修行という名の無理難題は、やめて欲しいと思った。
「…ここは。」
謎の女性に連れられやってきたのは、森の中にある村だった。
木製の家が並び、俺を連れてきた女性と同じ肌と髪をした人々が作業やら雑談やらをしている。
「こっちへ来い。」
そう言う彼女へ着いて行き、村へ入る。
すると、こちらに気づいた村の人々がコソコソと話し始める。
やはり、俺のような人間は、珍しいのだろうか。
「……む。」
一人の男?がこちらへ手を振りながら来る。
途端に僕を連れてきた女性が険しい表情をする。
「よう、メリア。お前が人間を連れてくるとはなかなか珍しいじゃないか。」
「……ふん。本当ならば無視する所だったが……。さすがに私も無視できる状況じゃないからな。」
はぁ、とやれやれとでも言いたげに彼女、メリアさんは言う。
どうやら、本来なら無視していた俺を、ある事情があって、ここに連れてきたようだ。
これは偶然では無い……のだろう。
「おっと、この後も仕事があるんだった。それじゃあな、お二人さん。」
と、男はゆったりとした動きで、仕事へ向かってっ行った。
「…ふん。どうせサボる癖に。」
おっと、違ったようだ。
そんなことがありながら、村の奥へと進む。
そして見えてくる(最初から見えてはいたが)のは、大きい、で表せないほどの大きさの木であった。
人一人分、どころか100人は余裕で入りそうな程の大きさ、きっと世界のどこから見ても見えるのだろう、と錯覚する程だ。
(RPGなんかで出てきそうだ。)
どんどん強くなっていくファンタジー感、そして結局、なんの説明もなしにこの木へ辿り着いてしまった。
近くに来るとより大きく見えるが、気になるものがひとつ。
「扉?」
そう、この木、扉がある。
どうやらほんとに人が入れるようだ。
「……。」
メリアさんは何も言わずに入っていく。
それに続いて俺も入ることにした。
…今更だが、もっと説明とかないのだろうか。
中は、結構広かった。
開けたらすぐに丸い大広間、その先には両扉がある。
また、ちょうど真ん中ぐらいか、その右端と左端に廊下があり、何個か部屋がある(こちらは片扉だ)。
メリアさんは、真っ直ぐに両扉へ向かい、
トントン。
「入るぞ。」
声をかけて部屋に入った。
今までと違う行動に、少し緊張を覚えながら、俺も続いて入る。
中は丸く、1人用の部屋、という感じ。
しかし、物らしきものは、端っこにある机と椅子だけで、何も無い。
ただ中央に1人の老人が目を閉じ、坐禅を組んでいる。
(椅子に座らないんだ。)
「長老、こちらの人間を連れてまいりました。」
…長老、よく見るとこの人はどうやら俺と同じ人間の様だ。
何があったかは気になるが、先程の会話から察するに、メリアさんの人間の好感度は、低い。
しかし、この老人への態度は柔らかいように感じる。
長老らしいし、やはり、長年の付き合い故だろうか。
「………。」
老人が目を開いた。
こちらを見ている。
「……メリアよ、下がって良いぞ。」
「……分かりました。」
何やら言いたげな目をこちらに向けながら、メリアさんが扉を開け、でていく。
老人と二人きり。
さて、この老人は何者なのだろう。
「さて、少年。どうせ何も説明されず、ここに連れてこられたのだろう?……すまんな。アイツはそういう奴なのだ、許してやってくれ。」
「い、いえ、気にしてません」
よ。
あ、最後声出なかった。
「そうか、ならば早速本題へ入ろう。」
「おぬしは突然ここにやってきた。そうじゃな?」
「はい。」
「そうか、ならば良かった。この話はそう易々と話はしたくないからのう。」
「まず、おぬしをここに呼んだのは、この地に住む、精霊様じゃ。」
誰も見た事はないがの。と、笑いながら長老は続ける。
「何故か、実はわしにも分からん。なにせ、この地に1人の少年が迷い込むから、そやつを助けて欲しいと、一方的に言って来たのじゃ。だいたいいつも、そうじゃがな。」
まあ、神様とかそういうのって、大抵は一方的なものだ。
こちらもそうだが。
「だが、今回はいつもより焦っていたように感じた。これは長年生きた故の感じゃが、何かの手違いでここに呼んできてしまったのでは無いのかのう?それで慌ててこちらへ信託をしてきた。全く困った精霊様じゃ。」
やれやれ、と言いながらもどこか嬉しそうに長老は言う。
どうやら、少なくとも"精霊"とやらがかんけいしている様だ。
謎がとけ安堵したもつかの間、これからどうするか、何も考えていないことに気づく。
元の世界に戻ろうにも、話によると姿を見たことは無い様子。
それに、あの時に聞いたあの声。
たしか、"世界を救え"だったか、あの言葉も気になる。
もしかしたら、世界を救わないと元の世界には戻れないのかもしれない。
「さて、一通りの説明が済んだところで、実はもうひとつ、精霊様からの頼まれ事がある。」
「…それは?」
「ズバリ、お主を鍛えろ。との事だ。どうする?無理強いはしないが、大人しく従った方が良いと思うぞ。」
それでこの村は今まで救われてきたしな。と、笑いながら言う。
さて、どうするか。
うーん。
……いや、特に断る理由がないな。
「分かりました。そうさせてもらうことにします。これからよろしくお願いします。」
と、素直に従うことにし、長老へ頭を下げた。
「よいよい、少年、顔を上げよ。」
そう、長老が言うので、顔を上げる。
「まあ、精霊様の頼みじゃ。いつも助けて貰っとる分、少しは恩を返さなければなぁ。」
(そういう割には、嬉しそうだなぁ。)
こうして、修行…いや、地獄の日々が始まった。
1年目。
最初の1年はひたすら基礎体力や筋トレだった。
大人より大きい大岩を運べとか、木を素手で切れとか、無理難題を強いられ、それが出来るまでひたすらにトレーニングをした。
2年目。
何故か出来てしまったので、今度は長老もとい師匠の弟子2人とひたすら組手をさせられた。
ちなみにだが、この村の住んでいるものの種族は、植林族というらしく、分かりやすく言えば、人の姿をした植物みたいなもので、かなりの長生きとのこと。
また、師匠は人間だが、仙人とかいうもっと長生きの化け物らしい。
更に、この村の人はみんな師匠の弟子のようで、それゆえに、メチャ強く、その強さは暗殺や用心棒の仕事とかして、生計を立てている程だ。
そんなのを2人相手しなければいけないというのだ、無理に決まっていると思った。
3年目。
なんか倒せた。
と、思ったら、究極奥義の習得だー。と言い、
何やら高速で腕を動かして、木を跡形もなく消し去り、"これを再現しろ"という。
修行用の、木っ端微塵にしないと再生する木まで用意して、頭おかしいんじゃないかと思ったが、そもそも大岩を持ち上げたり、木を素手で切れるうえ、暗殺者兼用心棒の2人を返り討ちにできる時点で、自分も大概おかしいことに気がついた。
案外できるかも?
4年目。
全く出来なかった。
消し去るどころか、まだ拳で木を伐採すら出来ない。
せいぜい大きな穴を開けるくらいである。
何がいけないのか、聞いても"それを考えるまでが修行"と誰も教えてくれない。
どうすればできるのだろうか?とにかく、今日もひたすらに木に打ち込みだ。
5年目。
鍛え足りないんじゃないか。
ふと、そんな考えが頭に浮かぶ。
名案だと思った。
1年経っても相手が変わらない、ならばこちらから変わればいい。
てか、それしか思い浮かばない。
とにかく、鍛えて鍛えて、鍛えまくろう。
そして、 10年目。
集中。
「ハァッ!!!」
一閃。
パァンッ!!!
と乾いた音と共に、辺りに衝撃が走っていく。
動物たちは驚き、戸惑う。
何が起きたのか。
あの音の正体は。
……それは、たった1人の少年から繰り出されたものだった。
ただ、拳を突き出す。
それだけで、一帯に、強烈な振動が伝わった。
それだけで、地面に、亀裂が走った。
しかし。
その、拳の先には、何も無かった。
ただ、拳を振るっただけか。
いや、そうではない。
そこにあったものが、消えたのだ。
……その先にはひとつの木があった。
それは、どんな傷も一瞬に再生させてしまう、"幻の大樹"と呼ばれているものだった。
だが、そんな木でさえ。
その、圧倒的暴力に。
その、洗練され尽くした一撃に。
最強の再生力を持った"幻の大樹"でさえ、耐えうることは出来なかったのだ。
しかし、当の本人は。
「…しゃあ!」
ひとり、無邪気に喜でいた。
「うむ、これで無事、卒業じゃ。」
地獄の日々が始まってから10年の月日が流れた。
俺は、究極奥義"消滅拳"を習得し、師匠もとい長老の弟子から晴れて卒業となった。
……長い10年だった。
無理難題ばかりで、どうなるかと思ったが、案外どうにかなるものだ。
「しかし、この速さで卒業とは、お主なかなかやるのう。ほっほっほ。」
「そうなんですか?」
「ああ、10年で卒業となるとうちではまだ数人しか出ておらんからなぁ、十分凄い事じゃよ。」
大したもんじゃあ、と笑いながら、長老は言う。
どうやら結構すごい様だ。
あまり実感が湧かない、現実味のないことばかりだったせいだろうか?
だが、凄いのなら誇っておこう。
「しかし、よく"魔力"を使わずにやることに気がついたのう、あの木は魔力を使ってしまうと木っ端微塵にしても復活してしまうからのう。皆魔力を使うのが当たり前で、そこまで至るまでの方に時間がかかるのじゃが。」
「え、魔力?」
「え?」
え?
あるんだ、てかやっぱ異世界だったんだな、ここ。
てか、10年居たのに、知らなかったなぁ。
「まさか…魔法を知らないとは。」
あまりのことに、大体のことは笑う長老も、笑いすらしない。
この世界では、魔法が普通にあり、日常生活でも使っているそうだ。
あの木は魔力を大量に吸うことで実質不老不死になる。
元々、再生力がある上に頑丈だから、普通は大量に魔力を使うのが前提となる。
結果、伐採したりする際は、実質的な不死身となる。
だから、魔力を使ってはいけないんですね。
「今までのヤツは、ちゃんと考えてやっと魔力を使わないという考えに至るというのに。……やれやれじゃわい。」
「ま、そういうこともありますよ。」
「……まあ、いいわい。卒業は卒業じゃ。……そうじゃ、おぬしこの後はどうするつもりじゃ。」
この後?
「あぁ~考えてないですね。」
そういえばそうだった。元々精霊とやらのお願い?で、修行することになったんだ。この後何するとかも言われていないし、考えてもいなかった。
考える暇どころか、そもそも何も考えていなかったのだ。
「精霊様からも特に何も言われてはおらんのなら、しばらくはこの村にいるといい。」
「いいんですか?」
「なに、おぬしはもう村の一員のようなものじゃ、色々と手伝いもしていたのだろう?皆も喜ぶよ。」
ちなみに、10年間の修行の合間に、色々と村の人たちの手伝いをしていたから、ほぼ全員と顔見知り程度にはなっている。
「じゃあ、お言葉に甘えて、そうさせてもらいます。」
さて、しばらくはここにいられるようになった。
しかし、この後はどうしようか。
「あ、そうだ長老。」
「なんじゃ?」
「魔法について、勉強したいです。」
「ここか…。」
長老の部屋のあるところから出て右にある廊下のところにある扉。
ここには、魔法を覚えるのにうってつけのものがあるとか。
ガチャ。
「失礼しま〜す。」
とりあえず、そう言って中へ入る。
「おお。」
その部屋には、図書館ほどの大きさではないが、大量の本が本棚に並べられていた。
そう、いわゆる図書室である。
おそらく、ここに魔法に関係する本があるのだろう、ラノベだけだが、本をよく読んでいたし、魔法の本だけでなく、そういう本も読んでみたい。
それはさておき、さて、どこにあるのだろう。
「お。」
扉のすぐ近く、右の方に机、いやカウンターがある。
カウンターにはコンピュータ、ではなく、紙とペンがある。
あれで貸し借りのの記録を撮るのだろうか?
そして、その奥。
カウンターの後ろにちょこんと座り、本を読むものが一人。
メガネ(この世界にもあるらしい)をかけて、髪を首あたりでカットしている。
どうやら女性の様だ。
「………!?」
彼女がこちらに気がつく。
ここに来る人はあまりいないのか、驚いているようだ。
さて、まずは。
「すいません。こちらに魔法についての本ってあります?」