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序章 岩戸開き②

臥龍桜公園に到着すると、とても美しい満開の桜が私たちを迎えてくれた。お昼どきなのか屋台村に団子を食べながら走り回っている子供たちや、花見をしながら蕎麦を食べている大人たちで賑わっている。


ミヨ「うわぁ!すごい人だね。あー。お腹すいた。早くお弁当食べよーよ!」


レイナ「あそこは…ベストスポットなのだよ。」


 レイナの指差す方向にはベンチがあり、臥龍桜を全体的に楽しむことができる見渡しの良い場所だった。


サクラ「レイちゃんナイス!早速お弁当食べよっか!」


 サクラはバッグから六寸程の重箱を取り出し、一段ずつ丁寧に置いていく。


ミヨ・レイナ「うわぁ~!美味しそう!!」


 丁寧に置かれた重箱には、おにぎりやいなり寿司、定番の厚焼き玉子や焼き鮭など、色とりどりの食材が並べられていた。特にお花の形をした人参は可憐で可愛らしい。


サクラ「こんなに喜んで貰えると嬉しいよ!作り甲斐があるよ~!」


 サクラは嬉しそうに微笑んだ。


ミヨ「早速食べちゃいます!いただきまーす!」


サクラ・レイナ「いただきます!」


ミヨ「ん~♡美味しい!さすがサクラ!」


 ミヨはおにぎりをほおばり幸せそうに食べた。また次々に口の中に運んでいく。


レイナ「サクラのお弁当は〝和”が詰まっているね。日本人はね、お米で育っているからね、お米の消化は得意なのだよ。だがDNA的に小麦や肉類の脂質には慣れていないから、消化力が下がるのだよ。」


ミヨ「へぇ~!私なんて面倒くさいから、冷食とかパンばかりだよ!!お米よりパンの方がヘルシーな気がするし!サクラみたいに全部手作り出来たら良いんだけどね…。」


レイナ「ミヨ、わかってないね~。パンはね、小麦と動物性脂質のオンパレードだから、お米の方が太らないのだよ。」


サクラ「そうだよ。お米だけ食べるというより、糖質50%~60%、脂質20%、タンパク質20%のバランスで食べると身体が喜ぶから自然と体重を減らすことができるんだよ。」


レイナ「そうそう。糖質を分解する手助けがビタミンやミネラル、魚のオメガ。だから日本の和食はダイエット食に向いているということだね。」


ミヨ「なるほどね。バランスかぁ。でもこういうこと知ってないと流行のダイエットに流されちゃうね。糖質抜きダイエットとかダメなのかな?」


サクラ「糖質抜きにしちゃうと、身体の水分量と筋肉量が減っちゃうからね。体重は減っても、見た目が変わらない上に体脂肪は変わらないという現象が起きるよ。何より怖いのが、糖質をしばらく身体に入れない生活をすると身体が誤作動を起こすの。」


レイナ「そうなのだよ。お米が入ってきても、どうやって消化したか身体が忘れてしまうのだよ。だから糖質抜き生活をした後、通常の生活に戻ると太ってしまうという結果が出るのさ。ちなみに食文化が変化したのも戦後ってワケさ。」


ミヨ「え!怖い!私気をつける!サクラのお弁当は完全な和食だから安心して食べられるよ。

いなり寿司も美味しいよ♪幸せ♡」


レイナ「厚焼き玉子が二種類…揃っているとは…!出汁巻きと甘い玉子焼…なんと贅沢な!至福のときなのだよ。サクラをお嫁さんにしたいくらいだ。」


ミヨ「間違いない!私のお嫁さんになって欲しいよ!胃袋をガッチリ捕まえるタイプだわ~!サクラと結婚する男の人は幸せだね!」


サクラ「ふ、二人とも褒めすぎだよ!って、あ…あの人どっかで見たような…?」


レイナ「どうしたのだよサクラ?んっ?」


ミヨ「あの人誰?どっかで見たような…見たことないような…感じするよね?誰だろう…。」


 どこかで見たようなシルエットを目で追う。どうやら男性のようだ。男性は観光客に何かを話しているようだった。


レイナ「ちょっと!待つのだよ!アレは…幻を見ているのか…私は!いや、そうではない!ヤツにはアレがないはずだ。どうなっているんだ!顔はヤツだ。なのにアレは…アレは一体!!」


サクラ「もしかして、杉本先生?かな?でも…アレがあるから、弟さん?もしくはお兄さん?」


ミヨ「杉本じゃん!!え?なんで髪の毛あるの?ズラ?それとも、とうとう毛を植えたのかな?」


サクラ「ミヨちゃん!!しーっ!聞こえちゃうよ!まだ杉本先生って確定してないから、ね?」


レイナ「ああ!まさにドーナツ男爵ではないか!私の目に狂いはない!何故、ドーナツ男爵は偽っているのだ!!」


サクラ「レ、レイちゃん!!ふふっ。ドーナツ男爵は…ふふっ、ダメだって!ふふっ。偽りって…ふふっ。」


 サクラは声を押し殺して、今にも笑い出してしまう自分を必死で堪えている。

 すると杉本に似た男性とバチッと目線が合ってしまった。杉本に似た男性は、両手を振りながら満面の笑みでこちらに向かって歩き出した。


??「おう!こんにちは!今日はいい天気だね~。君たちも臥龍桜を満喫しに来たのかい?」


サクラ「こんにちは。あ、はい。お花見しに来ました。あの…す、杉本先生ですか??」


杉本「そうだ!私、杉本だよ。毎年私は観光客向けに、臥龍桜の話をしている。臥龍桜には古い歴史があってな…」


レイナ「ドーナ…いや、杉本先生、臥龍桜の歴史ご存知なのですか?是非話を伺いたい!」


杉本「三好、君は素晴らしい。いつも歴史に前向きだ!だが、先日のドーナツ男爵とは一体なんだね?そういうことは言ってはならないことだ。人によっては傷つくからな。私は問題なかったが…私だから問題なく受容れることが出来たのだからな。」


レイナ「先生申し訳なかった、です。」


ミヨ「杉本…やっぱドーナツ男爵って言われて傷ついたんだね。ドーナツがドーナツ化現象から来ているってことに気付いてたんだ。だか

ら気にして今回頭が…」


サクラ「ミヨちゃん!!変なこと言わないで!ふふっ。静かにして!」


杉本「佐竹、何か言いたいことがあるのかね?」


サクラ「先生、佐竹さんも臥龍桜の歴史に興味あるみたいです。お話して頂けますか?」


杉本「そうかそうか!では話そう。コホン。臥龍桜 は1100年もの歴史があってな、天正にこの地を治めていた三木國綱三澤が、金森長近との戦いに敗れてな、大桜の根元に葬られたと言われておる。今も尚、根元に五輪塔、柵の外右側に三木家の祖霊社が祀られておる。毎年秋には、水無神社の神主と大幢寺の和尚、三木家に関わる人が集まってな、〝三木祭り”といって祖先を供養されている。」


サクラ「三木國綱ってどんな方ですか?初めて聞いた歴史上の人物です。教科書で見たことない気がします。」


杉本「三木國綱はな、戦国時代から安土桃山時代の神官、武将だ。元々は水無神社の神官の一族だったが、姉小路氏の家臣となって娘婿となってな、そこから三木姓を名乗ることとなったのだ。」


レイナ「なるほど…。水無神社と臥龍桜は古の縁で結ばれているのだね。武士と天下に興味は無かったが、領民のために闘った戦国武将、まさに神官なのだよ。」


ミヨ「うーん。難しくて歴史はよくわかんないけど、そういえば臥龍桜がピンチの時あったよね?」


杉本「あぁ。平成3年頃かな、臥龍桜の樹勢が衰え、その年の9月に台風の被害で重傷を負ったな。だが、3年間樹木の外科手術で支柱を立て、衰弱の原因が根にあったことから桜の周辺の悪質土を取り除いて、土壌改良をしたのだ。平成11年頃からは、徐々に元気を取り戻し開花状況が良くなった。そして現在に至るというわけだ。樹根復活改善事業に約20年間に取り組んできたということだな。」


サクラ「臥龍桜を見れることに感謝しなくちゃいけないね。ミヨちゃん??」


 ミヨはポカーンとした顔で、熱心に話をしている杉本の頭を見つめている。ミヨは小さな声でサクラに話しかける。


ミヨ「サクラ、杉本の頭見て?汗かくのはいいけど、なんか黒い汁垂れてない?黒い汁が垂れすぎて、顔中黒くない?こんな状況で良く二人とも話聞いていられるよね。臥龍桜より杉本の黒い汁の方が気になって仕方ない!」


サクラ「ミ、ミヨちゃん!!変なこと言わないでよ!私だって少し気になったけど我慢して話に集中してたんだから!ふふふっ。確かに先生…顔が黒ずんできてる…ふふふふっ。」


杉本「ん?蒼井どうしたんだね?今私、笑える話したかね?」


 レイナは真面目な顔をして、淡々と話す。


レイナ「先生、先程から気になっておりましたが、頭から黒い何かが滴れていますよ。そして頭部に塗り込まれたであろう、黒い粉のようなものが溶けて、真実が露になっておりますよ。私の祖父もご飯のふりかけの要領で頭部に使用しておりました。雨に濡れたりや汗をかくと黒い汁のつゆだくになるため、即刻使用中止をお勧めするのだよ。」


サクラ「つ、つゆだく?ふふふふっ。ふふふ。」


ミヨ「そもそも杉本、頭のてっぺん髪の毛なかったよね?なのになんで、ふりかけかけるの?偽っても真実は隠せないよ~!」


 杉本は動揺しながら、ハンカチで汗を拭く。ハンカチに黒い汁が付着したのを確認し、更に慌てふためき大量の汗が滲み出る。


レイナ「なんとオカルト的な!杉本先生に妖怪要素ありではないか!」


杉本「まさか!ちゃんと自宅から出る前にスプレーして何度も確認したはずだ!何故だ!何故なんだ!?この詐欺商品め!」


ミヨ「杉本!顔、黒ずんでるけど大丈夫?墨汁を頭にかけたみたいになってるよ!!」


杉本「佐竹、どの辺が黒ずんでいる?か、鏡ないか?鏡!」


サクラ「ふふふふっ。ぼ、墨汁…ふふっ。」


 サクラはお腹を抱えながら立ちすくみ、笑いを必死で堪えている。


レイナ「先生、商品返品されたほうが良いですよ。歴史の真実を追求するように、先生もありのままの自分を受け入れて真実を露わにされた方が宜しいかと…。」


杉本「…」


ミヨ「杉本!鏡!」


杉本「助かる!佐竹ありがとな!な、なんたることだ!拭いても拭いても頭も顔も黒いではないか!!おい、君たち何か巻くものないかね?!」


サクラ「か、カーラーですか?ふふふっ。先生カーラー?ふふふっ。」


レイナ「サクラ、先生は既に毛がないのだからカーラーは求めていないのだよ。先生の〝巻く”とは、おそらく今の状況を隠す布、もしくは風呂敷的なものを求めているのだろう。」


ミヨ「カーラーヤバいよね?どこ巻くのって話じゃん!」


杉本「…」


レイナ「先生良かったらこのハンカチ、使うのだよ。」


 レイナはポケットから唐草模様のハンカチを杉本に渡す。


杉本「三好助かる…!だが何か怪しい人物に見えないかね?何故君はこんな柄を持っているのだね…。周りから視線を感じるのだが…。」


レイナ「先生、知らないのですか?唐草模様は、縦横無尽に伸びる茎やツタが生命力の強さを表していて、長寿や繁栄と意味が込められているのです。明治時代では唐草模様の風呂敷はどこの家庭でも使われていたものですよ。これを頭に覆えば御利益ありますよ。」


ミヨ「そうなんだ!泥棒イコール唐草模様と思ってた。でも杉本が御利益どころか泥棒みたいに見えるね。これまずいんじゃ…。」


レイナ「仕方があるまい。空から墨汁が降ってきたことにしよう!誰でも突然のハプニングは付きものだ。」


サクラ「ふふふっ。そんな、誤魔化すことなんてできないよ。どんなハプニングで空から墨汁が…ふふっ。レイちゃん真面目な顔して発言しないでよ!!」


ミヨ「そうだね。これで誤魔化すことができる。杉本、私たちに任せて!」


杉本「空から墨汁が降ってくる確率など極めて低い。0.001%程じゃないかね?不自然な気がするが…仕方がない。周りを誤魔化せば済むこと。頼むぞ!三好、佐竹!」


サクラ「ふふふっ。わ、私はちょっと…ふふっ。耐えられそうにないから…ここで待ってるね。ふふふっ。御利益…ふふふ。」


 サクラに花見のベンチに残ってもらい、私とレイナは杉本を囲むようにし、駅まで送った。


レイナ「なんとか誤魔化せれたのだよ。」


ミヨ「若干注目浴びたけど、なんとか乗り切れたね!」


レイナ「ところで先生は黒い粉に頼り、頭部を隠す必要があったのですか?」


ミヨ「レイちゃん!これはさすがに禁句だよ!」


杉本「…。プライベートくらいは見栄を張りたいではないか!本当は50歳なのに60歳と間違えられ、未婚でも既婚者と間違えられ、毛があるのとないのとでは待遇が違い、毛が薄い人には生きづらい世の中になったもんだよ。」


レイナ「申し訳ない、です。だが先生、考えようによっては現在の方が生きやすいと思いますよ。戦国武将の明智光秀も禿げていた為、髷を作ることが困難だったようですよ?先生は髷をなんとか作ることができそうなのだよ!今後はふりかけをやめられることを推奨しますよ。」


ミヨ「レイちゃん、フォローになってないよ!毛がなくても、ちゃんと杉本を見てくれる人が現れるよ!きっと!!」


杉本「二人ともありがとな!なんとか駅まで辿り着けた。先生今度二人にお礼をしよう。」


レイナ「それなら先生、話が早い。オカルト部を復活させてくれないかい?顧問はもちろん杉本先生でお願いしたい。」


杉本「…わかった。提案してみよう。ただし、10人以上集まらないと部は復活できない。それでも良いか?」


レイナ「人数なら私が責任を持って集めてくるのだよ。」


ミヨ「わたしは…きっ」


杉本「二人ともありがとな。じゃあ楽しんでこいよ~。」


 杉本は頭部を唐草模様の風呂敷で隠しながら、電車に乗り手を振って帰って行った。

 私たちはサクラの待つベンチへ向かった。


 

ミヨ「レイちゃん!さっきの本気なの?」


レイナ「本気さ。ずっと私は考えていたのだよ。」


サクラ「え?何の話??」


ミヨ「レイちゃんがね、オカルト部復活の依頼を杉本にお願いしたんだよ。」


サクラ「レイちゃん、オカルト部へ入部したくてこの学校に入学したんだよね?復活したら面白そうだから私も入部しちゃおうかな?」


ミヨ「でも顧問、杉本になるけど大丈夫なの?さっきサクラ笑いを堪えるのに必死だったからさ。」


サクラ「いやいや。ミヨとレイちゃんが笑わないのが異常なんだって!!周りの人私たちの会話聞いて、爆笑してたよ。墨汁が空から降ってくるとか、ふりかけとか、真実がどうのこうのとか…ふふふふっ。やめてよね!ふふっ。月曜日、杉本先生見ちゃったら、笑っちゃいそう。」


レイナ「人の顔を見て笑顔になるということはとても良いことなのだよ。サクラが入部してくれると嬉しいね。」


ミヨ「私も面白そうだから入部しようかなぁ?杉本のお礼、私は喫茶店でパフェご馳走して貰いたかったよ。月曜日杉本に話してみようっと♪サクラも杉本の頭部護衛すれば良かったのに…」


サクラ「ご…護衛ふふふっ。頭の…ふふふっ。先生必死だったね、ふふふっ。そもそも先生って、なんで頭部を隠そうとしたのかな?」


レイナ「あーっ、アレね?見栄らしい。」


ミヨ「うん。そうだね。見栄みたいだよ。あとハゲは生きづらいらしい。


サクラ「…!!杉本先生、少し病んでるみたいだね。病は気からっていうから、元気になれば生えてきそうだよね!」


ミヨ「元気になったら、髪の毛って生えるもんなの?」


レイナ「薄毛は病は気からでは問題解決できないからね。何がともあれ、杉本先生の件は解決したのだよ!」


 私たちはサクラのお弁当を満喫し、今までの出来事を振り返り〝岩戸開き”について鍵を探すことにした。

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