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貞操逆転世界で女の子をからかって遊びたい  作者: しゃふ


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1話

 トラックに轢かれると貞操逆転世界であった。

 ……うん、意味分かんないよね。僕もそう思う。


 高校の帰り道、トラックに轢かれたことは覚えている。背後から迫り来る轟音に気づいたときはもう手遅れ、宙を舞った身体は変な風に曲がってから地面に叩きつけられて、僕、柊真尋は死んだ。

 

 別に歩きスマホとか、イヤホンとかそういうのをしてたわけでもないのにね。まったく神様ってやつはひどいよ。

 

 そして、目を覚ました僕を迎え入れたのはこの世界、貞操逆転世界だ。

 

 存在自体は前世の頃から知っていた。ネット小説を漁っていたときに、何だこれ? とクリックしたら案外ハマって読み漁ってたからだ。


 ……まさか自分が当事者になるとは思わなかったけど。

 ただ不幸中の幸いはこの世界が小説ほど極端な世界でないことだった。

 

 男女比はだいたい1:20、前に見た小説では男女比1:10000とかの狂気の世界もあったので、そこは安心だ。まあ、それでも十分狂ってるんだけど。


 そして、そんな貴重な野郎どものために政府は男性に対する補助金やら支援機関やらを作っているらしい。

 その結果、この世界の男は学校にも仕事にも行かず、家でぐーたらしてるだけでも生きていける。


 ……僕もその一人だったみたい。

 

 この世界の僕は不登校だったようだ。部屋の中は散らかったゲームや漫画だらけ、学習机の引き出しには埃に塗れた教科書が、クローゼットの奥底には皺一つない制服がある。

 

 鏡を見ればすっかり髪も伸びきってしまっており、顔色も悪い。その姿はダメ人間というのが相応しいだろう。少なくとも前世の価値観においては。

 

 こんな状態でも男というだけで生きていける、そう思うと、なんとも狂った世界にやってきたらしい。


 


「よし、片付け終わりっ!」


 ということでこの世界に来て数日、僕はダメ人間を卒業することにする。

 部屋に篭ってニュースサイトやらWikipediaに齧り付くのは今日で終わりだ。この世界のこともだいたい分かってきたしね。


 ……ただ、それはそれとして、僕には少し問題があった。

 というか、この世界に来た当初からソレはずっと頭を悩ましている。


 散らかった部屋とか、伸びた髪とか、不登校とか、そういうのは別にいい。

 部屋は片付けたし、髪は今度散髪屋にでも行けばいい、学校だって来週から通えるように準備している。


 だから、そう。現状、僕にとっての問題はただ一つ。


「真尋くん、どうしたの? 急に制服なんて取り出して?」

「……お兄ちゃん、何かあったの?」


 家に知らない「家族」がいることだ。




「そう簡単に納得……できるわけないよなぁ」


 自称母親と自称妹。それは今現在の自分にとって最大の悩みのタネだった。出会って数日経ったけど、この世界の家族との距離感は測りかねている。


 前世で見た小説だと案外簡単に受け入れていたような気がするんだけど……当事者になると違うな。

 

 見知らぬ人が、見知った態度で接してくる。それは簡単に受け入れられるものではなく、僕はまだこの世界の家族とは馴染めていない。


 というか正直怖い。母親はめちゃくちゃ過保護だし、妹は時々部屋の中を覗いてきては、何かぶつぶつ言ってるし。

 そもそも前世の僕は父親と弟だけの男世帯で暮らしてきたのだ。あんな空間に居ては色々と限界が来てしまう。


 ……まあ、そういうこともあって、深夜、僕はこっそりと家を抜け出して、ひと気のない道を歩いていた。

 

 いわゆる深夜徘徊というやつか。家に居ても落ち着かないし、少し一人になりたかったからだ。

 

 勿論未成年、ついでに男ということもあって、バレたらまずいことになるだろうが……うん、考えるのはやめよう。


 幸い、深夜というのもあって辺りは暗い。なので、すれ違いざまに人の年齢や性別なんてわからないだろう。


「ここら辺の景色は前世と変わらない……、人だけがごっそり入れ替わってる感じか?」


 周りを見渡したついでに、そんなことを考える。

 別世界とは言っても、変わっているのは人だけで、それ以外は僕が死んだ世界とそっくりだ。

 スマホの日付とか通ってる高校とかは前の世界と変わっていない。


「……というか来週の高校大丈夫かな。知らない人だらけでぼっち生活とかならない?」


 ふと、余計な心配が頭に浮かんで、思わず足を止めてしまう。

 

 高校は来週から通うつもりだ。心配する母親の説得には苦労したが、なんとか了承を貰えた。

 

 学校生活は不安だ。話によると共学だったはずの高校はほとんど女子校と化しているらしい。

 そんな空間に放り込まれるとなると、心配する母親の気持ちも理解できる。うん、馴染めるわけないよね。

 

 ……少し対策を考えておかないとな。

 

 そんなことを考えながら、止まっていた足をまた動かす。春の夜風は案外心地よくて、さっきまで頭にあった不安は風と一緒に飛んで行くようなそんな気がした。

 


「あれ、もうこんな時間か」


 歩き疲れた僕は休憩がてら、スマホをポケットから取り出す。

 そこまで遠くに来てはいないのに、スマホの時計はかなり進んでいる。……おかしいな。

 それになんだか身体も重い気がする。


「……もしかして、この身体が原因?」


 今世の僕は明らかに運動慣れしていない、ずっと家に引きこもっていたのだから当然だ。

 ……もしかすると、僕が思っているよりこの身体は貧弱なのかもしれない。前のように、と考えていると痛い目を見そうだ。


 少し休憩したら帰ろう。そう考えて、辺りを見渡したとき、ふと気になるものを見つけた。

 

 少し先の電柱の下。もたれかかるように誰かが座っている。

 酔っ払いか何かと思ったがそんな様子もなく、気になったので重い足を無理やり動かして近くに向かう。

 

 そこにいたのは女の子だった。見た目から判断するに、自分とそう変わらない年の子だ。手にはスマホを握っていて、こちらには気づいていない。

 

 ただ、目を引くのはその服装。こんな夜中だというのに制服だった。

 たぶん学生なんだろうけど……塾帰りとかにしても遅すぎるな。

 

 そのとき、スマホの明かりで照らされた彼女の目からポツリと雫が溢れ落ちた。……泣いているのか。

 

 どうやら訳アリらしい。放置するわけにも行かないので声を掛けようとしたとき。

 ふと、例の母親が言っていた言葉が脳裏に浮かんだ。

 

「いい? 知らない女の人に近づいたり、話しかけたりしたらダメよ。この世には怖い人がいっぱいいるの」

 

 ……いやいや、自称母さん。それで泣いてる女の子をスルーできるほど、僕は落ちぶれてはいないぜ。

 

 それにこんな可愛い子が怖い人なわけがないでしょう。ということで約束はその辺に投げ捨てて、少女のもとへ駆け寄る。


「どうしたのキミ、何かあった?」


 安心させるために、あえて軽い口調で話しかける。

 ただでさえ、珍しい男……ましては深夜に1人で出歩いているとなると警戒されそうだしね。


「……ほっといてください」


 帰ってきたのは冷たい返事。膝に顔をうずめて俯く姿は、酷く落ち込んでいるように見える。

 

 無視じゃないだけマシか。

 少女の隣に座って、もう一度声をかける。


「んー、さすがにほっとけないかな」

 

「ま、こんな夜中に外に出てる時点で訳アリなんだろうけどさ。きっと親御さんも心配……いや、僕が言えることじゃないか」


 そこまでおかしなことを言ったつもりはない……が、

「親御さん」という言葉を言ったとき、彼女の身体がビクッと動いた。

 

「……そんなわけ、ないです」


 顔を上げた彼女は、絞り出すような細い声を出す。その声は少し震えていて、何か嫌なものに触るような、そんな声だった。

 

「心配なんかしてないですよ、あんな人」

「……それはどうして?」

「貴方には、関係ないです」


 突き放すようなそんな口調。理由を話す気はないらしい。

 ただ、彼女の事情はなんとなく理解できた。おそらく親と喧嘩して家出したとかそういうのだろう。

 

 ……だったら、僕にできることは一つしかないな。


「確かにそうかもだけどさ。でも、相談には乗れると思うんだ」


 彼女の抱える問題を解決することはできないけど、その理解者にはなれるはずだ。

 なぜなら。


「僕も家族から逃げ出してここにいるから」


 そう言うと、彼女と初めて目が合った。月明かりに照らされた黒髪、少し赤く染まった目元に心臓が熱くなるのを感じる。

 

 しばらくの沈黙の後、少女の視線が落ちて、ぽつり、ぽつりとぐしゃぐしゃに絡まった感情を吐き出すように、声が聞こえ始める。


「私、弟がいるんです」


 彼女は震える声でそう話しだした。

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