『まさか俺が勇者様!って讃えられる日が来るとはな…』
進む先には色とりどりの花畑や見た事のない小動物が野原を駆け巡っている。
ウサギのような犬のようなよくわからん生き物が馬のすぐ横で飛び跳ねていた。
「もうすぐ村に着くぞ!例の敵を討伐したと言う吉報はもう知れ渡っているはずだ。」
「…無駄に緊張するな。」
次第に大きな石造りの外壁に立派な鎧を着た門番…が見え……てはこなかった。
気持ち程度の木製の柵、牧場の動物ふれあいコーナーにあるような簡易的な扉。門番すらいない。この村は大丈夫か?一応生い茂る木で村に目隠しはされているが。
女騎士の掛け声で馬は減速する。ついに来てしまった。俺はどんな顔をしていたらいいんだ?
全くわからない。
「エリザベート!只今帰還!門を開けろ!!」
威勢のいい声で彼女はそう叫ぶ、暫くすると1人の老人が腰をさすりながら門を開けに来た。
「おお…!エリー!お帰りなさい、よくやった…!無事かい?」
「私は無事だ!彼が助けてくれたんだ!」
老人の視線がこちらに向く、なんて言ったらいいんだ?俺は。
「あ、はい。まあ。…はは。そんな感じですね。」
「我らの村をお守り下さった勇者様じゃ!!あなたの名は…」
「えっと、佐々木マサヤです。」
「さ、…さき?」
やべえ、本名言っちまった。こういう時は何かキ◯トとかそういう感じのそれっぽい名前を名乗るって決めてたのに。
「あ、…っと。やっぱりアルテミスです。」
「アルテミス…?様!!何と我が村の讃える神と同じ名前とは…!何という運命でしょうか!」
咄嗟に出たのがこの名前だった、不幸にもこの村の神?とやらと名前が被ってしまうとは。運がいいのか悪いのか。しかしこれで村での待遇を心配する必要はない。
とにかく、今日から俺は『アルテミス』として生きていく事になってしまった。ネーミングセンスがないのは勘弁してほしい。
そのまま有無を言わさずに村の中に招き入れられる。
「この村は、私にとって馴染みの村なんだ。何度旅に出ても結局はここに戻ってきてしまう。いわば実家みたいなもんだね。」
「そうなんですね、だから依頼を受けたと。」
「それもそうだな!村への恩返しだ!君に手柄を取られてしまったが。」
「まあ、俺もまさかあんな事になるとは思ってなかったので。」
「今後は私のことはエリーと呼んでくれ。君のことはアルテミスと呼ぶ。」
「あ、了解です。」
いざアルテミスと呼ばれると、クソ恥ずかしい。さっき咄嗟に出た呪文も正直聞かなかった事にして欲しい。こんな時、己のセンスを憎む。
さて、これから今目の前にある、歴史感じる木造の酒場で宴会だそうだ。
あー、飲み会とか苦手なんだよな。
村のノリについて行けねえよ、知らんけど。もうそんな若くねえから。酒勧められても2杯しか飲まないでおこう。