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四度目の夜明け前

 また、そして人生最後の卒業式の季節がやってくる。3度目までは、将来への期待とともに晴れやかしい気持ちで臨んでいたそれは、人生でおそらく最後の卒業式だろう今回ばかりは、自分の未来への卑屈な見方と過去への執着と後悔ばかりを伴って赴くことを余儀なくされるようだ。


 卒業式という単体のイベントとしてみれば、状況は以前のものと何ら変わりはない。


 ただ、お偉方のありがたいお話をうけ、卒業証書を渡され、他の生徒が高揚感とともに周囲と語らい合っている中で、誰にも見つからないようにひとりでにひっそりと会場を後にする。今回もまた、同じことを繰り返すだけだ。


 多くの人が、多かれ少なかれ私と似たような思いをもって、大学の卒業式に臨むのかもしれない。一体どれほどの人が、学生という身分を失って、社会人になることを本心から望んでいるのだろうか?社会人という不安定かつ、覆すことが極めて難しい社会的ヒエラルキー構造の中に身を置きたい人が本当にいるのだろうか?


 しかし、どうしたってしょうがない。時の流れは覆すことはできない。誰もが通る道だ。皆、そんなふうに自分を無理にでも納得させて、高校までの卒業式と同じように、高揚感と将来に胸を含まされているように見せかけて、自分の内なる声に蓋をして、大学の卒業式を受けるのだ。そうでないと・・・いやそうであってほしい。本当に。


 ついぞ、友達はできなかった。授業、あるいはゼミでの義務的な会話を除いて、私はいったいどれほどの時間、人と話しただろうか?体感としては、高校のときの10分の1くらいだろうか?高校生のときは、放課後に一緒に遊んだり、卒業式で一緒に写真を撮るような友人はいなかった。しかし、休み時間に駄弁ったり、軽いじゃれ合いをすような友人、あるいは知り合い以上友人未満の人はそれなりにいた。もちろん他の人に比べたら圧倒的に少なかったが。


 卒業旅行なんていう話は、夢のまた夢だった。旅行という言葉には負のイメージしか持っていないが、卒業旅行という人生で一度きりの儀式を体感してみたかったとは思う。内定先の人事部の担当者との面談で「卒業旅行はどこ行く予定ですか?」と卒業旅行に行く前提で会話を切り出され、返答に窮したのは記憶に新しい。

 

 思うように勉強に取り組めなかった。ぼっち人間としての最低限の矜持として、履修した授業は全て真面目に取り組み、GPAこそかなりの数値を誇った。しかしそれだけだった。時間だけは有り余っていたのにもかかわらず、在学中になんとしてもとりたいと考えていた、資格の取得には全く手が届かなかった。授業などの義務的なもの以外の事柄に真正面から向き合うだけの、精神力、忍耐力の欠如、理解力の乏しさには、我ながら本当に苛立たしく情けないばかりだ。

 

 もう少し、条件のいい内定先、そして自分の望む業務に取り組める会社に就職したかった。初任給でみたら、そこまで他社に劣後はしないが、平均年収でみると割と見劣りしてしまう。頼れる人間関係が皆無な分、そして孤独な人間としての矜持として、せめて経済的な余裕だけは確保しておきたかった。


 だが、どれも今さらどうにもならないことばかりだ。考えたところで、何かが変わるわけではない。それでも、吐き出さずにはいられない。


 これまでの人生で生じた、いくつものボタンの掛け違い。その積み重ねを思い返しながら、私は今年もまた、誰とも言葉を交わさず、視線を交わすこともなく、卒業式という場に立つことになる


 過去三度のその儀式では、少しの郷愁と将来の明るい展望を胸に臨んだ。しかし、それは翻って現状を変えるための強い意思と行動力をそいでしまった面があるかもしれない。


 四度目のおそらく人生最後の卒業式は、現状への悲観と過去への強い後悔を抱えて臨む。それは、現状に対する強い危機感と過去の反省を、変革への意思へと昇華するための儀式である。

 


 


 



 

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