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4月で陽気な天気とはいえ、池の水は冷たい。
水につけている手は真っ赤で、震える手を、ヨウナははぁー。と息をかけて温めていた。
「何探してるの?」
「きゃっ!」
いきなり声をかけてしまったからか、驚くヨウナ。
「貴女は……確か、ルナマリアさん」
「ルナマリアで良いよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
花が咲くような可憐な笑顔を向けられる。
(めっちゃ可愛い!!流石ヒロイン!!!)
「どうしたの?何か捜し物?」
池の中で、震えながらも、必死に探し物をしているように見える。
「はい…その…鞄を……落としてしまって」
「それは大変だね」
そう言うと、ルナマリアは靴と靴下を脱いだ。
同じように、池の中に入る。
「え?!そんな…!濡れてしまいます!」
「2人で探した方が早いよ」
ヨウナが止めるのも聞かす、水の中に手を入れ、鞄を探し出す。
「……」
ヨウナは、そんなルナマリアを、じっと、見つめた。
「あったぁ!」
夕暮れも近付いた頃、ルナマリアは水浸しになってしまった鞄を、池の中から引っ張り出した。
「それです!ありがとうございます!」
池から上がり、ルナマリアから鞄を受け取るヨウナ。
「本当に…本当に、ありがとうございます」
涙を瞳に浮かべながら、何度もお礼の言葉を告げる。
「いーえ。中身、大丈夫?」
「あ、はい」
ルナマリアの言葉に、ヨウナは慌てて鞄を開け、中身を確認する。
「……そのノート、どうしたの?」
隣で一緒に見ていたルナマリアは、その中の、ノートを見て、今までの笑顔から、真顔に変わった。
ビリビリに破られ、カエレ!と赤く記されたノート。
「これ…は…」
言いづらそうに、目を伏せるヨウナ。
「その、あの、えっと…」
「……ヨウナ、イジメられてるの?」
ハッキリと尋ねると、ヨウナは、長い沈黙の後、コクリと、頷いた。
「あ、でも、その……それは、私が、出来損ないだからで……」
ルナマリアが全ての項目でぶっちぎりの最下位をとっているから、あまり目立たないが、ヨウナもまた、全てで下位の成績であり、特殊枠で、目立った力を発揮出来なかった。
イジメは、ルナマリアだけでは無く、ヒロインであるヨウナもされていた。
(……知らない)
ゲーム内でそんな事があったなんて、ルナマリアは知らない。
プロローグの一環で『学園生活、辛い事もあるけど、頑張ろう』ってヒロインが言う台詞があるけど、まさか、その辛い事の1つが、これ?イジメ?
それとも、何?
まさか、私の存在が、イレギュラーを、与えてる……?
「仕方無いんです……私自身も……この学園に相応しく無いって、分かっていますから……」
私も自分自身に思った内容を、ヨウナも同じ様に、自分に向けて、言う。
「私の性で……騒ぎを、起こしたく無いんです……」
悲しそうに、ヨウナは小さな声で、言葉を発した。
それは自分が落ちこぼれだから、イジメられても仕方無い。と、聞こえた。
「私も、そう思っていたけど…」
「え?」
自分が落ちこぼれだから、多少の事には目をつぶってあげてるつもりだった。
無視や悪口なんて、何とも思っていない人に言われても、私は何も響かないし、平気だし、机も、元に戻せば良い。
ノートも、勉強をまともに聞いていない私は、新しいのに交換してもらえば良い。
ただ、私は自分の物を取られても、取り戻す事が可能だし、水をかけられそうになったら、逆に魔法でこっそりやり返していて、多少では無い事は許さなかった。
波風を立てたくないから、何もしていないフリをして、気にも止めない。
実際、全く気にしていなかった。
でも、私のそんな、何も気にしていないこの態度が、いじめっ子達を増長させてしまった。
目の前のヨウナは、自分とは違い、とても、傷付いているのが、分かる。
(……よし、しばこう)
ルナマリアは心に決めた。
「ヨウナは落ちこぼれなんかじゃないよ」
「…え」
「冒険者でも無かったヨウナが、初めから全部、出来る訳無いよ。大丈夫。貴女は優秀だから、きっと、いつか芽が出る」
ヒロインの出自は、冒険者でも無い、ただの小さな村娘。
小さな村には学校も無く、ヨウナは家の定食屋の手伝いをしながら、生活していた、本当にただの普通の女の子だった。
「貴女には、誰にも無い、特別な力があるもの」
そんな彼女が学園に入学出来たのは、特別枠である、彼女にしか無い唯一無二の力を、評価されたから。
その特別な力こそが、この学園に入学出来たきっかけであり、魔王を倒す為の最大のキーパーソン。
「だから、大丈夫」
ルナマリアは、そっとヨウナの手を握り締めると、彼女の目を真剣に見つめ、再度、大丈夫だと口にした。
「ルナマリアちゃん…!」
ヨウナは涙を目に溜めながら、そんなルナマリアを見つめ返した。
***
場所は変わり、職員室ーー。
「先生!聞いているのか?!」
「はいはーい。聞いてるわよん」
ルナマリアと別行動をとっていた攻略対象達は、職員室にいた。
職員室で、モモ、カザンに詰め寄る。
「なぁにん?クラスでイジメが発生してるから、何とかして欲しいって話よねー?」
授業が終わっているからか、モモはまだ学園内にも関わらず、お酒を飲んでいて、片手に日本酒を持ちながら、フラン達に対応する。
「そうだよ!最近、特に酷いんだから!モモ達だって気付いてるくせ!」
「そりぁねぇー」
いじめっ子達の行動は大胆だし、ルナマリアは何度も、めちゃくちゃにされたノートを交換しに来ているのだから、教室達が気付かない筈は無い。
「だったら!何で何も行動しないの!」
「あのねぇん、ここは、普通の仲良しこよしの学校じゃないのよん?」
詰め寄る4人に向かい、モモはふぅ。とため息を吐きながら、述べる。
「自分の事は自分で対処して貰わなきゃ」




