12、神殿と加護と神様の事情
「なぁ、ハザンがやった『挑発』って、どうやんの?」
魔王を倒す。
そんな突拍子もない事をやれと突然言われた。いや、正確には倒すんじゃなくて、魔王の復活の影響で魔物の活性化が起こっているからそれを止めて欲しいという事なのだが。
何だかなぁ、と思いながらも、流されるように1日過ごし、そして魔物と活性化についてそこそこ知った今、俺は何とかしたいと思い始めていた。
魔物なんて呼ばれてるから、もっと人間に害のある存在なのかと思ってた。けれどもそれは違った。何が悪いかっていったら、活性化をさせる原因だろ。その原因が『悪意』で、その『悪意』がマシマシになる大きな原因が魔王だと。
倒すとかじゃなくて、説得するとか、話し合って何とかなるかも知れない。けれども最悪、戦わざるを得ない事になったらば、色々と出来た方が良いに決まってる。だから聞いてみた。
「・・・」
チラッと俺を見るだけで無言。教えてくれない。
「やっぱり、キツイ修行とか鍛錬とか、そういうのしないとなのか?ハザン鍛えてるもんな」
まぁ、いきなり出来るようになるとは思わないが。知っておきたかったけど、無理か。
そう思ったが、ハザンが口を開いた。
「神殿で神から授かる」
・・・やべぇ、ファンタジーだ・・・。
思わず固まってしまった。固まった俺に向かいハザンは不機嫌そうに続けた。
「誰でも授けられる訳ではない。『挑発』は、自らが壁となり立ち塞がり、同朋が倒し終えるまでの間耐えられなければならない。それだけの器がどうか、神が判断する。耐えうる器であると判断された時のみ授けられる。他の技も同じだ。お前も何度か見たであろう『金糸』もそうだ。怪我や病を治す『金糸』は、人や動物、魔物の体の仕組みを学び、治す行為に向き合える者のみに授けられると聞いた」
「へぇー。勉強しないとダメなんだ」
『金糸』って言うのは手から糸が出て来るアレだろう。ゲームやアニメの治癒魔法みたいに魔力が高いと出来る云々では無さそうだ。勉強して、やらせても大丈夫かどうかを神様に判断されるって、普通に医大に入学卒業して医者免許取るのと変わらない気がしなくも無い。そこまで難しくは無いのかな・・・。
「『加護』が欲しいのか?」
考えてたらハザンにそう聞かれた。
「『加護』って、何だ?」
「『挑発』や『金糸』等の事だ」
「ああ、うん。使えた方がこの先良いのかなと思ったから」
「・・・」
急に無言になったハザンは、そのまま神殿から出て行った。何だか分からないながらについて行くと、中央広場を突っ切り、そして別の神殿へと入って行く。
「え?何?何で別の?」
聞いても何も答えてくれないし、振り返ってもくれない。
「・・・シカトかよ」
仕方がないので俺も続く。
さっきのレニア神殿は、石造のゴツゴツとした飾り気の無い建物だった。それに比べてこっちの神殿は白木を使った木造の建物で、広々として、何か飾ってあるという訳ではないが、どこかしら温かみを感じる。
入ってすぐ、ハザンは通り掛かった神官に声を掛けた。少し話すと神官は軽く頭を下げて奥へと行ってしまう。ここでようやくハザンが俺を振り返った。
「ここで『加護』を受けてみろ」
ぶっきらぼうにそう言う。
「え?出来んの?」
「神殿は無数にある。この村には3つあるが、隣の村には5つ、ここに来る前立ち寄った街には16。その他の街や村にも多くの神殿があり、それぞれの神殿にはそれぞれの神が祀られている」
「沢山あるんだな」
「神殿は大きく分けて3タイプある。1つは神が住んでいる神殿」
「え?神様住んでるの?」
俺は辺りを見回した。広い空間の奥には祭壇があり、その脇には別室へ続いているであろう扉が幾つかある。その先に居住スペースもあるだろうが、そこに神様が住んでいるのだろうか。
「人贔屓な神は、自ら進んで人の側に在り力を貸してくれる。そういう神殿は常に神が居るので行けばすぐに加護が得られる。あくまでも神が授けるべきと考えれば、だが。おい、ここは神が住んでいない神殿だ。探しても無駄だ」
キョロキョロしている俺にハザンは冷めた視線を送った。そうかよ・・・。
「2つ目は、定期的に神が訪れる神殿だ。この村の神殿は全てこれに当てはまる。どれくらいの期間で訪れるかは、その神次第。神がいる時のみにしか加護を得られない神殿もあれば、今いるここのように、神が選んだ代理の神官によって加護を授けられる神殿もある」
「へー・・・」
「ここは『北の聖母』の神殿だ。知らないだろうから説明するが、この世界は『北の聖母』の物であると言われている。『北の聖母』の夫『光の尊』が妻の聖母の為に創り捧げた物で、聖母は常に世界の最北の門を護っている。気紛れに世界を見て周り、立ち寄った先で神殿を創る事を許す。よって聖母神殿は各地に無数ある」
何だかスケールのデカい話だ。
そこまで聞いたところで、奥の祭壇の横の扉が開き、さっきの神官ともう1人別の神官がやって来た。それを見てハザンは、顎で行くぞと指して向かう。俺も続いた。
「無数の神々にも相性がある。嫌いな神の加護を持った人間に加護を授ける神はいない。が、この世界の主である聖母の加護であれば、それを理由に今後授けられないと言う事はない。異世界人に加護が授かるかどうか、試してみるには丁度良い」
「神様にも色々あるんだな」
言いながら俺は、複数の神様から色々な加護をもらう事も可能なんだな、と思った。
祭壇の前、小さな机を挟んで神官と俺とで向かい合って立っていた。
『北の聖母』の加護のうち、寒さを凌ぐ『温暖』というものを授かる儀式をした。大抵誰でも授かってる加護で、冬の夜とか寒くて寝れない時とかに使うと寝付きやすくなるらしい。便利だな。
分厚い本の最初の方を開いて、コインみたいなのがついたネックレスを俺の首に掛ける神官。常に何かをブツブツと喋り続けて、俺のデコの真ん中に人差し指を付けた。そして黙る。
なんだ?と思って神官の顔を見ると、デコに付けた指で俺のデコを下向きに擦る。何度か繰り返されて痛ぇなと思った時、ああこれ下向けって事かと気付く。下を向くと頭を上から押される。屈めって事かな?と思い少し屈むと、神官は頷いた。ハザンが横でクスッと笑う気配がした。
分かってんなら説明しろよ。性格悪いな。
その後神官は小瓶を取り出して蓋を開けて、中の水みたいなのを俺に振り掛けた。そして俺の頭を両手で抱えて、自分の顔を近付ける。神官のデコが俺の頭に触れそうになったその時、パチっと静電気が走った。
「ッテ!」
デコを抑えて顔を上げると、神官は困った顔でハザンを見、そして首を左右に振りながら何かを言った。ハザンが訳す。
「無理だそうだ」
何だと。
異世界人には無理な話だったのか。そう思い掛けた俺だったが、神官がハザンに向けて何事かを捲し立てるように喋り続けているのを見て、そうじゃないのかな?と思い直す。
「お前には既に、大きな加護が付いているらしいぞ。それがあるから他の加護は受け付けないと。そう言ってる」
・・・思い当たる節が、全く無いんだが・・・。
「そもそも異世界人だから、普通の人間とは違うんだろう。残念だったな。『挑発』は諦めろ」
ハザンはそう言って、神官に礼を言い神殿を後にした。ネックレスを神官に返してから俺も後に続く。
「『挑発』は何の神様の加護なんだ?」
後ろから俺は聞いた。
「『光の尊』だ。俺の家は光信仰なんだ。『光の尊』以外の加護を授かる事は家から禁止されている」
「へぇー」
「家による縛りのある者、職業により縛りのある者、色々いる。もっともこんなに神殿がある国はこの『真ん中』くらいだ。他国の人間は加護なんぞ持ってないやつの方が多い」
中央広場に出た所で、空から鳥が降りて来てハザンの肩に止まった。また手紙だった。それを見たハザンは、トールの所に戻ると言い宿へと向かい出す。
そのハザンの背中に向かって俺は聞いた。
「なぁ、神殿のタイプの3つ目って何だ?さっき説明が途中だったから」
「ああ、そうだったな。3つ目は神を捕らえて閉じ込め力を引き出す神殿だ」




