有り余るエネルギーで
何時の間にか食べ終わっていた兎肉を持っていた自分の手元を、名残惜しげに見つめた後に私はスッと立ち上がる。
これからやることは、水場の周りに簡易的な住居を作る事だ。
恐らくあの化け物兎は、勝手にやって来るだろう。だって、凶暴で見境無く襲ってそうだし。
そんな脅威から身を隠す為の簡易的な住居は今必要だと思うのだ。それに、雨の日とかでも野ざらしって言うのは、文明人だった私には到底耐えられっこない。
それに、真っ白のジャージが土や草で汚れるのもあんまり好きでは無いから、早急に住居を作らなくてはならないのだ!
「とはいったものの…」
そう、私は平凡な女子高校生なのだ。
そんな、建築関係の知識や、葉を編んで何かを作るとか、ましてやこの世界の草木の事なんて、これっぽっちも分からない。
そんな私に、何が作れるだろうか?
これはもう、原始人生活するしかないのだろうか?
「何か、皮みたいなのがあれば、それを木に貼り付けるんだけどなぁ…」
ふと、化け物兎の居た痕跡であったモフモフの毛皮と、鋭い爪に視線を移す。
あるじゃん。いい感じの皮みたいなのが。というか、皮が。
「化け物兎狩りするしか無い…かな?」
一匹50センチ程のサイズの化け物兎から採れる皮は、かなり大きいがそれでも一匹分じゃあ数が圧倒的に足りないだろう。
なので、私はあの化け物兎を見つけて、狩りをしようと思う。
幸い、あの化け物兎自体そんなに強く無さそうなので特段心配は要らないだろう。
それに、ご飯を食べてエネルギーが有り余ってるので。
良い運動になるのでは無かろうか?
「そうと決まれば善は急げ!」
あの時から暫く時間が経ち、化け物兎を尾行している最中の西条由紀ですこんばんは。
「キュォォア?」
「キュルゥゥア!」
何やら兎語で会話をしている様子のこの二匹の灰色兎と白兎。どうにもこの二匹は今巣に帰っているような気がして現在尾行しているのですが………。
「キュッ!?」
「キュォッ!キュォォ!?」
「ヘタレかっ………!」
少しの物音でビビり、脱兎の勢いでこっちの方へと駆けてくる灰色兎と白兎。
その姿に私は思わず小声で突っ込まずにはいられない。
だが、そこは流石の臆病者。
私の小声による突っ込みも、聞こえていたらしく……。
「キュルルル…!!!」
「キュオゥゥア!!!」
臨戦態勢となってしまいました。
ヘタレなのになんでそこは勇気一杯なんだろうとか思いつつ、私は特殊スキルにあった筈の魔法使いを脳裏に思い浮かべる。
《現在使用可能魔法》
発火
静電気
微風
目の前に浮かんだ3種類の魔法達をを見て私は思う。
なんか、弱そうじゃない?と。
試しに、微風を使用してみる。
多分、あんまり殺傷力などは無いだろうが。
「詠唱は分かんないから飛ばしちゃえ!微風!」
両手を前に突きだして、魔法の名前を精一杯に叫ぶ。
すると、周囲の大気に満ち溢れていた魔力や私の体の中にあった魔力が私の掌に収束する。やがてそれは小さな魔方陣の形になっていく。
無色だった魔方陣が、段々と薄緑色に染まっていくと、私の体全体に衝撃が襲い掛かった。
その衝撃に耐えながら、視線を前にやると、丁度微風の射線にいた灰色兎の胴体に浅い切り傷が残っていた。
右肩から左足の付け根当たりまで伸びたその切り傷からは、勢いよく血が噴き出す。
どうやら、微風の威力は充分にあったらしい。
「おー!かなり強いんじゃ無い?じゃあ次は…森の中で発火は流石に不味いだろうから、静電気にしておこうかな?」
だって、森の中で火を扱ったら、火事になって私ごと一緒に死んでしまうから。
まぁそんな所で、またもや私は両手を前に突きだして、魔法の名前を精一杯叫ぶ。
「静電気!」
魔力が私の掌に収束し、魔方陣を描く。
完成した魔方陣が黄色に塗り替えられると、私の方へと迫り、私の手首に魔方陣が腕時計のように絡んだ。
特に何も起こらなかったので、自分の右手の掌を確認してみる。
すると、私の掌は、少しバチバチと音を鳴らしていて。どうやら静電気は帯電する近接攻撃用の魔法らしかった。
そうと分かれば早速インファイトを仕掛けようと思う。
「実験台となりたまえー!白兎!」
「キュ…!」