出会いは一期一会、しかし油断は禁物だ。
映画を見た帰り、子供の落としたボールを拾いに行ったら車に轢かれた俺は、気がついたら見知らぬ森の中にいた。そこには俺の知らない種族の人たちが暮らしていた。そこで10年暮らし、そして……。
「お、森の出口が見えて来たな。それじゃあ、出口あたりで一度休憩しようか。」
「うん。そうたね。」
村の大樹にある図書室で司書をしていたマナという女性と共に、旅に出ていた。
「おお、あれが冒険都市か……。」
「…大きい。」
森を出た先は広い平原が広がある。そこに一つ大きな丸い何かが見える。あの丸いのこそ、冒険者が作り、冒険者が集う、冒険者の街…。
「冒険都市ユーマ、かぁ。」
この世界の冒険者は昔こそ世界を股にかけ、未到の地へと踏み込む、名の通りの職業だったが……、
「ん?何か気になる事でも?」
「いや、冒険者も今じゃただの万屋とはな〜って。」
「あっそう。」
未知なる大地が無くなれば、冒険者の役割を無くなる。そうして行き着いた先が万屋、つまり何でも屋だ。夢のある仕事の末路がこれとは、なんとも言えない気持ちになるな。
「ところで、さっきから対応がなんか冷たくない?」
「…気のせい、だよ。」
…ま、いいけどね別に。
「さて、休憩も程々にして先に進もうか。」
「…ねぇ、今日中に着く?」
「…う〜ん。まぁ、無理かな。一度、何処かで一夜過ごさないとね。」
「…分かった。」
そうして夜、平原にて野宿をすることになった。
今、俺は見張りをし、マナさんは寝ている。よくある交代しながら見張りをするやり方だ。何故こんなことをするのかといえば、もちろん動物を警戒する意味もあるが…。
ぴちゃぴちゃ。
ぴちゃ。
目の前にいる、ちょうど両手で抱えられるくらいのサイズの丸い半透明な物体…いや、生物?(まぁ、分かりやすくいうならばスライムだ。)とにかく、この世界にいる魔物…これらにも気をつけなければいけないのだ。
「…。」
つついてみる。
ぷるんと揺れる。
「…。」
餌をあげてみる。
……跳ねた。…どうやら喜んでいるようだ。
俺の手に近づき、体を擦ってくる。…どうやら懐かれたようだ。
(かわいい。)
「まぁ、でも流石に街に持っていけないなぁ…。」
可哀想だが、ここに置いていくしかない。
…まぁ、今夜くらいはいいだろう。
日が昇り、朝になった。
「さて、出発だ。」
「…うん。」
スライムと別れ、あと少しの旅路を続ける。
目的の都市は、すぐそこにある。
「…ねぇ、本当にその子置いてくの?」
…スライムが俺の足に引っ付いてくる。
「…仕方ないだろ、街に持って行くわけにはいかない。」
「…別に、大丈夫だと思うけど。…魔物をペットにすることもあるし。」
「え?」
まじ?
「…いけちゃったよ。」
検問所にスライムを持って来ても全然注意されなかった。兵士さん曰く。
『確かにスライムは油断できない魔物だ。でもそれは大型の個体だけの話だ。小さい個体は大した事は出来ないし、そもそもスライムは人に懐きやすいからな。…それに何かあっても俺たちやうちの冒険者がなんとかするし。』
とのことだった。
「…スライムはペットの中だとかなりメジャー、だからどこの街でも大丈夫。」
そう言いながら俺が抱えているスライムを優しく撫でる。どうやら彼女も気に入ったようだ。
「さて、気を取り直して冒険者の集まる場所…ギルドに行こう。」
「…うん。」
「…何か言いたそうだね。」
「…ううん。そんなことない。」
冒険者になるのも、依頼を受けるのもギルドでしか出来ない。まずは登録をし、冒険者になった後、次の日から冒険者として活動をしていくつもりだ。
もう午後だし、お金は結構(師匠から貰った。)あるしあまり無茶をしたくないからね。
ギィィ…。
ドアを開け、ギルドの中へ入る。冒険者らしき人がたくさんだ。どうやら定番通り酒場(確か宿屋もやっているはずだ。)も経営しているようで、酒らしき液体を飲むものや食事をする者、談笑する者など様々だ。
「…カウンターは…あそこか。」
早速冒険者登録をして、宿をとってしまおう。
「おい。そこの坊主待ちな。」
おや?おやおやおやおや?これはもしかして…。
「こんなところに何しに来たんだ?」
振り返るとそこには1人の男がいた。こう言うのは失礼かもしれないが、いかにも悪人って感じだ。
「冒険者になりに…それが何か?」
取り敢えず、舐められたら終わりだと思ったので少し生意気に答える。ついでにマナさんを自分の後ろに移動させる。
「…ふん。」
そう言いながら、その男は行ってしまった。
「…なんなの、あの人。」
全く同感だが、う〜ん…何か引っ掛かる。
「ま、とにかくさっさと登録するかぁ。」
あの男のことは置いておき、冒険者登録や宿泊などを済ませる。これで、冒険者としての一歩が踏み出せた。ちなみに、スライム君は使い魔として登録できたのでしておいた。こうしないと一緒にクエストが受けられないそうだ。
(よく分からないけど、まぁ置いていくよりかは一緒の方が安心だからね。)
「さて、後は自由時間としよう。部屋で休むのも良し、どこか出かけるのも良し、本格的な活動は明日から行おう。」
「…分かった。じゃあ私はこの子と部屋にいるね。」
「…随分と気に入ったんだな。」
「……うん。」
自由時間に俺は街を探索することにした。拠点の地理が分からないでは今後が大変だろうし、
(色々見て回りたいしね。)
そうして色々な店を回りながら街を探索した。
武器屋、道具屋、防具屋等…お決まりなお店がいっぱいだ。
(色々買えたし、そろそろ帰ろうかな。)
そんなことを思った矢先、とある建物が目を引いた。
(ん?あれは…。)
何処にでもあるような、それでいて何処か異質に感じる。不思議な家のような建物だ。よく見ると建物の前に看板がある。
「…書店マジマール?」
どうやら本屋らしい。
(まあ、街の本屋にはこういう普通の家っぽい所にあったりするから…普通かぁ。)
しかし、どうにも気になるので、入ってみることにした。
店内は特に何かあるわけではない、普通の木製だ。
ただ…。
「…なんて書いてあるか分からない。」
修行中に文一通り字は教わったが、こんな文字は見たことがなかった。なんじゃこりゃ?
「何、あんたこれが読めないの?」
と、誰かに声をかけられた。声のする方え顔を向けると…。
(わお。)
金色の髪、白い肌、そして何より長く尖った耳。
俺のよくイメージするエルフそのものな女性がいた。
「…なに?さっきからこっちのことじっと見て。」
気味が悪いとでも言いたげに彼女はこちらを睨んでいる。
「…いや、綺麗だったからつい…。」
ここは適当なことを言って切り抜けよう。
「…っ!ふ、ふ〜ん?なら仕方ない?わね。」
チョロ。
(チョロ。)
「…チョロ。」
「ん?…まぁ、いいわ。それで?魔法文字も読めないあなたは何でこんな所に。」
「まじーわ?」
「ええ、この本の文字のこと。…本当に何も知らないの?」
なるほど。どうやら魔法使いの人には当然の知識らしく、とても怪しまれている。こりゃまじーわ。
「…ええ、まぁ。なにも知らないどころか、魔法すらまともに使えないです。なんならここが何のお店かも知らないです。」
「本当に何でこんなとこ来たのよ…。まぁ、いいわ。ここは魔法使い向けのお店で魔法書…つまり魔法について書かれた本を販売しているわ。ついでに言うとその本は煙魔法について書かれている本よ。」
「へえ…。」
そんな店があったとは…。この本も中を開いてもなに書いてあるか分からないし、本当に魔法使い向けのお店のようだ。
「ま、そう言うお店は基本的に夜にやっていることがあるし、ただの一般人が迷い込むことも…あるのかしら?まぁ、たとえあなたが魔法使いでもその本を選んでいるんじゃ、まともに才能は有りそうに無いだろうけど。」
「えぇ、そうですか?煙だって色々使い道はあると思いますけど…。」
「…じゃあ、何か思いつくこと言ってみなさいよ。」
「例えば、煙を周囲に発生させて、目隠しや逃走に使ったり…。」
「後は、煙を相手に吸い込ませて窒息させたり。」
「…え?」
「後は…う〜ん、ガスとかに変化できれば炎を付けて焼き尽くすこともできるけど…いやそもそもガスは煙なのか?」
「ちょっ、何!?さっきから…何!?」
何でそんな慌ててるんだろうか?
「…ああ、ガスが分からないのか。」
「そうじゃないわよ!?」
「え〜?…なんか変な事言ったかな?」
「はぁ〜。…あんたが何で魔法が使えないのか分かった気がするわ…ほんと使えなくて良かったわ。」
えぇ〜?…まぁ、いいけど。
「…まぁ、あんたの発想自体は良かったと…思う、わ。」
「別に悩むくらいなら下手なフォローなんか要らないよ。」
「…フ、フォ?…何言ってるか分からないけど、すごく馬鹿にされた気分だわ。」
彼女はそう言ってうんざりとした表情で俺を見た。…まったくひどいなぁ。
「…ふぅ、何だかとても疲れたわ。」
そう言いながら彼女はカウンターへ煙の本を持っていく。
「あれ、その本買うの?要らないみたいなこと言ってなのに?」
「…まぁ、一見使えなさそうでも何か役に立たこともある、…何となくそう思ったのよ。」
…ふ〜ん。
「それじゃ、…またね。」
「あぁ、うん。」
そうして彼女は店を出た。俺も何が書いてあるか分からないので、(後、めちゃくちゃ高かった。)このまま店を出ることにした。
「…。」
店の店員のおばあちゃんが、微笑ましそうにこちらを眺めていた。
一通り付近を見て回り、(夜も近づいて来たので)宿へ帰ることにした。ちなみに宿は冒険者ギルドの2階以降である。冒険者ギルドに近づくと、なにやらおとがきこえてくる。
「……!……、……!」
「……?……。………!」
「…何やら争いの予感。」
まぁ、冒険者は色んな人がいるから争いも多いのだろう。関わらないようそっと上に上がるとしよう。
扉を開けて、慎重に…。
「あれ?」
思わず声を上げたせいで、渦中の人物2人に気がつかれた。…最悪なのは。
「じゃあ、私この人と行くから!」
「ハァッ!?」
その2人の内、片方が先ほど店であったエルフっぽい人だったからだ。
(なぜ、こうなったのだろう…。)
そうして俺は今…、
「すいません、うちの者が本当に…。」
「いえ、これも何かの縁というやつですし…。」
渦中の人物、そのもう1人の兄弟に謝られながら、ダンジョン攻略へ赴くことになった。