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Episode.9 深夜の襲撃

 尿意を催して目を覚ますと、室内は真っ暗で夜明けにはまだ早かった。いつ寝込みを襲われるかわからないので、つい眠りが浅くなってしまうのが忌々しい。


 寝ている間に天気が急変したのか、暴風雨に殴られる窓ガラスがガタガタと音をたてて揺れている。こんなときこそ、部屋に便所があればいいのにとつくづく思う。


 ガウンを羽織って扉を開けると、明かりがすべて落とされた廊下が真っ暗な口を開けて伸びていた。屋敷の造りは何とも微妙で、なぜか便所は一階にしかない。二階に寝室があるワシはその都度階下に降りなければならず、不便を感じている。 


 火を灯した燭台を手に、闇に包まれた屋敷のなかを歩いていくと階段に差し掛かった。ここでワシは殺されかけた――灯りがあるといってもナイよりましな程度なので、足元に気を配らねば踏み外してしまう可能性がある。


 床を引きずるドレスの裾をたくし上げて、一段一段注意深く降りようとすると――何者かに背中を押された。


「は?」


 何が起きたのかわからず、間抜けな声を出してしまった。宙に浮いた身体は重力に従って落下していく。真っ暗な底が口を開けて待ち構えている。一瞬だった、瞬きもする間もなく落ちて誰に落とされたのかもわからぬまま、致命的な骨折の音を聴いて意識が途絶えた。


 ――なんて具合に、今までのワシの〝ロールプレイ〟なら間違いなくバッドエンドを迎えていたことだろう。だが、今は違う。背中を押される直前に気配を察したワシは、ガウンの下に隠し持っていた首切り丸を、腰の回転を利用して鞘から引き抜いた。


 居合斬りに近い速度は、常人であれば避けることなどまず不可能――なのだが、確実に斬ったと思いきや空を斬っただけで肉と骨を断つ感覚はなかった。


「なんとまあ、気配を完全に殺していたはずですが……気がつくだけならまだしも、反撃を繰り出してくるとは貴族の令嬢と思えない所業でございますね」


 人間離れした反射神経で避けた犯人は、バク宙で距離を取ると少し驚いたような声で話しかけてきた。稲光が雷鳴を轟かせて光る。窓際に立っていた犯人の顔が白く浮かび上がると、やはりというべきか侍女長であるイザベルだった。


 胸元が切り裂かれたメイド服を片手で引き千切ると、特殊部隊のような格好に早変わりしてみせた。太腿に装着していたホルダーから、アーミーナイフに似た形状の大型ナイフを取り出すと、逆手に構えて対峙する。その佇まいは熟練の()()()にしかみえない。


「隙をみせれば勝手に襲いかかってくると思ってはいたが、こうも簡単に引っかかるとは予想外だったな」

「小賢しい真似してくれますね。しかし、どうしてわたしが襲いかかってくると思ったのですか? 完全に侍女として溶け込んでいたはずですが」

「お前には何度も殺されてるからな。化けの皮ならとっくに剥がれてるよ。もう取り繕う意味もないだろうから聞くが、お前は何者だ?」

「なにを訳のわからないことをべちゃくちゃと……。まあ良いでしょう、わたしの気配に気がついたご褒美に教えて差し上げましょう。わたしは依頼があれば誰でも始末する殺し屋でございます。これまで任務が失敗したことは一度たりともございません」


 そう言って恭しく頭を下げた次の瞬間――挙動もなしに一足飛びでワシの懐に潜り込んでくると躊躇なく急所めがけてナイフを振るってきた。効率よく人命を奪う手段をよく知っている者の動きだった。


「あっぶねっ!」


 間一髪のところで、ギリギリ避けたかと思ったがナイフの鋒は顎をかすめていた。あと半歩遅れていたら顔が真っ二つに分かれていてもおかしくない。


 すかさず首切り丸の柄を両手で握りしめると、お返しとばかりに大上段から真っ二つにするつもりで振り下ろしたが、蝶のようにひらりと躱されて互いに有効打に欠ける戦いになる予感がした。


「おやおや、この技も初見で躱しますか。いよいよお嬢様本人なのか怪しいところですね」

「お前も随分と戦い慣れてるようだな。本気で殺すつもりだったんだが」


 次にどんな技を仕掛けてくるか、舌舐めずりしながら待ち構えていると、イザベルは何を考えてるのかナイフをホルダーにしまいいれると、両手を上げて降参のポーズをとった。


「こうなると時間が長引くだけで始末するのは難しいですね。残念ですが正体が割れてしまった以上は、いったん引かせていただきます」

「なんだと? そう簡単に屋敷から逃げられると思ってんのか」

「いくら戦闘力が高かろうとも、鬼ごっこで捕まるわたしではありませんよ」


 そういうと、窓を突き破って外に逃げ出した。急いで追いかけるも、粉々にガラスが砕けた窓から身を取り出すと既にイザベルの姿は闇に消えていた。


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