彼女をいつもからかっている柊の姿を思い返しながら、私は思った。



 ――でも、そのとき。


 先程までのしどろもどろしていた望月の声が急に別のなにかに変わった。


「……そんなの、ダメ」

「ん?」


「柊くんが、誰かに取られるなんて許さない。絶対、なにしてでも、止める」


 その声は少し危うげで、目的のためには手段は選んでられないという執心が伝わってくる。

 

 ……なんか、思ってた反応と違うかも。


 そう思った私は彼女に疑問を投げかける。


「ちょっと、なにする気?」

「……言わない」


 私が問いただしても、望月は口を閉じて答えない。


 彼女の顔に浮かんでいるのは、激しい執着と焦燥。 

 このまま放っておいたら膨れ上がって、いつか爆発してしまうかもしれない。



 ――これは、ダメだ。


 そう考えた私は、一つ決意を固める。


「……私、柊くんと話してくる」

「は?」


 ……たぶん、このままだと酷いことが起きる。望月か、柊か、もしくは別の誰かに。

 

「先生が来たら体調不良ってことにしといて。じゃ、いってくる」

「え、ちょっと、水瀬!」

 

 ……彼女がこうなったの原因は間違いなく柊にあるだろう。


 あの思わせぶりな態度は、ダメだ。

 あんなのをずっと続けてたら、そのうち刺されてもおかしくない。


 ……だから、矯正しないといけない。

 それが、多少強引で――

 彼を、傷つけることになるとしても。


 私は駆け足で運動場を抜け、彼がいる教室へと足を運んだ。




 ――昔から人を好きになるってのが分からない。

 

 教室までの道のり、長い廊下で私は数年前のことを思い出していた。

 

 中学の頃、仲の良い女の子がいた。

 その子は教室で孤立していた私に、唯一声をかけてくれた子だった。

 

 当時の私は今と違ってずっと地味で、いつもクラスの端っこで机に突っ伏していた。

 

 だけど、その子だけは私によく話しかけてくれた。

 派手な見た目で、馴れ馴れしく私を「さっちゃん」って呼ぶ彼女はクラスの人気者で、私とは対照的だった。


 そんな彼女を私は最初は遠ざけて、邪険にしていた。

 でも、彼女はいつも優しく笑いかけてくれて、私が落ち込んでいるときは「うんうん」って頷きながら、背中をさすってくれて。


 いつのまにか、彼女の隣にいることがほとんどになった。

 

 彼女と仲良くしていると、次第にクラスでも打ち解けていって、いつの間にか友達は彼女以外にも沢山できていた。


 そんなあるとき。

 私は彼女から相談された。


 ――好きな女の子がいるって。


「さっちゃんはさ。その、告白した方がいいと思う?」

「よく分かんない。私、好きな人いないし」

「……そっか」

 

 今思えば、そのときだろうか。"好き"っていうのが分からないって気づいたのは。

 

 それから、彼女が好きな子の話をすることはなかった。

 特別彼女の様子が変わったようにも見えなかったし、私自身、その話はほとんど忘れていた。


 でも中学を卒業した後、その子と仲が良かった別の友達と話したとき……私は聞いてしまった。

 

 ――その友達は、ずっとあの子に相談されてたらしい。


 さっちゃんのこと、好きになっちゃったって。

 

 ……結局、私が彼女の気持ちを直接聞くことはなかった。あの子は県外の高校に行くことになって、中学を卒業してからは一度も会ってない。


 それから、髪を染めて、服装を勉強して、会話のやり方も練習して、彼女の真似をしてみたけど。

 

 ……未だにあの時、彼女がどういう気持ちで私と一緒にいたのかは分からない。

 なにも、教えてくれなかったから。


 

 でも、なによりもショックだったことは。

 

 ――ずっと一緒にいたあの子の気持ちを、自分で気づけなかったことだ。



 いつの間にか、教室の前に着いていた。

 窓から覗いた室内では、柊が机に突っ伏している。

 

 柊はただの友達。

 そりゃあ、嫌いじゃないし。結構波長も合うから話していて楽しい。

 

 ……初めて会ったとき、この子なら私を惚れさせてくれるって思った。

 男の子ってのもあるけど、彼からは他の人と違う何かを感じた。

 

 ――でも、もう口聞いてもらえないだろうな。


 自分がこれからしようとしていることを思い出して、心が暗くなるのを感じる。

 

 ……柊は物分かりの悪い奴じゃない。

 だから、私が今からする"警告"の意味も分かってくれるはずだ。


 教室の扉の前で決意を固めた私はゆっくりと足を動かしながら。


「鈍感なヒロっちには、お仕置きしてあげないとね」


 そう小さく呟いた後、私は音を立てないように教室の扉を通る。

 

 そして、半開きだった教室のドアが完全に閉じたことを確認した後、私は彼の元に向かった。

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