SPI探求
私は、疑いようもなく無知だ。
もし今、私の隣に誰かいれば、「いやいや、世の中のすべての人は無知だろうよ」と慰めとも反論とも取れる言葉を返してくるかもしれない。確かに、絶対的な尺度で見れば、すべての人は無知である。人類が長い歴史の中で探求し、蓄積してきた知識の総量は計り知れないほど広く、深い。
しかし、私は相対的に見ても、つまり他の人間と比べても、相当に無知だ。私は何も知らない。料理の作り方も、SNSの使い方も、恋愛も、友情も。そして、自分が社会生活を送るうえで必要最低限の知識すら覚束ないと自覚しながら、それを知ろうとする努力もしない。私は無知を通り越して、愚か者の領域にある。
「SPI」という言葉の意味を知ったのも、大学3年の冬、遅まきながら就職活動を始めたときだった。本屋でSPIの参考書を何度も目にしていたし、周囲の学生がそれを読んでいる姿も見かけていた。それでも、私は関心を持たなかった。大学3年の就活生でSPIを知らずにいたのは、私くらいではないだろうか。今に至るまで、SPIの対策も情報収集も一切せず、求められるたびに無策のまま受験している。
無知な人間の素朴なものの見方は、知識のある人にはできないものであり、時に本質を突くこともある。SPIについての背景事情をまったく知らない状態で何度も受験するうちに、ある疑問が湧いてきた。
SPIには「テストセンター」と「WEBテスト」の2種類がある。テストセンター形式は基本的に会場で受験するものだが、自宅からオンラインで受けることもできる。オンラインでの受験でも、予約は必須であり、ウェブカメラを用いた監視が行われる。一方、WEBテスト形式は予約も監視もなく、自宅で自由に受験できる。
テストセンター形式のSPIは、その結果を使い回すことができるが、WEBテスト形式のものはそれができない。私の経験でいうと、テストセンターとWEBテストの比率は3:7ぐらいである。
私はこれまでにWEBテストを7〜8回受けた。その中で、まず気づいたことがある。問題が使い回されているのだ。
WEBテストでもテストセンター形式でも、問題は「言語」「計数」「性格テスト」の三つに分類される。性格テストは、毎回ほぼ同じ質問が並ぶ。20分ほどかけて回答するのだが、同じ問いに何度も答えさせられるのは、正直ばかばかしく感じる。
言語・計数の問題も、すべてが同じというわけではないが、6〜7回受験すると、6〜7問に1問ほどは見覚えがある。言語・計数の問題数はそれぞれ35問程度なので、毎回5問前後は既出の問題となる。しかも、企業によってWEBテストの難易度や形式が変わることもなく、同じような問題が繰り返される。
それならば、WEBテストもテストセンター形式のSPIと同様に、結果を使い回せるようにするか、あるいはすべての企業がテストセンター形式に統合すればいいのではないか。それなのに、なぜそうしないのだろうか?
仮説は一つある。企業側は、ESを提出して書類選考に応募する人間の数を抑制したいのではないか。
大企業には通常、採用人数の20〜30倍もの応募が集まる。これらの書類をすべてチェックするのは、相当な労力がかかるはずだ。もしWEBテストのスコアを使い回せるようにすれば、就活生は手間なく複数の企業に応募できる。すると応募者数が爆発的に増え、書類選考の負担がさらに増す。だからこそ、企業側は「毎回WEBテストを受験させる」という一手間を設け、安易な応募を抑制しているのではないか。
では、就活生がESを一社分作成するのにどれくらい時間がかかるのか。ネットで調べると、「1時間」「2時間」「4時間」とさまざまな意見がある。私の感覚では、正攻法で文章を作成・推敲するなら、おおよそ2時間といったところだ。ただし、これはその企業について一定の知識がある前提の話である。
しかし、今は就活を大きく変えつつある存在がある。生成AIだ。
生成AIは、文章の添削はもちろん、志望動機や自己PRの作成もわずか数秒でこなしてしまう。私も実際、ChatGPTに多大な助力を得ている。生成AIを活用すれば、その企業について何の知識もない状態でも、30分程度でESを仕上げることができる。
企業の視点で見れば、こうした技術の進化は脅威でもあるだろう。ES作成の手間が激減したことで、就活生はより多くの企業に応募できるようになった。だからこそ、企業側はWEBテストを「応募のハードル」として維持し、安易なエントリーを抑えようとしているのかもしれない。
合理的な選択なのかもしれないが、就活生からすれば、ES提出のたびに求められるWEBテストは、面倒で仕方がない。これほど「うざい」ものはない。