序章
イルミネーションが寒い夜空に光る。何処からかシャンシャンした音楽が流れてくる季節。
1つのカップルがイルミネーションの下で、別れようとしている。こんなにキラキラと輝きを放っている光に反して恋人に失望している。1つの希望が消えようとしている。
「もう、これ以上は無理だよ…」
彼女の声は冷たく、決然としていた。
彼は何かを言い返そうとしたが、言葉が喉の奥でつかえて出てこなかった。彼女の目にはもう、彼への愛情の光は残っていなかった。
「さようなら」彼女はそう言うと、背を向けて去っていった。彼の心に残ったのは、冷たい風と、キラキラと輝くイルミネーションだけだった。
一人になった彼は、ふと街の外れにある中古車販売店のショーウィンドウに目を留めた。そこに展示されていたのは、一台の古いジムニーだった。SJ30、通称「サンマル」。彼はその車に惹かれるように足を向けた。まるで、新しい恋人ができたかのように……。
「よう、古いけど、まだまだ走るぜ?」店員の声に振り向くと、中年の男性が微笑んでいた。
「これ、いくらですか?」彼は無意識に尋ねた。
「お手頃価格だよ。ちょっとした修理は必要だけど、手入れすればまた元気に走るさ。」
彼はその言葉に、何か運命的なものを感じた。新しいスタートを切るために、彼はこの車に賭けてみようと思ったのだ。