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夢を求めて、異世界転生。  作者: したのまちS
1/8

人は自身が持っていないものを持つ人にどうしようもなく焦がれるらしい。

人は、自身が持っていない物を持つ人に、憧れを持つ、らしい。

どこかの映画かなんかで、聞いたことがある。

内容は全く覚えていないが、不思議とそこだけ覚えていた。

僕は、その意味がよく分からなかった。

そう、"あれ"を見るまでは。




「ふぅ…。」

と、息を吐く。

やはり映画は疲れる。

何時間も集中しないといけないから。

特に、好きな映画なんかはそうだ。

どこも見逃せないから、どこでも神経を研ぎ澄まさせてしまう。

「この映画ももう6回か…。」

妹の誘いで見に行ってから一ヶ月ちょっと、俺は妹と共に週一回のペースでとある映画を見に行っていた。

それは、とある少女が夢を叶えるためにひたすら頑張る(ネタバレを控えていうならば、こうだろうか)、そんな話だ。

よくある話だと思う。

しかし、他とは違うところがある。

それは、主人公がめちゃ性格が悪いのだ。

それはもう野望の為、策略を練る悪役ばりの悪さだ。

夢のためならなんでもするし、利用する。

なんとも恐ろしい少女だ。

でも、

「そんなところが、良いんだよなぁ。」

彼女は本気だった。

ただ夢を叶えるために必死だった。

どんなにわるくても、どんなにひどくても。

彼女の想いは本物で、どこまでも眩しかった。

最初は付き添い程度のつもりだったのが、逆にこっちがハマってしまうほどに、眩しく見えたんだ。

そんな彼女を見たからだろうか。

俺は、諦めたはずの夢を、また追いかけたくなったんだ。

小さい頃から親の言うことを聞いて生きてきた。

高校も大学も親に言われたところに入ったし(これはどちらも複雑な事情があったからだ)。

だから、まあ、その、俺は自分というのが分からない。

要は、……夢を持ったことがない。

たから、夢を持つ人に憧れた。

だから、夢が欲しかった。

だから、……夢を持つのが俺の夢……だった。

もう諦めていた。

何度考えても、何をやっても、しっくりこない。

夢と言えるほどの、情熱が無い。

今の趣味だって、無くなれば"無くなったから"で終われるし、なんなら今すぐにでもやめれる。

でも、あの少女を見て、あの物語を見て。

心に、火がついた。

また、探したいと思った。

夢を見つけ、それを叶える。

何もない自分にとって、最大の夢を。

もう一度、手に掴みたいと、そう思ったんだ。

「お待たせ。」

そんなことを考えていたら、どうやら妹が来たようだ。

「何してたんだ?」

「トイレ。」

淡々と言い放ち、スタスタと映画館を出る。

相変わらずの態度に、

「やれやれ。」

と思いつつ、俺も後に続く。





俺たち兄妹は、近くの本屋へ向かっている。

なんでも妹が欲しいものがあるらしい。

言葉を交わすこともなく、歩いていると、

ポーン

と、ボールが跳ねてきた。

そういえばここら辺には、公園があった。

前来た時に子供が遊んでいたのを見たことがある。

「仕方ない、」

取ってやるか。

「あっ」

ボールを取ろうとしたが、するりと抜け落ちた。

「ふふっ」

笑う妹をよそに、追いかけてなんとかボールを捕まえる。

「さて、と持ち主は…。」

プーー!!

え?

キキーッ!!

気づけば歩道に出ていたようだ。

急いでいたのか、車が猛スピードで来ていたらしく、気付いた時にはすでに遅し。

周りがゆっくりに見える、しかし残念なが自身の体もゆっくりな為、どっちみち避けられない。

(ちくしょう。ようやく道が決まったってのに、こんなことって

ゴンッ!!

最後に聞いたのは、そんな鈍く、グロテスクな音だった。




『………、………。』


『……を、……て。』



『世界を、救って。』





目を開く。

どうやら生きているらしい。

「あれ?」

しかし、どう見てもおかしかった。

どこを見ても、木、草、土。

そう、俺が今いる場所は森の中のようであった。

「……はぁ?」

思わずそんな声が出た。

……いや、ほんと意味わかんない。

ど ゆ こ と ?


「まあ、まず落ち着こう。」

そう自分に言い聞かせる。

とにかく、大事なのは"ここがどこか"、だ。

(といっても、森の中っぽいことしか分からないが。)

ここがどこかほとんど分からない。

周りに人はいなさそうだし、そもそもここら辺に人が住んでるかも怪しい。

そもそも何でここにいるのかも分からない。

このままだと食う飯にも困る。

どうやら何も悩む必要ないみたいだ。

状況は最悪、まずなにをする?

「水、だな。」

人は飯なしで2週間、水なしで3日生きられるらしい。

水がないとすぐ死んでしまうから、さっさと探すべきだ。

「小鳥の声は聞こえるし、水はどこかにあるだろう。」

動物も、水がないと生きていけないからね。

存在することだけは確かだろう。

「だが問題は……。」

どこにあるか。

闇雲に探すのはあまりしたくないが……。

「……するしかないかぁ。」

森の知識とかほぼゼロだし、分かるわけもない。

とにかく探すしかないようだ。

ワオーンッ!!

「!」

近くで狼の声、おそらく遠吠えだ。

ということは近くには……

「人か…他の動物か…。」

どちらかがいる。

しかもかなり近そうだ。

でも、すぐ近くではなさそうだし、

「見つからないように隠れるべきか。」

ガサッ

「なっ」

近くで草の揺れる音。

どうやら遅かったようだ。

ガッ!と狼が草から飛び出す。

「!!」

身を構え、そちらを向いた瞬間

カン。

と、乾いた音が鳴り、

「おぉ。」

矢が、狼の頭に刺さっていた。

おそらく弓、スゴイ腕前だ。

まあ武器がなんであれ、動いている相手にこうまで正確に命中させられるものではないはずだ。

スタッ。

と、誰かが落ちる、いや降りてきた。

どうやら矢を放った本人らしいが、

「!?」

驚いた。

"彼女"の耳、後ろ姿だから分かりずらいが、どう見てもおかしかった。

そのエルフのようにとんがった耳は、青白いというか、白い付け根の部分から、外側につれてだんだん緑に綺麗にグラデーションしている。

よく見ると髪もそうだ。

付け根から先へ、白から緑に綺麗にグラデーションしている。

まるで、そうまるで、ネギのような色合い。

あんな肌の人間は確かいないはず。

病気でそうなってるにしても、狩りをしているところから考えづらい。

彼女は一体何者なんだ?

「……おい。そこにいるお前。」

「は、はい、なんでしょか?」

びっくりした。

いきなり話しかけてくるじゃん。

「……どうしてここに。」

ん?何か、思案していた?

「早く答えろ。」

「え、あ、あぁっとですねぇ、何言ってるかわからないと思うんですけど、なぜかここにいたんですよねぇ。」

「ほんとか?」

「えぇ、もちろん。」

「ふむ……。」

何やら悩んでいる様子、どういうことだろう?

「……分かった。ついてこい。」

彼女は狩った獣を手に取り、森をスタスタと歩いてしまう。

何が何だか分からない。

だが、彼女について行った方が良いような気もするし、ダメな気もする。

あまり悩む時間もない、このままだと置いていかれそうだし。

「んー。」

ま、とにかく、今はついていくしかないだろう。

なにせ、迷子だからね。

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