第一章 扉の先にあるもの①
身体が思うように動かなくなり、視界は濁っていて辺りを見渡すことも出来ない。
??「ばぶばぶばぶー。(私、死んだのかな…?)」
??「ばぶばぶ?!(ばぶばぶ?!)」
??「あら、お腹が空いたのね。沢山飲んで元気いっぱい育つのよ。」
??「ばぶー!?。(おっぱい?!)」
(私、赤ちゃんになってる!?ええっ!?生きてるってこと死んでるってこと!?それともファンタジー!?いやいやワケわかんないって!落ち着け!私。冷静に冷静に。)
??「びっくりした顔しちゃって、可愛い姫ね。感情表現がとっても豊かなのね。」
(やっぱ、赤ちゃんじゃん!しかも姫って!?お姫様になったの?私!?お母さんはこの綺麗な人ってことなのかな…)
ミヨの視界が霧が晴れたように、少しずつ鮮明に広がっていく。辺りを見渡すと美しい着物を着た女性で溢れており、森林の匂いと葉の擦れたサワサワした音色が心を落ち着かせてくれる。
(間違いなく現在じゃない。時代背景が違いすぎるよ!でもこんなに自然いっぱいのところなんて初めてだなぁ。落ち着く〜。まさに森林浴だねぇ〜。)
使い人A「下照姫様、準備が整いました。」
下照姫「ありがとう。早速行きましょうか。」
(私のお母さん、下照姫っていうんだ。お姫様なんだね。だから私も姫って言われてたんだ。なんて美しいお母さんなんだろう…。なんか女神様みたい!見惚れちゃうよ!)
下照姫「姫、すぐ戻ってくるから良い子に待っててね。」
下照姫はニッコリ微笑み、愛おしそうにミヨの頭を優しく撫でる。
姫「ばぶばぶ!(はーい!)」
(でもこれって転生したってことなのかな?でも生きていた記憶あるし、一体何が起こってるんだろう…。)
??「おっ!我が妹よ!今日も元気いっぱいで何よりだ!」
姫「ばぶ!?(誰!?)」
兄「いつも可愛がってやってるのに、兄ちゃんを忘れちまったのか?」
姫「ばぶ、ばぶばぶ!(お兄ちゃんね、なるほど!)」
兄「ん?まだ赤ん坊なのに言葉がわかるのか?まさか、な…。」
(まさか…お兄ちゃんもいるとは!世話好きの良いお兄ちゃんってとこかなぁ。でも私が姫ってことは、いろいろ勉強させられるのかなぁ。そんな器でもないのに…。とんでもないところに生まれてきてしまった気がする。)
兄「表情が豊かだなぁ。赤ん坊も色々考えてるのかなぁ。父さん?」
父「そうだなぁ。お前も赤ん坊の時は色んな表情を見せてくれた。今も鮮明に覚えているよ。」
兄「へへっ。父さん覚えててくれたんだね。」
使い人B「ニギハヤヒ様、カグヤマノミコト様、お食事の準備ができました。姫様は私がお世話いたします。」
父「いつもありがとう。早速頂くことにしよう。」
兄「はーい!ありがとう!」
(お父さんニギハヤヒ、お兄ちゃんカグヤマノミコトか…。家族に〝様“で呼ぶんだ。ということはやっぱり上流階級とか!?こんなことなら、歴史の授業しっかり聞いておけば良かった。)
使い人B「姫様は、お眠りしましょうね。」
使い人Bはミヨをそっと抱き、おくるみに包む。背中をトントンされ、ミヨはうつらうつらと眠りに入った。
◇
(はっ!うっかり寝てしまった!まだここが何処なのかわからないのに!)
目を覚ますと、下照姫がミヨを抱きかかえながら誰かと話し合っているようだ。
使い人A「瀬織津姫様、天照大神様、いや高照姫様、市杵島姫様、下照姫様、次回の祭祀はどのように致しましょう?」
(天照大神様!?え、何処にいるの!?神っぽい名前連発してるじゃん!時代背景って神の時代ってこと!?)
下照姫「ふふふっ。もうあなたってば…。こんなに沢山の名を言わなくても良いのよ。付き合いも長いのだから今まで通り下照姫で十分よ。」
(どういうこと!?下照姫だけじゃなくて、今の全部の名前、下照姫のこと言ってるってこと!?下照姫って女神ってこと!?ん?混乱してきた!)
使い人A「かしこまりました。下照姫様、次回は今回と同じようにハハカの木をご用意した方がよろしいでしょうか?」
(ハハカの木?初めて聞いた。)
下照姫「そうね。お願いしても良いかしら?」
使い人A「かしこまりました。今日はごゆっくりとお休みくださいませ。」
下照姫「いつもありがとう。」
(祭祀ってなんだろう?神社の祭りみたいなものなのかな?)
下照姫「姫、何か考えてるの?うふふっ。あなたも末っ子だからいずれは、私のように祭祀をするのよ。私たちはね、自然や人々のために皆が今のような幸せの日々が継続できるように罪や穢れを流すのよ。あなたは赤ん坊だけど、きっと理解出来ているのでしょうね。母にはそう感じます。」
姫「ばぶ!?ばぶばぶ!!(み、見破られている!?さすが神!!)
(お兄ちゃんがいるから、お兄ちゃんが祭祀するってワケじゃないんだね。末っ子が跡継ぎなのか。私も時が来たら、祭祀するってこと!?この私が!?無理無理無理!絶対無理だよ!欲だらけの私が!?穢れまくってるし!)
下照姫「もしかしてもう祭祀に興味があるのかしら?次回の祭祀に連れて行こうかしら…やっぱりこの娘は特別な子なのね。」
(特別な子?どういうことだろう…。)
突然ミヨは眩い光に包まれる。
(え?なになに?えっ!!)