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放課後。
「グリフォン!」
今までの厩舎とは違い、天井も広いし、面積も広い。
グリフォンは大きな翼を広げ、バサバサと体育館の中を飛び回った。
「おいで、私の守護神獣ーーファイティン!」
魔法陣が現れ、光とともに現れる、虎のような綺麗なオレンジと黒い線の艶やかな毛並み、青い鋭い瞳に、鋭い牙を持つ獣。
『主、久しぶりだな』
「久しぶりファイティン。元気にしてた?」
『こちらは変わりない。主も元気そうで何よりだ』
「ファイティン様、ご無沙汰しております。瑞月です。その節はお世話になりました」
両膝をつき、手を合わせながら、挨拶する瑞月。
以前、瑞月の出身地、和の国ツキナリで、ファイティンと瑞月は顔を合わせた事がある。
『あの時の小僧か。大きくなったな』
「はい。齢14となりました」
懇切丁寧に返事をする。
和の国ツキナリは普段より、妖精・精霊・魔物等、人間以外とも親交が深い国。
その中でも神獣は、おとぎ話にしか出て来ないような、幻とされる生き物で、神格化されている。
『神楽は元気にしておったか?』
「国を出るまでの間しか分かりませんが、大変元気に過ごしておいででした」
神楽は和の国ツキナリの妖精。
『主は学園に通う事になったのか?』
「うん、そう。女神様のお願いで」
本当は入学する気は無かったのだが、女神様の命令には逆らえない。
グリフォンと瑞月が仲良く遊んでいる最中、ルナマリアは、体育館の隅でファイティンに近況を話した。
『あの主が…学校に…!』
「いや、うん。分かるよ、自分でもちゃんと通ってる事にびっくりしてるけど」
怠け者として妖精達の間で名を馳せているので、学校にきちんと通っている事に驚く気持ちは分かる。
分かるけど、前世でもきちんと学校には通っていたし(なんなら皆勤賞)、会社で働いてもいた。
行きたくないと毎日思っていたけど、毎日嫌々頑張って行っていた。
「意外と私真面目なんだよ」
ぷくーと、頬を膨らませる。
そうだよ。
ヨウナの事だって、ぐーたら大好きでいち早く寮に帰ってぐーたらしたいのに、頑張ってる!←レンに言われ、認識した。
『すまない。主を馬鹿にする気は無かったのだ』
「まぁ昔の私、ずっとぐーたらしてたもんねー」
生まれ変わって、学校にも会社にも通わなくて良い世界が嬉し過ぎて、食べて寝て食べて寝て、妖精や精霊達と遊んで、毎日をぐーたらに過ごしていた。
そんな生活を繰り返していたら、女神様に追い出されてしまった。
「ファイティンは女神様に会ったりするの?」
『たまに顔を見せたりはするぞ』
ファイティンはルナマリアに呼び出されるまでは、普通に過ごしている。
「女神様元気?」
ーーーー
『良いか?ルナマリアの守護神獣になったからと言って、ルナマリアをあまり甘やかすでないぞ?皆がああやってルナマリアを甘やかすから、あんなぐーたらしが出来ない娘に育ったのじゃぞ?くれぐれも!ルナマリアを甘やかすな!背に乗せて旅をするなど言語道断じゃ!きちんと自分で歩かせ、自分で飯を作り、テントをはり、魔物を退治し、お金を稼がせ、生活させるのじゃ!』
ーーー
『ーーーああ。主の事を大変心配されておった』
過去、女神様に言われた長文を思い返しながら、ファイティンは当たり障りの無い言葉を選んだ。
「えへへ。ほんと?嬉しいなぁ」
『キュイッキュイーー』
グリフォンが、ルナマリアの所まで飛んで来ると、直前で停止した。
「グリフォン」
そのまま、頭を出すグリフォンの要望通りに、頭を撫でると、グリフォンは気持ち良さそうに目を閉じた。
「あーもー。グリフォンってば、ホント、ルナマリアが好きなんだから」
僕の魔物使なのに、と。
瑞月が拗ねると、グリフォンはキュイッと、楽しそうな声を出した。
昔と変わらず、仲良く友達関係を継続しているようで、安心する。
「……瑞月」
「ん?何?」
「グリフォン……食べても美味しく無いと思うよ」
瑞月をゲーム通りの魔物喰いだと思っているルナマリアは、グリフォンを食べさせまいとする為に、この言葉を吐いたのだが、何も知らない人達からすれば、全く違う解釈にも捉えられる。
(グリフォンを食べようとしてるーー??)
唐突なルナマリアの怖い台詞に、無防備に頭を撫でられているグリフォンも、隣にいたファイティンも、瑞月も、動きが止まる。
「いや、食べないけど……え、何?ルナマリアお腹空いてるの?」
怖かったグリフォンが、ルナマリアの傍を離れ、瑞月の背中に泣きながら避難する。
「お腹……空いたね」
(そう言えば食堂で珈琲とお菓子貰ってくるの忘れてた)
「そ、そう…。グリフォンは、僕も美味しく無いと思うよ」
瑞月は恐る恐る、ルナマリアの意見に同意した。
((お願いだから絶対にグリフォンは食べないで))
奇跡的に、2人は同じ事を願った。




