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家は壊され、森はぶっ飛ばされたが、それでも、村人達は上手く逃げる事が出来たようで、人的被害は最小に食い止められた。
「ほ、ほんと?怒られないかな?」
ルナマリアは自分が壊してしまった家や森の木々を見渡しながら、不安げに尋ねた。
「全然!命が1番!それに、森は前から、湖までの木を切って、往来しやすいようにしようって話してたんだ」
フランは、ラフラーレンが宿る湖を見た。
「あそこには、村を守る妖精が住んでるから!」
笑顔で言うフランの台詞に、ラフラーレンは得意げな表情を浮かべる。
ルナマリアは、そんなラフラーレンの横顔を見ながら、微笑んだ。
「ここはラフラーレンにとって、大切な、護らないといけない場所なんだね!」
『そ!そんなんじゃ無いもん!』
「照れてるねー」
2人で笑い合い会話をするのを、フランは再度、不思議な表情を浮かべる。
「?ラフラーレン?ルナマリアが会いに来た人?」
「うん、そだよ」
そのまま、ラフラーレンが乗る手のひらをフランに向けた。
「?何?何もーーいないけど」
『ルナマリア、私、ただの人間には見えないようにしてるよ』
「え?ーーあ、そっか」
妖精や精霊は、普段、人間には見えないよう、魔法を使い、姿を消している。
見えるのは、魔法を見破れる力を持つ者だけ。
一般的には、魔法使いが多い。
『勿論、ルナマリアだけには見えるようにしてるよー♡』
ギューっと、ルナマリアの指を抱き締めるラフラーレン。
「私、そんな事しなくても見えるよ」
ルナマリアは力の強い魔法使いである。
『いーの!愛情の証なの!』
「ルナマリア……もしかしてそこに、村の妖精がいるの?」
普通の人間のフランには、ルナマリアが1人で話しているようにしか見えない。
「うん」
ラフラーレンは姿を現す気は無いらしく、見えないまま。
「そっか…」
フランは、いるであろう、ルナマリアの手の平に向かって、祈りを捧げた。
「いつも村を守ってくれて…ありがとうございます。妖精様」
感謝の気持ちを込めて。
ラフラーレンは、そんなフランに対してそっぽを向いたが、その横顔は満足げで、笑顔が溢れていて、ルナマリアはまた、笑った。
***
「もう行くの?ルナマリア」
ラフラーレンの宿る湖の傍。
フランは、旅支度を整えるルナマリアに向かい、悲しそうに尋ねた。
無事お咎めも無しで一安心したルナマリアは、数日間、そのまま村に滞在した。
正確には、ルナマリアが魔物を倒した事も、家を破壊した事も、あろう事か森を吹っ飛ばした事も、信じてくれなかった。
「うん。ラフラーレンも行っちゃったしね」
ちらりと湖を見ると、数日前とは打って変わって、美しく、透き通り、テニスコート程しか無かった湖は、今や5倍程面積を広げている。
ここまで戻ると、暫くラフラーレンがいなくても大丈夫らしく、ラフラーレンは昨日、弱った体を癒す為、女神様の森に帰った。
「元気になったら、また戻ってくると思うよ」
仕事熱心の妖精様だから。と、付け足す。
「…………あ、あの、さ」
言い淀みながら、フランは話し始めた。
「ルナマリアは、学園に行く?」
「学園…」
ゲーム《リアリテに舞い降りた聖女》の舞台ともなる、学園。
魔物が活発で、魔王も復活すると噂されるこの世界では、優秀な者達を集め、育成する為の学園がある。
剣士、魔法使い、盗賊、弓使い、守護者、獣使い等など。
職種は問わず、優秀な者だけが入学する資格を得る場所。
名前は安直にリアリテ学園!!!
(学園か……優秀な人だけが入学出来る場所だから、私では難しいだろうし……)
んー。と、頭を捻らせる。
(でも、学園の様子も見ておきたいな)
ちゃんと魔王を倒してくれないと、この世界はバットエンドまっしぐらで消滅する。
(てか確か、魔王城って学園の地下にあるんだよね)
学園は、この世界の中心地の、1番栄えている場所にあり、更には、未来を背負う優秀な人材を育成しようとわざわざ集めた学び舎。
何故そんな場所の地下に魔王城があるのか…。
(いや、何故ーー?!何故その場所に学園?魔王城?)
それはこのゲーム《リアリテに舞い降りた聖女》の製作者に聞いてくれ。
イベントでは魔王城が地下にあるからか、魔物がちょくちょく街に現れたりして、それを倒したりしながら、好感度を上げたり、Lvを上げてた。
ちなみにこの事実は、ゲームを進めて行く上で分かる事なので、誰も知らなかったりする。
(……うん、知らん)
このゲームの製作者が作った設定を深く考えても意味が無いと、ルナマリアは思考を放棄した。
元々が史上最悪のクソゲーと名高いゲームだ。
「学園には行くよ」
(世界滅亡阻止の為に、ヒロインと君達の動向を確認しに!)
「そ、そっか…そうだよね。ルナマリアなら、絶対に学園に通えるもんね」
「?何で私、絶対に学園に通える?移動で?旅してるから?」
自分を優秀だとは微塵も思っていないルナマリアと、とてつもなく優秀な魔法使いと認識しているフランの会話は、上手く噛み合わない。