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どうせ異世界に来るのなら転生の方が良かったよ  作者: まゐ


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10、芋の味と田舎の宿

「お父さんは、ジゼおじさんの農園で拳芋を作っているの。え?拳芋が何かって?グーの手みたいな形のお芋よ。そのお芋が去年は沢山出来たの。拳芋は保存が効くから、倉庫には去年の分が沢山。なのに、今年もまた沢山出来そうなんだって。良いことでしょ?なのに、お父さん困ってるみたいだったから聞いてみたの。何で?って」


「お父さんは、なんて言った?」


「沢山出来すぎると安くなっちゃうって。収穫する量が多いから大変なのに、売れる金額は少ない時と変わらないから大変だって。そう言ってたのが先月よ。でも、拳芋は保存が効くし、安くなったらみんなが沢山買ってお家に置いておけるでしょ?お父さん達農夫は確かに大変だけど、みんな喜ぶから良いことよね?そう言ったら、お父さんもそうだねって言ってたの」


「そうなんだ。で、今月になってからお父さんは何か言ってた?」


「ジゼおじさんが、拳芋を高く売る方法を見つけたって言ってたわ。でも、それは良くない方法だからって言って、お父さん前より困った顔をしていたの。ジゼおじさんや、他の農夫のお父さん達と毎日喧嘩して帰って来て、毎日沢山お酒を飲んで、そのうち仕事に行かなくなってしまったの。拳芋が沢山取れたりしなければ良いのにって、毎日言っていたわ。そうしたら、ある日綺麗な女の人が来て、私に良い方法があるよって教えてくれたの。え?知らない人よ。見たことない人」


「それで、その方法って?」


「畑の拳芋を山の中に捨ててしまえば良いって。モグラの魔物と蝶々の魔物をね、子分にする方法があるから、モグラに穴を掘って山に捨ててもらって、止めに来た人を蝶々に脅かして貰えば良いって言われたの。魔法の鈴を持っている人の言う事は聞くから大丈夫って。やってみたら簡単だったわ。でも・・・」


「でも?」


「蝶々は大丈夫だったんだけど、モグラはすぐお腹が空くの。体が大きくなったらその分食べる量も増えて。最初は拳芋を食べていたんだけど、それじゃ足りなくなって、仕方がないから牛さんや豚さんも食べる様になって。困ったなって思ってたの・・・」




 広い中央広場のど真ん中に、乾いた丸太を大量に組み上げて、そこに火を焚べ、離れた位置から棒に突き刺した芋を、腕を伸ばしてみんなで焼いて食べている。


 畑から『モグラ』が掘った空間に落っこちて、俺とトールとハザンと『モグラ』が踏み付けて、傷物になってしまった大量の芋。


 老人、子供、神官、職人、狩人、農夫・・・。みんなの表情は明るい。心配事が片付いて各々安心している。


「農園の主人は今取り調べ中です。ジュリの父親他農夫達の話からして、あの主人が拳芋を国外へ違法に販売しようとしていたのは間違い無さそうです」


「・・・」


「ジュリに『魔法の鈴』なる魔道具を渡した女については、聞き込み調査をしています。が、村人達の反応からして、何かわかる可能性は低いかと」


「・・・」


 ボンヤリと座って炎を眺めていた。トールがじっくりと焼いてくれた芋を棒に刺したまま受け取り、一口食べた。


 芋は熱く、ホクホクとしていた。火傷しない様に何度も息を吹き掛けて舌の上に乗せる。


「・・・」


 やっぱり、味がしなかった。


 いや、しないんじゃない。薄いんだ。


 そう思って、そして自分が日々食べていた食事を思い出してみた。寿司、焼き肉、ラーメン、カレー、牛丼、ハンバーガー。人気チェーン店のメニューはどれも味が濃くて美味かった。それは、沢山の化学調味料や希少な香辛料香料、旨味の強い食材を組み合わせて、研究に研究を重ねた企業努力の結晶だから。そもそも芋自体も、人間の舌に合わせて美味しく感じる様に品種改良を繰り返して来た物だ。多くの年月を重ねて生み出されたその味に慣れてしまった俺の舌では、この素朴な芋の味を楽しめなくなってしまっているのかも知れない。


 牛がいて、山羊もいた。それらの乳に遠心力を加えて乳脂肪を分離させて、少し塩を加えればバターが出来る。バターを乗せればこの芋も少しは食べやすくなる。バターと言わずとも塩があれば・・・海が無いのか。ならば塩湖は・・・。


 いやいや、これがいけないのか。現代日本の文化を、文化レベルの低いこの地域に普及させてしまう事が。急速な発展によって競争意識が芽生えて犯罪が増える。治安の悪化、古典文化の衰退・・・。


「アキラ?聞いていますか?」


 横からトールが肩を叩く。


「あ、うん」


 答えてもう一口芋を口に入れた。


「アチッ!」


 冷ますのを忘れて口の中を火傷してしまう。


「大丈夫ですか?」


 慌てたトールが水を渡してくれる。それを口に入れて口内を冷やす。熱さが引いて、ヒリヒリとした痛みだけが残った。


「痛ヒ・・・」


「気を付けてください・・・」


 トールに苦笑いをされてしまった。


 その時、後ろから声を掛けられた。振り返ると同い年くらいだろうか、女の子が2人。こちらの言葉で話してくる。それをトールが通訳してくれる。


「火傷を治してくれるそうです。お願いしますか?」


「ヘッ?」


 ビックリして2人の顔を見る。2人共何だか期待を込めた目で俺を見ている。


「アキラは、活性化した魔物を退治したヒーローという事になっていますから、お礼をしたいのですよ」


「・・・ハニホレ、聞ヒヘハイヘホ」


 だって俺、大した事してないのに。


「村の人々には、アキラのお陰で解決したと伝えてあります。アキラの発想が無ければ、解決にはもっと時間が掛かっていたのは事実です。そうなれば、被害が拡大していたでしょうし、家畜だけでなく人も襲われていたかも知れません」


 トールがそう喋っているのを聞きながら、女の子達のうちの1人は俺の顔を手で包み込んで自分の方へ向けた。何かを言って俺の口を指で突く。


 花みたいな甘い匂いがした。


 まだ治療してもらうって言ってないけどな。


 そう思いながらも、俺は口をあけた。その子の顔が近付く。


 待て待て、キスしちゃいそうじやないか?これ。


 唇が迫り、まさに!という瞬間、トールの手が肩に乗った。トールの反対側の手は女の子の肩に乗っており、そのまま俺と女の子の距離をグッと広げる。女の子の手が俺の顔から離れた。と、トールが俺を庇う様に間に入り込み、女の子達に向かって叱りつける様に早口で喋る。


 女の子達は、悪戯がバレたみたいに舌を出し、お互いに顔を見合わせてクスクスと笑った。そして、もう1人の方の女の子がスッと息を吸い込む。と、手からあの金の糸みたいなのが出て来て、その糸が俺の顔を撫でた。口の中が暖かくなる。宙に浮いた様な心地が少し続くとスーッと暖かさが引き、もう口の中のヒリヒリとした痛みは無くなっていた。


「・・・ありがとう・・・」


 俺はお礼を言った。それをトールが訳し、聞き届けた2人は笑って俺に抱き付いた。


「へっ、うわ!」


 驚いて声を上げる俺。焦ったトールが2人を止めようとするが、何故か周囲の他の女の子達も俺の周りに集まって来て、腕やら髪やらを引っ張った。もみくちゃにされながら、顔や手の甲や、体中の色々な所にキスの雨を受ける。


「待って、何だこれ!」


 立ち上がって逃げようとするが、足元に誰かの足があって躓いてしまう。


「うわー!」


 そのまま押し倒されて、俺は蟻に集られた砂糖にでもなった気分だった。


 この世界の女の子は、元気だ。




 その後様子を見に来たハザンの姿に、女の子達が恐れをなして居なくなると、夜も更けた事もあり、俺達は部屋へと退散した。


 元々、ハザンが畑に魔物を見に行っている間に俺とトールが部屋で休み、ハザンが帰って来たら交代でハザンが休むつもりで一部屋しか取っていなかった。


 けれども、俺が予定を覆す形になってしまった為、3人同時に休まなくてはならなくなってしまい、結果俺とトールが部屋に泊まり、溢れたハザンが1階の雑魚寝部屋へと移ってくれる事になった。何だか申し訳ない。


 俺を警護するという名目上、俺を1人にするわけには行かず、且つハザンが俺と2人になりたがらないのは火を見るよりも明らかな事だったので、こうなるのはもう、どうしようも無かった。


 部屋と言ってもベッドが2個置いてあるだけの質素な物で、風呂もトイレも無い。トイレは昔の日本家屋の様に離れた所に厠状態の場所があって、まぁ穴掘った所を囲っただけのスペース。風呂は外に井戸があるから勝手に水を汲んで被るだけという実にセルフサービス満載?勝手に使ってね、という他力本願感が強いものだった。


 もう夜も明けるか?という早朝間際の寒い中、真っ裸になって冷たい井戸水を被り、部屋に駆け戻ってベッドの中に入った。トールも一緒に水を浴びたが、まだやる事があると言って部屋から出て行ってしまった。俺は疲れていたのか、トールが戻ってくる前に、というか出て行ってすぐに落ちる様に寝た。




「起きろ」


 ハザンの低い声で目が覚めた。最悪な気分の目覚めだ。けれどもそれは日本語で、寝起きのボケた頭の中で『何で日本語喋ってんだ?』という言葉がエンドレスにぐるぐる回る。


 ベッドの上に胡座をかく。ドアが開いてトールが入って来た。見ると隣のベッドは空で、オマケに綺麗に整ったまま使った形跡が無かった。


「あれ?トール寝なかったの?」


 目を擦りながらそう聞く。欠伸を噛み殺して顔を上げるとハザンの首筋に痣みたいなのが沢山出来てるのが見えた。一回寝たから鎧を付けてない。だから首元が見えるから気付いたのだが・・・。


 何だ?と目を凝らすとそれはアレだった。いわゆるキスマークというやつだ。


「・・・」


 思わずガン見してしまった。その視線に気付いたハザンは、首筋を触って俺を見てフッと笑った。


 なんかムカつく。雑魚寝部屋に追いやって悪かったなと思っていたのに。女の部屋に行ってたのか。罪悪感を返せ。


「トールは徹夜で今から寝る。お前は今から俺と神殿に行くぞ。昨日の魔物についての調査結果を聞く。来い」


 そう言ってハザンは部屋から出て行った。


「え、ちょっと待って」


 パンイチだった俺は、慌てて制服を着た。


 着替えてる横でトールがそのままベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。


 ハザンが部屋の外から何かを言う。それをうつ伏せのまま律儀に訳してくれた。


「鎧脱げって。ベッドが傷むからって。分かったって伝えて・・・Zzzz・・・」


 トールはそう言うと、鎧を脱がずにそのまま寝た。


 掛け布団の上に鎧を着たまま乗っかった状態のトールのその上に、俺は自分のベッドの方の掛け布団を掛けてから部屋を出た。

 

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