兎肉を食す
「雄でしたか…」
なんかごめんね?許して…くれなさそうだねぇ!?ゆらゆらと紫のオーラ出てるね!?
何!?なんなのそれ!ステータスアップする感じなのかな?
「キュイィィオァァァァ!」
「うっさ……!黙らっしゃい!」
この凶悪兎を一気に上へと投げる。落下してくる所を全力で振りかぶって殴る。
グニッ…。
「あっ。」
「ゲフォッグォォォラァァゴッッゴ!?」
違うんです。私そんな、雄の恥部に恨みがあるとか、そんな事は無いんです!偶々、やってしまっただけで、うぅ…。
まぁ、相手が襲ってきただけだし、それに正当防衛だし…。うん。え?凶器はって?そんなん、あの爪に決まってるじゃないですかやだぁー。
うーん、お腹も減ってきたけど、でもこの兎のお肉、あんまたべたくないなぁ…。だって神経がまだ生きてるのか知らないけど、うぞうぞ動くし…!
というか何で殴っただけで上と下で分離してるの…?
そんな事を考えていると、お腹の音がなる。
やはり、たべなきゃいけないのかな…?
殺したのなら食べて血肉とし、殺した者の命の分まで生きるのが強者の努め…!お爺ちゃんもそう言ってたし!うん!食べよう!
あれ、でも、どうやって解体しようか。
どうやって火を起こすのか。
うーん……………。
「あっ、生存知識!」
その言葉を発すると、目前には1つのウィンドウが表示される。あれ、でもこれ何となくは分かるけれど、最早解説というか、ニュアンスだけでは…?
だって書いてある事を抜粋すると…。
血を抜いたら、切れ味の良い物で切って2つにわける。皮はスパパパっと。内臓はこう、グイッと。
なんなの!?考えるな感じろって事なの!?
内臓の事に関してはもう伝えづらそうにしてるし!
冷静になろう…。そうしよう…。
そして、小一時間程兎肉と格闘していると、いい感じに解体する事が出来た。
我ながら素晴らしい出来栄えー。
次は焼いて食せるようにしなくてはならない。何故なら?生肉を食べたら食中毒が怖いからだよ。
「でも、火起こしなんてしたことないしなぁ…。便利な魔法とかないかなぁ…」
私がそう考えていると、生存知識によるウィンドウが表示された。
魔物の肉は、主に魔力を充てることでエネルギーが発生し、調理可能な具合まで調整される。しかし、この兎型の魔物であるシャープクローズラビットは生でもいける。
へぇー。魔物の肉は魔力を浴びせると喰えるよと。成る程ね?こいつ、生食可能らしいし試そうかな。ここでサバイバルするためにも実験は大切だしね。
そういう訳で、脳内で魔力操作と念じる。
すると、大気を流れる魔力の奔流が可視化された。そこで、大きく息を吸って、大気中の魔力を全身に駆け巡らせる。
自身の持つ魔力と、大気中の魔力を混ぜ合わせて、より高濃度な魔力を支配下に置く。
そうして出来た魔力を右の掌に集中させて、ゆっくりと兎肉に浴びせる。
魔力を浴びた兎肉は、謎の原理による発火によって、生の状態から、じわじわとステーキのように変わってゆく。
その良い匂いにつられて、左手が伸びかけたり、近くの動物がやってきたりと些細な問題が起こってしまったが、黙々と作業を行っていた。
暫く魔力を兎肉に浴びせると、いつの間にか魔力操作がLv1から2へと上がっていた。
その事に少し顔を緩ませているとピコーんと音がなった。
どうやら、生存知識さんが、もうそろそろ食べ頃である
と伝えてくれた。
「いただきます」
がぶり。もぐもぐ…ごくんっ…ガツガツガツ!
一口食べるともう止まりはしなかった。
溢れでる食欲に敗北したのだ。
兎肉、すごい美味しかった。
噛むと程良い食感が楽しめて、噛めば噛むほど肉汁が溢れでてきて、肉の美味しい香りが鼻腔を擽る。
汚いからと水洗いし、魔力操作で作った爪で筋を切り、土の上に置かずにやったことで衛生的な観点からの不満は消え去り、それはもう夢中になって食べたのだった。