ジュリアス編9
「てめぇーー!喧嘩売ってんのか?!」
「いえ、結構本気で悩んでいます」
ふざけているつもりは一切無く、ルナマリア自身は、本気で悩んでおり、真剣。
(何だろ……全然強そうに見えないし……)
ジロジロと言いがかりパーティを観察するルナマリア。
そんなルナマリアの態度に、言いがかりパーティ達も、益々イライラを募らせた。
「ガキだと思って優しくしてたらつけ上がりやがってーー!」
「生意気なガキには、お仕置きが必要だなぁ?!」
(お仕置きですか?怖いです……止めて下さい)
「あ!実は頭が悪そうに見えて、本当は凄く頭が良いとか!?」
何やら怒っていらっしゃるので、しおらしい態度で誤魔化そうと思っていたのに、優秀の糸口が思いついた事が嬉しくて、思わず心の声と発言が逆になる。
「「「「ああ?!」」」」
「ごめんなさい。間違えました」
全員に睨まれ、直ぐに謝罪する。
「このガキーー」
剣士は、腰に帯刀していた剣に手を伸ばした。
「ーーそこ!何やってるの?!」
「ちっ。おい、行くぞ」
騒ぎを聞き付けたギルドの職員が駆け寄るのを見て、言いがかりパーティは、一目散に退散する。
「君、大丈夫?」
ギルドの職員の女性は、心配そうにルナマリアに声をかけた。
「平気です。助けて頂いてありがとうございました」
ぺこりと、頭を下げてお礼を言う。
「良かった……。あの人達、素行が悪くて有名なパーティだから、気をつけてね」
「みたいですね」
(そしてやっぱりアホだな)
と、ルナマリアは思った。
彼等はルナマリアに剣を向けようとした。
(こんな公衆の面前でそんな事をする事が、どんだけアホな事をしているのか、理解出来ない程のアホ…)
彼等の主張する優秀とは一体何なのか…。
糸口がまた消えてしまった。
「…何だろ…」
「大丈夫?やっぱり怖かったよね。ギルドは本来、誰が来ても良い場所なのに……もっと早く助けに行くべきだったわ、ごめんなさい」
神妙な趣で、どうでも良い事を考え込んでいるルナマリアを、怯えていると解釈したギルドの職員は、心配そうにルナマリアの背中をさすり、優しい言葉をかけた。
「ただ……今は貴女が受けれそうな依頼は、この街には無いと思うわ」
ギルドの職員の話では、この街では元々が、薬草集めや修繕等の冒険者以外でも出来そうな低ランクの依頼が少なく、最近は昨今の魔物増加のせいで、危険な依頼しか無いらしい。
(確かに。周りは冒険者ばっかり)
他のギルドには、ちらほら冒険者以外の姿も見かけたりするのに、ここでは一切見当たらない。
(討伐依頼か護衛ばっかり……あ!)
「あれは?」
ルナマリアは唯一、採取と書かれている依頼書を指さした。
「ああ。一角兎の髭ね」
依頼書には、長い1本の角を生やした兎のような絵に、採取と赤く記されている。
ギルドの職員は、壁に貼られている依頼書を外すと、良く見えるよう、ルナマリアに手渡した。
「高っ!」
成功報酬を見て、驚く。
(採取でこの金額?!有り得ない…)
通常ルナマリアが行う薬草系の採取の、およそ10倍は違う。
(普通の討伐依頼より高いけど…)
「強いの?」
それ即ち、高難易度を示す。
ルナマリアは、ギルドの職員に尋ねた。
「ううん。強くはないんだけど、採取が難しいの」
「採取?」
「温厚で、滅多に攻撃してこないんだけど、臆病な上に、逃げ足が凄いスピードなの」
「ふーん」
依頼書にそのまま目を通していると、更に気になる文字。
「討伐禁止?保護対象?」
滅多に無い文言に、首を捻る。
「一角兎は希少種なの。一角兎の髭は、強い薬を作るのに重宝される物で、1度髭を取っても、暫くしたらまた生えてくるのよ」
温厚で人も襲わず、その髭は人を救う薬に役立つのなら、確かに討伐する必要が無い。
寧ろ重要な保護対象。
「それは難しいね」
傷付けてはならない。
それは、逆に難易度が上がる。
「一角兎の保護対象化、最近決まったのだけれどね。……ほら、魔物ってだけで毛嫌いする人多いから」
「…ああ」
魔物は凶暴で人を襲う。
「実際、魔物に襲われた人もいるし、魔物をいきなり保護しろって、気持ち的には難しいから、可決するのは本当に大変な道のりだったのよ!」
ルナマリアも、魔物は全て見境無く人を襲うってイメージだったが、無害ならば、戦わずに済むなら、それに越した事は無い。
「ただねぇ……折角決まったんだけど……さっきのパーティの奴等、その一角兎を狙ってるみたいで……」
はぁーー。と、深い溜め息を吐くギルドの職員。
「駄目なの?」
「あの人達やりたい放題なのよ!他のパーティの手柄を横取りするわ、盗みを働くわ、暴力沙汰を起こすわー!」
ワナワナと震えるお姉さんの右拳から、怒りが伝わる。
「捕まえられないの?」
違法行為はこの世界でも牢屋にぶち込まれる筈。
「あいつら、ずる賢くて…決定的な証拠が無いのよ…」
(成程!悪党の才能がある人達なのか!!)
ルナマリアは彼等の言う優秀の意味を、彼等の意図する優秀とは異なる形で納得した。
「それに、パーティには魔法使いと僧侶がいるから、ある程度は何しても許されると思ってるのよ」
「?何で?」
「魔法を使える人が希少だからよ」
「…………」
(そうだったんだ!!!!)
女神様教えといてよーーー!!!!
と、心の中でルナマリアは叫んだ。
「私も魔法使いなんだけど……珍しい?」
どの程度の希少価値があるのかを確認したくて、ルナマリアは恐る恐る尋ねたが、ギルドの職員はニコッと微笑んだ。
「冒険者の中には結構いるわよ。一般にはいないってだけ」
「あ、成程」